酒とオレと 〜さようなら平成〜

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37歳だった。
ある意味、ドキドキしていた。

「ここ(派出所)でいちおう書類は作るから。あとは深川警察署の方に行ったほうがいいな。電話しとくから。この道まっすぐいけば行けっから」

本格的な盗難事件ということで、署の方に行くことになった。
ここからママチャリで3分ぐらいの距離だ。

犯人はローソンでの金券購入を終え、次の犯行に及んでいるかもしれない。時刻は11時を過ぎていた。
深川警察署は消防署も併設されていて、重厚感のある建物で、僕が過去に訪れた警察署の中でも最高峰な外観だった。

入り口近辺で簡単な受付を済ますと、若いお巡りさんが迎えにきてくれて、上階の取調室のようなところに案内された。
「昨日、路上で寝てしまったら、全て盗まれてしまって。盗んだカードが早速悪用されてるみたいで。家の鍵も盗まれているんで、早く捕まえて欲しいんです」

僕は焦っていたので、早口で状況説明をまくし立てた。こんなに重厚な警察署にきたのだから、プロの犯罪者に対抗して、プロのお巡りさんに頼めば、とっとと捕まえてくれるに違いないと信じていた。我らのニッポン警察が、技術とノウハウを駆使して、チョチョイのチョイだ。

「ローソンの防犯カメラとかに映ってるんじゃないですかね。すぐ調べれば顔は分かりますよねこれ。」

とにもかくにも、本署の方に「早く捕まえてくれ」と必死にアピールした。

若い警察官は一応頷きながら調書を書き進めていたが、それほど真剣に聞いてる様子はなかった。

「相手は既に20万ほど盗んでいます。免許証も名刺の盗まれています。家の住所もバレてますし、家の鍵も盗まれています。僕のマンションの周辺などパトロールを強化してもらえないでしょうか?」

「手慣れた手付きなので、複数犯の可能性もあるかもしれません。犯人グループはもっと金銭を強奪できると思っているに違いない。早く捕まえないと重大な事件に発展する恐れもあります」

僕はとにかく早く動いてもらえるように、泥酔刑事汚名返上な推理トークを繰り広げた。

ただ、ホンモノの警察官にとってはこんな一般市民の焦りっぷりは日常茶飯事のようで、僕の危機感にはピンときていないようだった。状況を報告して書類を作成するのにまた1時間ほど時間を要した。時間は刻一刻と過ぎていく。僕の中のジャック・バウアーがイライラしてくる。1分1秒も無駄にしなくない、見えない敵と戦っているようだった。

あっさりと警察署での手続きを終え、未だ二日酔いで朦朧とする中、再びママチャリを漕いで自宅に向かった。

頭の中で「次はいったい何をすればいいのか?」と自問自答を繰り返していた。
高速でPDCAを回さなくてはならない。
相手は今にも次の攻撃を仕掛けてくる可能性がある。

あ、そうだ、家の鍵も早急に変えておかなければならない。
免許証の再発行はまあ普段車に乗らないので後回しでいいだろう。
携帯はどうする?これもこの休みのうちに新しいものを買っておかないと、週明けの仕事に支障をきたす。

徐々に気持ちを落ち着かせようと、深く呼吸しながら、自宅マンションのエントランスに到着する。ズボンのポケットに手を入れるが、鍵がない。あ、そうだ、鍵は持っていなんだった。自分の家なのに、インターフォンを押して、妻にあけてもらわなければならない。

僕の自宅マンションはまず1階のフロントエントランスを入る際に、鍵をタッチして自動ドアを開けないと中に入れないシステムだ。自室の番号を押して妻を呼ぶ。

「ピーンポーン」「ピーンポーン」

3度ほど押しても反応がない。

ちょうど、他の住民が出てきたので自動ドアが開いた。僕はそのままマンション内に入って、急いでエレベーターに乗り込み自室に向かった。自室の扉の前に着いた。鍵のない僕はまたそこでインターフォンを押した。

「ピーンポーン」「ピーンポーン」

ん?反応がない…。

なんでだ。。。


自宅には妻と1歳になる娘が待っているはずだった。
乳飲みな幼子を育てているので、まだ外出することも出来なかった。

扉をドンドンと叩いて、「おーい、あけてー」と声を出してみる。

反応はない。静まり返っている。

「まずい、、まずすぎる。。。」

僕の頭の中にプロの犯罪者の顔がよぎった。
相手はプロ中のプロだ。

免許証で僕の顔もバレている。僕が警察署に行ってるのも、分かっていたのかもしれない。
僕がマンションを出た後、持っている家の鍵を使って侵入している可能性が極めて高い。

僕は急いでエレベーターを下って、マンションの管理人室に駆け込む。

「すいません、、僕の部屋の鍵を開けてください。犯罪者が侵入している恐れがあるんです!!!」

メガネを掛けた滝廉太郎のような管理人のおじいさんは何のことか分からないといった表情をして、
「こちらでは合鍵がないので開けられないんですよ」とつぶやいた。

頭がパニックになった。気が動転して口から泡を吹きそうだった。


扉を開けるにはどうしたらいいんだ。。
合鍵か。。
あ、確か、妻の母親がもっているはずだ。

妻の母は2駅先の中央区月島に住んでいた。
今日は土曜日なので仕事も休みのはずだ。タクシーで1,000円ぐらいでいける。

あ、、、オレ、所持金ゼロだったわ。。。

妻に借りていた携帯で妻の母に電話した。

「すいません、至急で家の鍵が必要なので貸してください、今から向かいます」

ママチャリで片道15分、距離にして3kmぐらいだろうか。

これは1分1秒を争うかもしれない。

既に犯人は僕のマンションに侵入している。
妻と娘は犯人と鉢合わせしているはずだ。犯人は複数犯かもしれない。

自宅で妻と娘が監禁されているシーンが脳裏をよぎった。

「ぐおおおおおおおおお!!」

精神が混乱し、今まで出したことのない声量の絶叫で半狂乱状態でママチャリを漕いだ。
人生で最も本気を出して「全力」を出したかもしれない。

1秒でも早くマンションに戻らないとまずい。。。

強度の二日酔い状態での半狂乱での全力漕ぎで、道半ばの門前仲町の交差点で嗚咽しそうになった。

まずい、、マズすぎる。。

全力疾走を15分もすると人は呼吸困難になり、ホントに倒れそうになる。
でも、ここで全力を出さないと人生が大変なことになる気がした。

「うががががーーー、マズイィィィィ!!これはまずすぎるぅぅぅぅ!!」

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