カビとの対話(追補版)

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「言っただろう、わしらは大自然の働きの申し子みたいなものだということを。」

「大自然の働き・・?」

「そうじゃのう~、ひとことで言うと、大調和ってことかの~う・・・・。

あんたたちからは、いろんなことに対して、『調和』しているとか、『不調和』になっているとか言うだろう。けれどじゃ、どちらも『大調和』の中にあるということかな。

たとえばじゃ、ひとが病気になったしよう。あんたたちから見ると当然これは『不調和』の状態だと言うだろう。けれどもこれも『大調和』の働きなんじゃな。

『調和』していない状態、不調和にあるとすると、『調和』する状態に戻ろうとする働き、これを大きくながめて見ると、それは『大調和』の働きというわけじゃね。

じゃが、『調和』の状態にあるときは、そのままでよいから働きが起こる必要も無いというわけじゃな。

これが大自然の働きのなかに組み込まれているというわけなのじゃ。」

(ばい菌のクセにえらい哲学的なことを言うな・・うさんくさい・・人間くさい・・)

なんだか、わけの分からない事をばい菌から聞かされ、オレはうんざりしながら。

「そこに、なんであんたがたの出番と言うか、仕事があるんですか?それでは、ばい菌やウィルスそのものが不調和な存在なのじゃあないですか?」

「あんたがたはすぐ小さい目で物事を知ろうとするからな。もっと大きな目で見ないと大自然の働きなどということは分わからんのじゃよ。

わしらより図体ばかり大きいくせにチッチャイ目でしか物を見れないんじゃから、困ったもんだわい。」

(ふん、よけいなことを言ってる)

「わたしもばい菌に説教を受ける気はないんですからね」

オレはばい菌ふぜいに説教されているようで不愉快だった。

「ところでどうだい、あんたたちは、わしらを目の敵にしてやっつけ続けて来た。けれども、その結果はどうなったんじゃい?

フフフ、怪しい雰囲気になって来たじゃろうが。

一部の学者はそれに気づいてきたようじゃが、まだまだ、あんたたち人間のほとんどは、今でもわしらがあんたたちの病気の原因だと思っているんじゃろが。」

「事実そうなんじゃないですか?」

「人類は伝染病を克服したなどと、高らかに宣言したのはついこの前だったはずじゃが、その舌の根も乾かないうちに、今度はわしらの新しい仲間の登場に目をしろくろさせているようじゃな。

なかでも、あんたたちが過去の伝染病などと言って安心していた結核でさえ、WHOでは、ここ十年の内には世界の死亡原因の一位になると発表したと言うではないかえ。」

ばい菌の古老らしき奴は勝ち誇ったように、笑みを浮かべているではないか。

「なんでそんなこと、ばい菌が知っているんですか?」

「ホッホッホホホ、ホ~ホ~~、わしらの仲間は世界中にいるってことさね。あんたたちが知っていることでも知らないことでも、み~んな知っているんじゃわい。

「・・・・・・」

(古老のばい菌はまた勝ち誇ったような態度で大きく笑う。(嫌みなやつだ・・)

「小さいからと言ってばかに出きんのじゃ。あんたたちのこまい細胞でさえも情報通信しているんじゃろう? なにも不思議がることはない。わしらも世界中のばい菌やウイルスの仲間と情報通信しているんじゃな。」

(インターネットみたい奴らだね)

「そんなことよりも、わしらの仲間に優秀なやつが出て来て、お前さんたちは困っとるじゃないかい?  なんて言ったかな、MRSAとかVREとか呼ばれていて、薬でやっつけられなくなって来た耐性菌なんぞがいるじゃろうが。」

(こいつオレの知らないことまで知っているとは・・)

「あいつらは、わしらのホープじゃのう。」

にやりとしながら、ばい菌は続けて話を続けるのだった。

「じゃがのう~、な~に、あいつらスーパー級をつくりあげたのはあんたたちなんじゃから。わしらは勝手に進化している訳じゃないんじゃよ。

それよりも、あんたたちは、いつまでわしらを叩き続けることを辞めないんじゃろうかねえ。

叩けば叩くほど強くなるのがわしらの性質だ、ということにそろそろ気がついてもよかろうにのう~。

むしろ、嫌うよりも好きになってくれると、わしらの出番も少なくて済むんじゃがのう~。

ウハハハ、むしろ愛してちょうだいと言いたいとこなんじゃよ。」

(だれが愛すか!こんな嫌らしいやつらを。)

