アホの力 4-7.アホ、『前向き』に疲れる

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著者: 戸田 光司
そもそも私の中で『リハビリは辛く苦しいものだ』というイメージがあった。その辛く苦しい事に取り組んでこそのリハビリなんだと思っていた。
そんな風に、歯を食いしばってリハビリに取り組むという事への抵抗感があった。『そんなに苦しい事をやりたくない』という抵抗感だ。
初めの数日は『『リハビリをしましょう』と病院が言うから、嫌だけどやるしか無い』という気持ちでリハビリに取り組んでいたのだが、南相馬に帰りたいと思い始めてからは、それが変わってきた。
『回復したいなら、辛く苦しいリハビリに、強い気持ちで取り組まないと』
『前向きな気持ちを持って、プラス思考で頑張らないと』
と、自分を奮い立たせる感じだ。

実際にリハビリに取り組んでみると、始めのうちは大きな効果が出た。理学療法で体を横たえたら起き上がる事が出来なかったものが、身体の使い方を練習する事で起き上がる事が出来るようになった。言語療法で不明瞭だった言葉が聞き取りやすくなった。
『やればやるほど効果が出るんだ』
『動くようになると信じて、プラス思考でどんどんリハビリをこなしていこう』
そう思った。
とにかく気持ちが大事なんだと。

だが、そんな時期は初めの2〜3日だけで、依然として麻痺した身体は殆ど動かないままだ。
その段階になっても
『強い気持ちで、プラス思考で取り組もう』
と思っていた。確かにリハビリをすれば、ほんの少しずつ(例えば前日より腕が数ミリ上にあげられるようになったとか)改善が見られた。
しかし、リハビリの効果は一進一退。昨日は少し動いたのに、今日は全く動かなくなっているなんて事はザラだった。
そんな中で『もっと前向きに』と思っていると、自然とこんな思考になっていく。
『少し動いたが、まだまだこの程度では回復とは言えない。もっともっと頑張らねば』
だがいくら頑張っても、効果はなかなか上がらない。

そんな中で、前向きな気持ちになろうとする事に疲れてしまうのだ。
前向きに、プラス思考になろうとする事に、ものすごくエネルギーを使ってしまう。
そうなると、効果が上がらない事に物凄くイライラしてしまう。
そこでさらに、
『前向きに頑張れない自分はダメなやつだ』
と自分を責めてしまう。

これは…どういう事だろう?
これに耐えなければいけないのか?
何か違うのかもしれない。
そんな疑問を抱き始めたのが、リハビリ開始から1週間ほど経った頃の事だった。

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