子どもを亡くして社畜をやめた話③山手線でローキック

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子どもを亡くして社畜をやめた話③山手線でローキック


ビリケン社長

おれがその会社に入社したのは
創業社長が亡くなり
現社長が就任した2年後のことだった


現社長は創業社長の愛人の連れ子で
血縁関係は無いはずなのだが
何故か創業社長の一存で就任が決まったらしく
創業社長は彼に席を譲った直後に病死している


当時彼はまだ30代半ばという若さで
前職は全くの異業種であった


現社長は引きつった作り笑顔が特徴的で
ビリケンさんに似ているので
ここではビリケン社長と呼ぶことにする



創業社長の死後
当時役員だった本妻派とビリケン社長派に分かれ
相当なすったもんだがあったらしいが
この辺の話には興味が薄かったせいもありあまり覚えていない


ただひとつ言えることは
このエピソードだけでも既に典型的なブラック臭が漂っており
人間関係において面倒な火種を抱えた組織であるということだ


しかし


あの頃のおれは
今ほどにブラック企業に対して敏感では無かったし
まさかその喧騒に自分が巻き込まれ得るとは思っていなかったから
入社後にその様な噂話を聞かされたところで


「昼ドラみたいだな」


という程度の感想で
特段気にも掛けていなかった


それよりも


当時のその会社の成長速度には目覚しいものがあり
おれの興味はその一点にしか注がれなかった



おれは色々な欲望に駆られていた




セミナー大好き

ビリケン社長はいわゆる社員啓発セミナーに傾倒していた


内容はありふれたものなので省くが
あまりイメージが湧かない人は
餃子とか寿司とかのチェーン店舗のソレ
youtubeにいくらでも落ちてるので見て欲しい
それを少しライトにして肉体的な負荷を減らしたものが
おれの受けたセミナーのイメージである


そのセミナーは会社の規模には合わないほどに
金と時間を掛けたもので
運営会社の講師とビリケン社長
どこぞの経営者飲み会で知り合ったという事だった


今思えば
ビリケン社長は助けを求めていたのだろうと思う


肩書きは社長でも
古参社員には妾の息子と裏口を囁かれ
隙あらば足元を掬おうとする者か
社内政治上の優位を築こうと擦り寄る者ばかりで
本質的な協力は得られていなかった様に思う


それでも能力が突出していれば気にかけるまでもないが
良く言って「性格の良い人」で
若さというアドバンテージがあるにせよ
仕事の面では概ね凡庸な人物であった


自分が言葉足らずなために
足を引っ張る古参のフィルターを介さずに
理念を打ち出し社員に伝える足がかりとして
社員向けの啓発セミナーを選んだのだろう

しかしなんということはない

おれはこのセミナーにどっぷり漬かってしまった


おれの元来の性格から
「せっかく参加するなら本気でやらないと損」
という真っ向勝負の姿勢で向かっていった結果


もともと仕事に対するモチベーションが高かった事もあり
相乗効果によって見事に
盲目的な長時間労働型の社畜への道を進み出すきっかけとなった


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