「愛する?」

「ふっふふふふ~、どうも嫌われてばかりいても無理ないようじゃなあ~~、しょうがないのう~~。

さっきも言っただろう。

わしらは大自然の申し子の様なものなんじゃとね。わしらを憎んで叩こうとするのは、大自然を憎んで叩こうとする様なもんじゃな。

お前さんたちは、大自然を敵にして勝てると思うんかいな?

よ~うく考えてみるがよい。あんたたちも大自然の一部だということを。決して大自然の外側に居る存在ではないんじゃろうがのう。

それより、むしろ大自然のなかで守られているのが人間様じゃろう。

大自然を敵にして叩こうということは、自分自身を敵にまわして叩こうとしているという様なもんなんじゃ。」

「自分をやっつける?」

「気が付いたかな?わかるじゃろう、その意味が。」

「・・・・・・」

「なに~? まだ分からん?・・・・かたいの~う、イシが。それでイシあたまかいな。ホッホホホ~」

(くやし~~、ばい菌にばかにされている)

「もっと分かりやすく話してくださいよ!」

オレは怒りを押さえながらばい菌に言った。

「それでは、ちょっとだけかいつまんで話して見るかな。ウホン。」

(コイツ、ますます調子にのって来ている・・)

「あんたがた人間には、病気のことをもう少し話してやらんことには、わしらの仕事の役目も分かってもらえんようじゃからな。   ヤレヤレ・・・」

古老は、さもめんどくさそうな顔して見せながら説明に入った。

「あんたがたが病気と呼んでいるものの正体を知れば、わしらがいかに愛される存在だかということを知るだろうがね。

それでは、あんたがた人間様の嫌う、病気ってなんじゃろうかね。

病気の正体・・・、これをあんたがたが必死になって掴もうとして来て、いまだに本体を捕まえられなかったものじゃなあ。」

「それは、あなた・・いや、ばい菌やウィルスじゃあないんですか?」」

オレは憎々しげに言ってやった。

「その認識が、まだ浅いというんじゃよ~~。

病気の正体・・・・それも、わしらの事をも通り越して、もっともっと奥をさぐらにゃあ分からんのじゃな。

病気‥‥これも大自然の働き、大調和のなかで行われるひとつの働きと言うんだろうね。不調和の状態にあるものを調和の状態に戻してやるのが大調和じゃないのかな。

一見、病気という不調和の状態‥‥それを調和の状態に戻す、本来の姿に戻してやる・・

それから考えをめぐらしてみると、その不調和に見える状態も実は大調和だったというわけじゃ。」

「なんか良くわかんないですが・・」

(もうちょっとオレに分かりやすく言えよ、ナンデ!?ばい菌が哲学的なことを言うんだヨオ~)

「なにね、あんたがたが病気と呼んでいるのは身体の浄化作用なんだと言いたかっただけさね。」

「浄化作用?・・・あの、汚れたものをきれいにするという意味の・・?」

ばい菌の古老は、とつぜん手を打って喜んだ。

「あ、そうそうそう~~、そ~うじゃよ。あんた方人間の身体のなかのお掃除というわけじゃな。

ばい菌は急に愛想良くなってしまった。

「汚いものが溜まるから、その汚れを掃除してきれいにしてくれるんじゃな。そこに働く作用だから浄化作用といういうんじゃ。分かったかな?」

「汚れの掃除ねえ~?」

オレは半信半疑の思いで聞いていた。

「つまり、いまの状態よりも良い状態にしてくれるんじゃから、ありがたいんじゃ。病気はありがたいんじゃよ。病気になったら、ありがとうございましたと感謝するのが本当なんじゃがね。」

「え~~、だれが病気を感謝するってんですか。そんな奴いるわけないでしょ!だいいち、ちっとも感謝など出来るような具合の良い状況じゃないですよ。」

オレは反発して、正直な思いをそのまま言ってやった。

「ハハハハ、ハ~。無理もない。苦しいからの~、長いときもあるからの~、そのまま亡くなるヒトもいるからの~~ 無理もない、無理もない。気持ちも分からんでもない、このわしらでさえも、ちょぴりとは分かるというものだ。うんうん・・」

