ボーダーの私が『普通』になるまでの物語⑤

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著者: Saito Aki

男の人を好きにはなれないの?

という不安が少なからずあったのは確かだ。

 

だから一番痛いところをストレートについてきた医者にキレた。

 

それ以来その人が嫌いだ。

 

医者が嫌いになった。

 

もしかしたらその人のことを男の人として気になっていたのかもしれない。

未だによくわからないし、今となっては曖昧でもいいかなと思う。

ただ、当時の私は何かを感じていたのは間違いない。

 

 

 

入院生活の中で、人間関係を築きたくて私はタバコを吸い始めた。

 

喫煙室はコミュニケーションの場。

 

タバコを吸う人たちは仲良くなれて、喫煙室に入れない人は蚊帳の外みたいなそんな感じだった。

 

タバコを吸えば仲間に入れる。

タバコを吸えば過食衝動がまぎれる。

そんな気持ちもあり私はタバコを吸い始めた。


まさか自分がタバコを吸うとは思ってもみなかった。

それからしばらくは吸い続けたが今は禁煙に成功している。



母親との関係は相変わらずだった。


母親がお見舞いに来ると嬉しいのに最後にはイライラした。

母親の声が聞きたくて公衆電話から自宅に電話をする。

何を話してもだいたい電話の途中でイライラしてガチャ切りしてしまう。

 

気持ちが揺さぶられる。

 

母親は誰よりも何よりも私の心を揺さぶる。

母親の言動は私を嬉しくも悲しくもさせる。

 

悲しみはすぐに怒りに変わるんだ。

 

当時の私はそれがとてもつらかった。

 

この病院では本当にいろんなこがあり、たくさんのことを経験した・・・。


今となっては良かったと思えることもあった。

それは入院中いつも迷惑をかけていた看護師さんの一人の言葉だ。

 

相変わらず自分の気持ちをコントロールできず、看護師さんに死にたいと言っていた時、相談にのってくれた看護師さんは、

 

「死んだら楽になるって誰が言ってたの?」

 

といった。

 

「え、、、」

 

何てことないと思う人が大多数かもしれないが、私にはかなり衝撃的な言葉だった。


「確かに・・・」


私は、今がつらいから死にたいと思っていた。

このしんどい世界から逃げたい。ついらいことから逃げたいと思っていた。

【死=楽】と思っていた。

 

だけど、その看護師さんに、

「死んで戻ってきた人はいないでしょう?だったら死んでも楽になれるかはわからないよ?」と言われた。

 

当時の私には衝撃的だった。

 

【死=楽】と思い込んでいた私は、その看護師さんの言葉に妙に納得してしまったのだ。

 

それから死ぬことへの考えが少し変わった。

 

つらいことから逃げるために、ストレス発散のために自分を傷つけることはあったけど、その行為は【=死にたい】ではなかった。


私はただこの現実から逃げたかっただけ。別に死にたいわけじゃない。

それからの私は“死にたい”と思うことは少なくなった。

 

 

 

 

それでも不安定な状態は続いた。

3回目の入院のとき、私はとうとう保護室に入ることになった。

理由は同じ部屋の子の洗顔フォームを私が飲んだからだ。

 

同部屋の子は何も関係ない。

 

ただ、私の気持ちがおさえられなくなった時、目の前にそれがあっただけ。

 

相手がどう思うかなんて何も考えていない。考えられない。

 

案の定、友達には嫌われ、話をしてくれなくなった。

 

友達を一人失った。

 

 

保護室は独房のようなところだ。

 

監視カメラがあり24時間監視されている。

 

自殺防止のために窓やフック、布類なども一切ない。

 

あるのはトイレと布団だけ。

 

私はそこでたんたんと生活した。

 

たまにイライラしすぎて過呼吸になったが誰も助けにきてはくれない。

 

たぶん私の過呼吸が「本気」ではないことがバレていたんだろう。

 

22歳。クリスマスとお正月をそこで迎えた。

 

私は真剣に神様に祈った。

サンタさんにもお願いした。

 

この頃の私は成人した子どもだ。

 

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ボーダーの私が『普通』になるまでの物語⑥