素顔10代な平凡OLが銀座ホステスとして売れっ子になるまで(14)
泣いても笑っても
泣いても笑っても月曜日はきて、そこにはいつもと変わらない日常があった。
ただ、唯一いつもと違っていたのは私の内側だった。
泣き腫らした目をしたままそれを厚化粧で覆い隠し、私は夜の銀座に出勤した。
心の中に、大きな闇がトルネードを巻いているような気持ちだった。昨日から、何も喉を通らない。
食べたい、という気持ちはあるのにも関わらず何かを口にすれば戻してしまう。
ひどくみじめな気持ちだった。

同伴の約束をしていた大島と銀座の交差点で会うと、私は空元気を見せて彼の腕に手をまわした。
仕事をしなければ、そんな仕事意識が私にそうさせた。

大島は意味ありげにそういうと、それから深くは突っ込んでこなかった。
その月曜日の夜はひどく静かだった。銀座は人影もまばらで、プラネットもお客は少なく夜の11時頃まで私は大島の隣で一緒に飲んでいた。
少し、羽目を外しすぎたのだと思う。大島とアフターの銀座の店に行ったころには、私はお酒でべろんべろんになっていた。
プラネットから少し離れた大島のプライベートのバーに行くと、薄暗い空間に少し落ち着いて私はつい話を切り出した。お酒の力が、あっという間に自分から抑制力を失わせてゆくような感覚になっていた。
そんな話、お客にしたとわかればママにも怒られてしまったことだろう。いわんや夜の店で自分の彼氏の話題を出すことなどタブー中のタブーなのだから。
それでも、私は喉元からこぼれてくるような思いを押さえ続けることができなかった。
後の言葉を飲み込むようにしてうつむいてしまった私は、大島が頼んでくれた真っ赤なカクテルを目の前にして言葉が継げなくなっていた。
そして大島はそんな私に、無理やり話をさせることもなくただ黙って私の考えがまとまるまでそばにいてくれた。
薄暗いバーの、カウンターの反対側にはまた別のアフターのカップルが座っているのが見えて、彼らのクスクスと小声で笑う声がどこか遠い世界のことのように感じられた。
大島の配慮に感謝をしながらも、私は大島の広い肩に少し体をあずけ、頬に伝う小さな涙を拭くこともせずにいた。
肩越しに彼の温かい体温と、私を気遣う気持ちのようなものが流れ込んでくるのを感じた。
こんなに人って温かかったっけ?
そんな風に感じながら、お互いに無言で目の前のお酒をちびちびとなめるように飲む。
それは人生で一番長い、銀座の夜だった。
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