④マグロ詐欺を繰り返していた詐欺師集団と戦った話

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「いえ、ターゲットは日本ではありません。メインはイスラエルです。私の会社はご承知の通りイスラエルの国営企業と取引をしています。」


「イスラエルをはじめヨーロッパ諸国では空前の日本食ブームになっています。日本人がマグロの目利きをしてきちんと柵を取り、真空パックまですれば買いたいと希望している企業はあり、国営企業からも輸入したいとの要望は出ています」




「しかもユダヤ人は世界中に商圏があります。商品の評判が良ければ世界中から注文が来ます。投資したいと申し出るユダヤ人も出るのでは無いでしょうか?弊社も決済で伝票を通して頂ければ結構です。御社にとって決して損な話ではないと思います。」




ガマ社長と女形の社長と顔を見合わせうなったのは訳がありました。この話、実はすべて本当の話だったからです。


マグロは世界中で獲れますが、当時日本人が目利きをして真空パックなどしてくれる企業がありませんでした。


しかもフィリピンはヨーロッパ地区のハブ空港化しておりヨーロッパのほぼ全域に直行便が就航していました。ガマ社長の工場はマニラ空港からも近い。これほど有利な場所はそうそうありませんでした。





「マグロだけではありません。ウニやアワビもフィリピンではうまいと有名です。これらをすべて寿司ネタカットにしてまぐろと混載して販売すればヨーロッパのお客さんはきっと飛びつきますよ。」




私はこれだけの設備があるのならまっとうな商売でも十分に稼働できると思っていましたが、彼らには「これで新しいスポンサーが見つけられる」と考えていたようでした。



今まで警戒していた二人の顔が急に和やかになったのも彼らの頭の中にお金が回り始めた証拠でした。




「これからうまくやっていけそうだ、今晩うちでメシでも食べてってください。」




港が見えるガマ社長の自宅のコテージでバーベーキューパーティーが催されました。レチョンという子豚の丸焼きや獲れたての海産物をガマ社長専属の料理人が炭火で焼いてくれ、若い従業員が料理を運んでくれます。




ガマ社長、女形社長、そして私と三人に対しサービスする従業員は8人。それはとても凄いおもてなしでした。特に地元で獲れたマットクラブは臭みが無くみそもたっぷり詰まっていてとてもおいしかったです。




「マッドクラブがお気に召したようですね、おい!追加をすぐ用意しろ」



ガマ社長は特に上機嫌、特別にと大切に保管してあるワインを開けるほどでした。



「今日は気分がいい~。ホテルはキャンセルして私の家に泊まってってください。女形社長もホテルがもったいないといつも私の家を利用します。」




ガマ社長の家は白い外壁の洋館で、メインベットはらせん階段で二階まで続くメゾットタイプの大きな家でした。奥さんはマニラのマンションにすんでおり、ガマ社長は一人でこのお屋敷に住んでいました。




翌日もミーティングがあるとガマ社長の申し出を断り、私はボディーガードが待つ車の中に乗り込みました。




「いや~フィリピンのマッドクラブがこれほどおいしいとは思ってなかった。そっちはどうだった?」




「こっちは云われた通りすべて準備が整いました。いつでもOKです。」




翌日の午後から弁護士とNBIの署長を含め打ち合わせをしました。通常結審まで何十年もかかるフィリピン国内での裁判も外国人が対象となった場合、例外として審議を早めてくれるそうです。それでも結審まで最低でも2年はかかるとの事でした。




いくら物価が安いフィリピンと云えど、一流の弁護士の費用はそれなりに高く、また、NBIの応接室も協力金の名目である程度「家賃」を払っていました。




先日何とか手形決算をクリアしたものの会長の和菓子工場の経営が軌道に乗ったわけではありません。このまま2年も結審を待っていれば会長の会社が持つかどうかわかりません。




マニラのホテルにある日本料理屋に特別に和食弁当を作ってもらいNBIのオフィスで菊池さんと夕食を取りました。




「しばらく日本食ともお別れですね。有罪になったら何年くらい懲役になるんでしょうね」




「大丈夫、ある程度向こうの状況もわかってきました。早く裁判が終わるように、そして無罪になるように頑張りましょう」




私の投げかけた新しいビジネスに乗り「もう菊池などどうでもいい」と彼らが判断すれば裁判も早く終わるでしょう。しかし「我々の邪魔をする者は一生刑務所に入れてやる」と彼らが固執すれば益々状況は悪くなります。少なくても明日の裁判にすべてはかかっています。




やる事はすべてやりました。しかし、相手の手の内のすべてが分ったわけではありません。まだまだイニシアチブは向こう側にあります。緊張でなかなか寝付けず公判の日の朝を迎えました。




マニラの裁判所は物凄い人でごった返していました。日本で例えるなら「運転免許センター」のようなイメージです。矢継ぎ早に部屋から人が一斉に出て来てはまた次の裁判が始まるといった状況でした。囚人専用のトイレなど無く、傍聴人も囚人も一緒になって用をたします。




「へ~っ、マニラの囚人ってみんな同じオレンジの囚人服を着ているんだ」




「いえ、罪状で囚人服の色が違います。オレンジは殺人や強盗など重罪犯です」




「えっ?さっきトイレの中で私ひとりオレンジに囲まれてたよ?」




「はい、すべてが殺人者です。」



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