捨てる神あれば拾う神あり

著者: 鯛下 文太

ふられた次の日のこと


Kにふられた次の日の夜、仕事を終えて家に帰ると家に電話があった。


電話に出ると高校のときに、1回だけ遊んだときにかわいいなーと思って電話番号を交換したSちゃんであった。


Sちゃんとは連絡を交換したものの1度も電話したことはなく、正直俺の中ではすっかり過去の人になっていた。

Sちゃんは「私は今、東京の専門学校に通っていて前に教えた電話番号だとつながらないから」と寮の電話番号を教えてくれた。

調子のいい俺は「電話ありがとー!次はこの番号に電話するよー!」と頭の中はすっかりSちゃんのことでいっぱいになってしまい失恋したKのことは本当にどうでもよくなってしまった。


その日から俺は毎日仕事の後にSちゃんに電話した。Sちゃんは介護の専門学校に通っていて当時は介護というと、あまりなじみはなく「Sちゃんは介護を勉強してる、なんてやさしい女の子なんだろう。」と俺の中で作りあげた理想のSちゃんはどんどんふくらんでゆき


彼氏彼女の関係になりたいという気持ちは日に日に強くなっていった。


当時若者はみんなポケベルを持っていた。ポケベルというのは番号があり、それに電話すると番号をプッシュホンで打って短文だがメッセージを送れるのである。


ポケベルに送られてくるメッセージには「キョウハタナバタダネ」「ホシミエナイネ」など、少しすれたような女の子としか出会いのなかった俺には感動モノだった。


七夕を意識してるなんてなんて純粋できれいな女の子なんだろー!七夕に星を見たがるなんてなんてキレイな心の持ち主なんだろー!と、たったそれだけのメッセージに有頂天になっていた。


こんな純粋できれいな女の子他にはいないと、勝手にSちゃんを決めつけ虚像はますます大きくなり、その虚像に惹かれて恋をして告白をした。Sちゃんは俺の告白を受け入れてくれた。


短い遠距離恋愛(ごっこ?)がはじまった。

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