プロフィール第九回

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著者: 星野カンナ
勤めている運送会社への出勤早々。
事務の仕事の一環として、電話対応に追われます。
お客さんからの「品物を早く届けてほしい」という問い合わせ内容を承った私は、配達部へ電話で相談します。すると、あいもかわらず、「断れ」だのと理不尽に怒鳴られてしまう。
けれど、徐々にですが、怒る人の特徴がわかってきて、ちゃんと仕事してもらうにはどうしたらいいか?考え始めました。
たとえば「品物を早く届けてほしい」というお客さんの要望を伝え、その要望どおりに怒る人を動かすにはどうしたらいいか?などなど。
「品物を早く届けてほしい」とストレートに言うと、「忙しいから無理」と断られてしまうことが多いと感じました。
そこで頼み方を変え、お願いしてみることに。
すると反応が良くなったことに気づいたのです。いつもなら、「無理」の一点張りでしたが、「仕方ないな」というような返事になったのです。成功率8割以上でした。
相手は変わりません。これまでもそうだし、これからもそうしていくんだと思います。
だから私自身が、工夫したり、良い方向に変えていくしかなかったのです。
世の中にはブラックなカラーの会社があると思います。
私の勤めていた会社は、ドブのような色だと思っていました。ドロドロ腐敗した色。空気はよどみ、働く人に生気は無く、薄汚く荒れている。実際、犯罪もありましたし。
そんなドブ色と私自身が同化してしまわないよう、あがくように工夫をこらし続けました。
まず外見には気を配っていました。ネイルサロンに通い手先を小綺麗にしていました。デスクワークなので爪が視界に入りやすいため、その爪がキレイだと嬉しくなるのです。髪の毛もカラーリングしたり、エクステを付けたり、トリートメントをしたりしていました。
会社は制服なのでオシャレに着飾れませんが、それ以外の出来る範囲でドブ色に染まらないよう、あらがっていました。
自分のデスクまわりの持ち物にも気を配っていました。ペンやメモ帳、クリップなどの事務用品は可愛い色や形のものを買っていました。出来るだけ気分があがるようなものを使う。ドブ色に侵食されないよう、ささやかな抵抗でした。
会社は掃除が行き届いていないためか、薄汚く荒れ、空気も悪かったです。そして心が荒んだ人ばかり。いろんな意味でケア不足な状態でした。
休憩中に雑誌を読むのもささやかな抵抗でしたが、休憩は近所のコンビニまであえて行くこともありました。外の空気に触れ太陽にあたることで清められた気分になれます。雑誌の最新号も入荷していたら買っていました。
就職したこの運送会社では、総務の仕事を任されました。最初は長年庶務をしている上司の補佐役でしたが、一年後、その上司が転勤となり私が総務を受け持つことになりました。
初めての働くということは、戸惑うことの連続でした。創意工夫を重ね、自分なりに仕事というものを学んでいったように思います。やがていろんな仕事を任されるようになりました。
「これどうするの?」「これお願い」「これよろしく」
などと言われ、出来る限り引き受けるようにしていました。自信もつきました。
ある時、私の電話対応を後ろで聞いていた課長が「君は、営業が向いているかもしれないね」と言いました。
またある時は、よく電話対応していたお客様が来社され「いつも丁寧な接客をしてくれて」とお礼を言ってくれました。お菓子をもらったこともあります。
思いがけないことだらけで私は驚いてばかりでしたが、仕事のしんどさや、下積みというものを経験していったのです。
ドブ色に染まらないよう、あがきながら。

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