子どもを亡くして社畜をやめた話③山手線でローキック
「それじゃ出来ねー理由になってねーんだよ!!!!」
ドン!!グシャ!!バキ!!
という具合で壁に穴を開けてしまうからだった
このイベントは日夜ランダムに発生し
オカダ課長ですらそのターゲットになることがあった
そんな時
社畜部のオフィスはシーンと静まりかえり
机を蹴る音だけが響き渡るのだが
そのタイミングでカーネル部長のいびきが聞こえてきたりすると
もはや仕事どころではなく
ただひたすらその時を
彼ら2人が帰宅の途に就くまで
ターゲットとなっている同僚と共に耐え
残務処理は夜中に回し
すなわち今日も元気に会社泊となるわけであった
山手線でローキック
ある日同僚が足を引きずりながら
青い顔をして外回りの営業から戻ってきた
ただ事では無い雰囲気に
どうしたのかと声を掛ける間も無く
部長代理が続いてオフィスに入ってくると
「山手線のホームでローキックしちゃったよ!」
「ごめんね~」
と猫なで声で同僚に擦り寄ったかと思えば
「てめーがワケワカンねー営業してっからだからな」
と凄みを効かせてまた出て行ってしまった
同僚はその後1週間
足を引きずったまま外回りの営業に出ていた
ここまで書いていて
なぜおれはあの環境で働いていたのか
今となっては全く理解が出来ない
ブラックどころか
普通に傷害事件である
今同じことが目の前で起きれば
即辞表を書いて
同僚を連れて警察にgoだろう
が
その頃のおれはそんな行動を取るなどという考えを
微塵も持ち合わせていなかった
とにかく社畜部で業績を残し
ビリケン社長に認められ
また
部長代理のターゲットにならない様にする事
それがおれの行動原理となり
その為に仕事に没頭する
仕事に没頭している時間はエキサイティングであったし
その結果なにかが手に入るはずだった
おれはあの頃
色々な欲望に駆られていた
他人が公共の場で暴行を受けたと聞いたところで
自分の身に降りかからない様にする策を練るばかりで
かわいそうとすら思わなかった
蹴られた同僚はそれから数ヶ月後
静かに退職していった
そして
そんなブラック社畜生活が続く中
妻は妊娠していて
お腹の中の胎児は成長を続けていた
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