カビとの対話(追補版)
こんな苦しい状態が続いたらたまらんわいなあ。それにそのまま苦しんで死んでしまうかもしれん・・・とのう。事実、その毒分によっては死んでしまった者少なからずもいただろう。
病気・・・これは何とかしないと・・・早くこの苦しみから逃れたい。
そこで試しにいろんな自然界の物を口にして見た。
すると症状がおさまって楽になる物がいくつか見つかった。人間様はここで大喜びして、
『これは病気の具合をよくする物が見つかった!ようしこういう物を見つけて行けばきっと人間の病気を解決出来るに違いない!』とな。」
「それが薬でしょ!お陰で、人類は長いあいだそれで病気を治して来たんですよ。」
オレは元気を取り戻して、ばい菌に言った。
「人間様がそう思うのも無理がなかったんじゃ。それを薬と呼んでありがたがったってわけじゃ。
じゃがな、そこに大きな落とし穴があるってことが分からんかった。
未開人には“それ”を理解するのは無理だったんじゃな。ま、浅知恵だったんじゃ。
この浅知恵から始まったのが人間様の医学の始まりなんじゃよ。
この浅知恵をいつまでもいつまでも続けて来た結果が今のお前たちが誇っている現代医学というわけじゃな。」
「“それ”って何ですか?それに、現代医学は人類の叡知を集めた最先端の科学ですよ」
オレは強い口調でばい菌に言い返してやった。
「この“それ”こそがあんたらが誇って来た医学の根本を揺るがす一点じゃよ。
汚物を汚物で固めることで病気が解決したと思い込んだことさのう~~。それがまず勘違いの第一歩。
そして、そのことによってわしらが活躍する場ができたということじゃ。
その後、おまえたちの科学の進歩とやらがわしらの発見を機に、病気の正体のほとんどをわしら“ばい菌”に見た。ということは、大自然の摂理をまことに理解できていない浅知恵から出発したためじゃ。
(浅知恵、浅知恵って、よくもこうも人間をばかにして!・・)
オレは怒り出そうという思いをやっとの思いでがまんしていた。
「ホッホッホホ~・・あんまり、怒りなさんな。これもすべて神のおぼしめし。おまえさんたちにあまり早く病気の正体を見つけられたら、すべて水の泡じゃい・・
「え?なんで、なにが水の泡なんですか?」
(オレはばい菌の親分の言うことの意味が分からなかった。)
「それについての話はまた別の時に・・・。とにかく、わしらは汚名を晴らせればそれでいいんじゃからな。めんどうな問答はしておれんわい。それにわしも早く役目を果たして消えたいわい。」
ばい菌は話をはぐらかしてしまったので、オレはその後のことは聞けなかった。
「え~っと、どこまで行ったかいな?
お、そうそう、病気の正体を教えるとこじゃったわい。で、浅知恵のため、勘違いしたお前たちはその病気を止めようとしたんじゃな。自然が掃除しようとするのを押さえ付けようとしたんじゃ。薬と呼ぶ毒を使ってじゃな。」
「だってそうでしょう。苦しみを早くとってしまわないと・・」
「おまえたちにとって、病気という掃除は苦しいからのう~。
はやく苦しみを取ってやらなきゃ・・はやくしないと死んでしまう・・
そりゃあもう、不安だらけじゃな、そこにあるのは。
早く、はやく、ハヤク・・・これが、おまえたちの合言葉じゃあないのかい?」
「そうですよ。早期発見早期治療・・これが一番に大切な事なんじゃないですか?」
ばい菌はそれには答えず、話しを続けた。
「自然は汚れを掃除しようとする。そして、あんたがたが病気と呼ぶ浄化作用が始まる。すると、おまえさんたち人間は、苦しいから、それを止めようとする。
そこにおおきな問題があったわけじゃ。」
「問題って?それに苦しいのを止めるのはあたりまえじゃないですか?なにが問題なんですか?」
ばい菌はチョイチョイと人差し指を振って、
(あれ?ばい菌に五本指なんてあったかな?)
