ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で関西大会に出た話(17.あきらめた時に夢は終わる)

著者: 岩崎 吉男

⒘あきらめた時に夢は終わる

 

この試合を最後に3年生は、引退することが決まっていた。

 試合が終了して、関西学院大学の教室で着替えた後、ミーティングが開かれた。

重苦しい雰囲気の中で、誰も口を開かない。教室には着替えのために無造作に閉じられたカーテンの隙間から、僅かな光がさし込んでいた。その窓から細長くこぼれ出るような光に照らし出された教室が、僕にはいやに広く感じられた。

全員が揃うとU先生が静かに口を開いた。

「わしが悪かった。パントを蹴っておくべきやった。おまえらに責任はない。わしの判断ミスや、すまん」

U先生は僕らを前にして頭を下げて謝った。こんなことは初めてだった。目にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見えた。

そのとき、後ろに座っていたWkが突然大声で泣き出した。

「泣くな・・・」

Yの怒鳴り声が静まりかえった教室に響き渡った。同じ地域から電車通学していることもあり、このWkをYは、弟のようにかわいがっていた。

 

 試合の翌日、3年生が学校にやってきた。

3年生は、一旦これで引退する。昨日、U先生も交えて3年生全員で話あっていた。2年生以下を先に帰して3年生とU先生が関西学院大学の教室に残った。

そこで、U先生が僕らを前にしていった。

「ええか。夢は、あきらめたときに終わるんや。そやから、夢はあきらめるまでは絶対に終われへんのや」

「お前らには、関西大会出場という夢があったはずや。普通は、春の大会であきらめるわな。他の学校はみんなそう思うとる」

「そやけどな。秋の大会に3年生が出てもええんやで。受験勉強があるからというて、他の学校は出えへんけどな」

「お前らが夢をあきらめへんのやったら、わしはお前らを絶対に関西大会に出させたる。どうや。秋までやるか」

U先生がそういったとき

「俺らはやるは」

Yが立ち上がって、一番に答えた。

続いてみんなが、一斉に立ち上がった。

「先生、やるで、俺らを関西大会に連れていってくれ」

みんながせがむようにいった。

「わかった。夢は生きとる。死ぬ気でやれ」

U先生はじっと前を見つめて神妙な顔つきでいった。

 

3年生は夏休みの盆明けまで、一旦引退して、受験勉強に励む。盆明けからまた、練習を再開して秋のリーグ戦に出場する。もちろん、秋の関西大会出場が目的だ。

 普通は、高校3年生は、夏休み前に部活を引退して受験勉強に専念する。僕らは、これを狙っていた。他の高校は、秋の大会には3年生は出場しない。だから3年生が出場すれば、勝てる確率が大幅に増えるという理屈だ。

 その代わり、大学入試を犠牲にしなければならないが、僕らには、そんなことはどうでもよかった。

 以後、三木高校では、この伝統が守られ3年生は秋の大会後に引退する。

3年生は8月まで一旦引退となった。

とはいっても急に受験勉強の態勢になれるわけもなく、僕らは皆、手持ち無沙汰であった。

授業が終わっても、すぐに家に帰るわけでもなく、教室に残って雑談をする日が続いていた。

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