ばい菌はひとりであいづちをうっている。

「じゃがのう、それが大自然というものぞ、それが大調和というものぞ、いいかテツヤ!大自然というものは時には優しく感じ、時には厳しく感じるものじゃ。

それもすべて己から出でて己に帰する・・・・・う~~ん、ワレながらイイことを言うわい。」

(この古老の親分らしきヤツめ、ひとりで関心してやがるぞ。それもダレかのモノマネみたいじゃないか・・)

「おっと、どこまで行ったかな? うん~?」

すっかり、自分の言葉で酔ってしまっている。

「あんたが自分をほめたとこですよ。」

イライラしながらオレは言った。

「ちょっと、自己陶酔してしまったようじゃな。」

(ばい菌が自己陶酔してどうする!)

「そうだな、病気は汚れた身体をきれいにする浄化作用だというところだったのう。

それを人間様が理解してくれんことには、わしらのありがたみも分かってもらえんからのう。浄化作用の元となる、その汚れがなんであるか、聞きたいんじゃろうが?」

ばい菌は細目になって言った。話しを出し惜しみするような態度であった。

「そうですよ。汚いもの?なんで汚いものが私らのからだの中にあるんですか?」

「それは、あんたの身体のなかの毒素じゃよ。血液の汚濁じゃよ。

そんなものを入れた覚えは無いと思っているんじゃろうが、事実それがあるから掃除が必要になるんじゃ。自然の浄化作用がおこるんじゃ。

病気は決してそとからやって来るんじゃない。じつは、おまえたち人間が自分で作り出しているのじゃよ。」

「病気を自分でつくっている・・・?」

オレは信じられなかった。

「からだに汚い物を溜める・・・溜まれば害になる・・身体の外に排除する。

自然はこんなに単純明快な機能をおまえたち人間の身体にあらかじめ組み込んでおいてくれたのじゃ。

この機能、働きがなかったら、人間様はとっくの昔に滅びておるわい。

人間という種が存在し続けて行くには、汚物を溜まり放題にしておいては絶滅して行くんじゃよ。溜まったものは途中で外に排出してやらないといけないんじゃ。

人類が毒によってパンクする前に安全弁を解放してやるようなもんじゃ。ガス抜きしてやらなあ、いつか大爆発して人間様という種族は一巻のおわりじゃわい。

だから、神様はあらかじめ人間様に浄化作用というりっぱな機能をお与えになられた。

それが天から与えられた恵みというものなんじゃ。」

「天の恵みですか?あまり実感できないんですが・・」

「そうじゃな、この働きによって起こる現象を病気と呼んで恐れて来たのは人間じゃ。

浄化作用などということは知り得る知恵がなかったんじゃから、それも無理がない。無知ゆえの勘違い、思い違いをしてしまった。だから、起きた現象ばかりを気にしおって、その根本を探ることが出来なかったのじゃ。」

「ふ~んそうですか?じゃあ、その汚物ってのは?」

いつか、オレもまじめになってばい菌にたずねていた。

「そうじゃなあ~、はじめのころは自然界にある毒物というところだったんじゃな。

おまえたちの祖先は今の様な耕作法や魚介類をとる方法も幼稚だったし、辺りかまわず食べ物にした。それこそいろんな物を食べてみた。あれが良いとかこれが悪いなんてことは今のように分かるはずもない。手当たりしだい口に入れたわけじゃ。

とうぜん、食べたもののなかに毒分の混じった物もある。

これがからだの内の汚物の始まりじゃ。やがて、その浄化作用、つまりお掃除が始まる、おそかれはやかれ・・じゃ。

溜まった汚物は一種の毒素となって害を与えるから、排除しようとする。このお掃除なんじゃからありがたいものなのじゃ。

ところがその浄化作用に際して、痛い、苦しいなどの症状が伴う。

お前さんたちは、こりゃあいかん・・と思って、それをなんとか楽にしようと試行錯誤するわけじゃ。

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