いかにもチガウという振りを見せた。
「問題はふたつある。
一つは、からだの中の汚物が出ないままで居る。
したがってその汚物は何かの障害を与え続ける。結果は将来にわたって人類の子孫は存続できないほど身体の中はメチクチャになってしまうだろう。
この事は、最近おまえたちの間でも話題沸騰している環境ホルモンとか言う問題で分かって来たじゃろうがな。人間様はよくもこうおもしろい名称をつけるのがうまいんだろう。頭がよいからのう~。
けどな、あタマにキズは、かたいイシ(意志)にありそうかな、うん、イシあたまというじゃろ。ひゃっひゃっひゃ~。」
(・・・こいつう~馬鹿にしている)
「もう一つは、汚物を出さないようにするため、汚物を使った。」
「汚物を使った?」
「そうじゃ。それをさっき言ったんじゃろうがな。自然界から取り入れた物を薬とやらと言って、それで病気を治すと信じてしまったんじゃ。
それが“薬毒”じゃよ。そして身体のなかで汚物となる」
「薬がですか?え~~~!病気を治す、あの薬ですかあ~~~??」
オレはなんともあきれたてて聞いた。
「そう驚くな・・・・どうじゃ!カタイ頭がわれそうじゃろう。ふふふふ~~。」
「薬がなんで汚物になるんです?」
「なんのなんの、おまえたちが薬と呼んでいるのは、いろんな性質をもった毒だからのう。それが身体のなかで、いつかは本来の性質の毒素に戻ってしまうんじゃ。
その毒素は時間とともに変化して、いろんな汚物となって溜まりこんでしまうから、身体の“自然良能力”はいつか排除作用を起こす。
それで、いつかまた“病気よこんにちわ”となるわけじゃのう。
これではキリがないのう、病気を止めるだけでも汚物が出ないのに、これでは汚物を増やすばかりじゃからのう。」
オレはばい菌の言うことを信じられなかった。
「でも薬で病気が治るなら、毒でも仕方がないじゃないですか。そのためにもキチンと使用法を守って・・・」
オレは食い下がっていった。
「そう、たしかに薬で病気が治る・・様にも見える。しかし、それは症状が一時的に抑えられただけのことじゃ。なぜなら、病気の原因は体の中に溜まった毒素だからだ。その毒素の浄化作用が起きると苦痛がともなう。つまり、毒素の排泄作用が病気の本筋で、苦痛はそれに伴って起きる従属した症状じゃ。
“従”の症状を抑えてつけたところで、“主”の排泄作用が解決するわけではない。
だから、医学は対症療法だと言うであろう。
それじゃあ、なぜ薬でその症状が抑えられるかというと、汚物毒素排除の浄化作用を起こすのは人間の生命力、活力である。その力を弱めるならば、浄化は止まってしまう。
生命力を弱めるのには、毒が一番効くんじゃ。
つまし、毒を入れると浄化力が弱まり、それに伴う苦痛症状も弱まる。
これが薬と呼ばれて来たものの正体じゃ。
そりゃあ、『薬』ったって、いろいろな働きがあって、いまの様な単純な説明では不満じゃろうが、根本はそういうことじゃな。
だから、薬という汚物を入れて人間のからだを健康にしようってんだから、わしらは笑ってよいものやら、哀れんでよいのやら・・
これじゃあ、いつまでたっても病気は減るどころか増えるというもんじゃなあ。
病気を治すという薬そのものが、病気の発生の元となる汚物なんじゃからのう~~。」
ながい説明を聞いていたオレはなおも食い下がって聞いた。
「う~~ん。それじゃあ、ばい菌が出す毒素という説はどうなるんですか?」
「やっと、わしらの役目を説明できるところに来たかな・・。わしらが汚物の掃除役ということを。
わしらはそんな汚物を食べて処理してやっているんじゃよ。おまえたちが溜め込んだいろんな汚物によってわしらの仲間もいろんな種類があるわけじゃ。
つまり、食する物の好みがあるという様なものかな。
わしらは食べることによって、増えていけるし、食べた後から次々と役目を終えて死んで行く。そうして食べるものがなくなったら、そこにはもう居ることは出来なくなる。」
「汚物が好物なんですか?」
「そうじゃわい、汚物こそわしらの大好物なのじゃ。だから汚物の種類が増えれば増えるほど、わしらも増える。
ああ、自然は単純明快じゃの~~う。」
(ばい菌は目をつむって、またしばらく、なにかに酔っているようだった)
「では、ばい菌やウィルスは我々の病気の原因じゃないと言うわけですか?」
「結果じゃよ。直接の原因ではない。
われわれの仲間がそこに居たとしてもじゃ。」
「そこに居るからこそ、原因と言われるんじゃないですか?」
「まだ分からんのかい。やれやれ・・・真の原因はおまえたちが汚したものにあるということを・・・・
いろんな毒素が血液を濁し、それをきれいにしてやるために浄化作用が起きる。それがあんた方人間に備わった自然良能力と言うもんじゃよ。
自然はごちゃごちゃしているようで、じつにシンプルだということを受け入れられないのかな。
わしらはそのお手伝いをするだけじゃよ。
決して、原因じゃなく結果だということじゃ。
起きた結果をいくら責めてもムダじゃろうがな。」
(古老のばい菌は、すこしイライラし始めて来た様子である。)
「でも・・・、パスツールとかを始め、いろんな医学者たちの実験で確かめられて来ていますよ。」
「ほほう、出てきたわい、その事が。お前たちのお偉いさんたちは間違っていなかった。しかし、間違ってしまった。」
「?????・・・」
「実験室内では正解であっても、それを自然界もそうだと決めつけた事がそもそもの失敗じゃったようじゃのう。自然界は試験管のなかでもフラスコのなかでも無いんじゃよ。
たかだか試験管のなかの実験を自然界に当てはめて見ることが無理なんじゃな。
わしらは自然に生まれ、自然に死ぬ・・・役目がなくなれば。」
「それでは、ばい菌やウイルスは自然に発生するということですか?」
「そう、気が付いたかな。わしらは、最初は発生するんじゃ。ワクんじゃ。汚いところからなあ。
そうして、汚いものがあればそれを掃除してやって、さらに増殖する。食べる分だけ食べた奴から死んで行く。そしてついにそこに食べ物がなくなると存在できないから死んでしまう。
わしらがわいて出て来ることを認めない医学じゃからのう~、これからも迷走しそうじゃ・・・
わしらの仲間のうちでも善玉菌と呼ばれて、お前たちから可愛がられている奴らも自然にワク。ありがたくてワクワクするじゃろ。」
(こいつ、へたな駄洒落を・・)
「では病気はからだの中の汚物が原因であって、後からついてまわるものなんですか? やはり、伝染するんじゃないですか?」
「そうじゃ。が、あくまで、わしらを病気の原因とするならば、おかしいところも出てくるはずじゃろう。」
「おかしいところとは?」
「わしらがそこに居なくても同じ症状にもなるということじゃ。
それを実験で証明してみせてくれたのが、レィリーとかいう人物じゃろう。知っているかい? 彼はイシあたまじゃあ無かった様じゃなあ。
全然病原菌を入れなくて、結核、腸チフス、赤痢などの伝染病の症状を発生させて見せたというんじゃないかな。
それと、強いコレラ菌を飲んでも、なんともない事を実証して見せてくれたペッテンコーフェルとか言う御仁も居た。」
(こいつ、どこからこんな情報をとりいれるんだろう。ホントにばい菌のなかまと通信しているんかな?)
「あんたがたの中にも菌の自然発生を認めた者は少ないけど居るんじゃな。ただ、大多数の学者が認めないでいるだけのことじゃ。」
「学者ばかりか人類ほとんどがそう思っていますよ。」
「これで、お前たち人間様が浄化作用を起こすのに、必ずしもわしらは介入しないということが分かったじゃろう。もしわしらがそこで働くときは伝染が原因じゃなくて、誘因というところかな。誘発性と言ってもよいか。
主体はあんたがたの浄化作用であって、わしらは従属、付随しているような存在じゃよ。
早く毒素を掃除してやれる“お助け人”いや、ひとじゃないから、“お助け菌”かな。ほっほっほ。」
ばい菌は皮肉な笑いを浮かべていた。
「わしらは、最初汚物のなかからわいて来る。そして、汚物を掃除する。他所に食べるものがあれば、そこにも移って食べてやる。食べるものが無くなれば消えて行く。」
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