次の100年も木桶仕込みのお酒を造りたい。木桶仕込み純米酒『人と 木と ひととき』誕生の背景 vol.3 これからの『ひととき』
2019年に発売された『人と 木と ひととき』。今ではほとんど見かけなくなってしまった木桶で仕込んだ純米酒です。この『人と 木と ひととき』をつくることになった背景、私たちの想いを三回にわたってお伝えしています。
第三回は、「これからの『ひととき』」。
醸造責任者の古田悟が、代表の田中洋介、営業部長の佐藤嘉久と共に、木桶への思い入れやこれからの『人と 木と ひととき』について語りました。
■木桶での酒造り
古田)
今代司には平成22年に入れた小さめの木桶が一基と、三年前に入れた大型木桶二基の計三基があるけれど、小さい桶と僕は入社同期なんですよ。
僕が入社したその日に、木桶を巡って蔵元と当時の杜氏が喧嘩してたのが忘れられない笑
佐藤)
大型木桶を導入してそれまで使っていた木桶の三倍強のサイズになって、何か違う点はありました?
古田)
品温管理は大変になったのは事実。
去年は暖冬で蒸米の温度も下がらない。スターフィン(冷却装置)も導入したけど、なかなか効かず苦労しましたね。今年は逆にとても寒くて、去年と比べれば順調に仕込みができたと思う。いずれにしても桶自体が生き物、という感じが強いですね。
田中)
楽しめるってことだよね。毎回状況が違って、試される。
古田)
木桶は温度を一定に保つと言うけど、中の醪を一度下げれば下げたまま、なんてわけはない。下げても上がろうとしてくる、上がったものを下げる、というのがサーマルタンクに比べて調整しにくい。そこをどういう風にコントロールするかが造り手にとっての木桶の難しさでもあり醍醐味ですね。
中身に関してはほのかに木の香りはあるけれど、基本的には木の香りが出にくい部位を使っているんですよね。実際昔の木桶が主流だった時代は、新しい桶を使うときはグレードの低い酒を先に仕込んで、香りがなるべく出ないようにしてから高級酒を仕込んでいた。
もちろん木の香りが好きな方もいて、その場合は樽酒が好まれるのかな?
木の表面の細かい穴が、醪に影響を与えて酒を柔らかくするということも言われているけれど、いつか桶として成熟した状態になるときのことを考えると、大事に育てる楽しみがありますね。
田中)
仕込が終わったあとの桶の殺菌の仕方にもよるけど、酵母は生き残り続けることもあるだろうから、普通のタンクよりは複雑味のある、個性のある味になるね。
佐藤)
個性という点では業界的に増えているのも頷けますし、実際に挑戦する蔵も増えていますよね。
田中)
今、全国で三十蔵くらいかな?職人心をくすぐるところがあって、今また増えてきているんだろうね。
■木桶への思い入れ
古田)
そして、自分達も桶づくりから携わっているので思い入れも強い。
田中)
いやあ、本当に。桶づくりでお世話になった藤井製桶所の上芝さんはあの大きな桶を一人でひっくり返して斜めに倒して、そのまま一人でくるくる運んでいて驚いたな。重心の扱い方がコツのようだけど、不思議だった。
古田)
形もよく見るとストレートではなく壺みたいに少し膨らんでいて。だるまみたいに、ゴロンとさせた反動を使って起こしたりしてましたね。
僕は「正直押し」というカンナ掛けの作業が印象に残っています。その名の通り、気持ちが正直に手元に出てしまうんですよね。0.1mmの狂いも許されない仕事というのをそのとき初めて経験したな。
箍(たが)づくりにしても、竹をまっすぐ割るにはねじれの加わった四方向の力の具合を見て角度を決めて、一気に割らなくてはいけない。その加減が難しくて。そして一度組み上がれば、竹自体のしなりで桶の収縮・膨張に合わせてしまったり緩んだりしてくれるのだから不思議ですよね。
職人さんたちはそうした様々な工程を全部自分たちでこなして、あの大きな桶を二週間くらいで仕上げていくんだから本当にすごい。
それを受け取った僕らも、きちんと手入れしながら大切に使っていきたいですね。
竹を割る様子。醸造責任者 古田(左)と、桶づくりのプロ 藤井製桶所 上芝さん(右)
古田)
売る方はどうですか?
佐藤)
これだけこだわったお酒なので、営業側としてもしっかりと背景や想いを伝えながら手売りしていきたいと思っていたんです。
なので今は、『人と 木と ひととき』を販売するのは蔵併設の直売店と、実際に蔵を見に来ていただくなどいくつか約束事をした酒屋さんだけに限ってお願いしています。一気にたくさん販売はできませんが、お客様に一本一本大切に届けていきたいんですよ。
『人と 木と ひととき』取扱店舗はこちら
■今年のこだわり
古田)
『人と 木と ひととき』は2020年度醸造で三年目になるけれど、もちろん毎年チャレンジ・進化しています。
今お店に並んでいる2020年度醸造の『人と 木と ひととき』では、何十年ぶりに甑(こしき)を復活させて蒸米の品質向上を目指してきた。米も、2020年度醸造分からは「ふじくに農産」の五百万石を使わせてもらっているよね。
2020年、復活させた甑(こしき)での蒸米工程
佐藤)
はい、僕の実家です(笑)。
新潟県三条市の田んぼでつくっているんですが、魚沼市との境界に位置する鳥帽子岳を源にする五十嵐川水系の田園地帯。超軟水地域で水が違いますね。
うちは稲刈り直後からもう翌年の土壌づくりを始めるんですよ。地層の二層目部分に栄養分の高い層が埋まっているのでその層を掘り起こして、オリジナルブレンド堆肥と混ぜる作業を行います。毎年ひと手間、ふた手間加えてから冬の雪で眠らせて、ミネラル分の高い高質な土壌を形成します。それを毎年積み重ねている。
農薬は最低限に抑え、肥料も無化学肥料を使用して、丹念に育てた酒米です。
営業部長 佐藤(右)、米作り一筋の父(左)と共に
『人と 木と ひととき』は、今年数量限定で瓶火入れバージョン(※既に完売)も製造したりと、年々進化をしている実感がありますね。
■これからの『人と 木と ひととき』
佐藤)
営業の立場で言うと、古田さんに木桶でたくさん遊んでほしいというか、チャレンジしてもらえたら嬉しいと思っています。酒造りに良しとされていることをこれからもどんどんやって、毎年アップデートしていけたらと。
今後この『人と 木と ひととき』をどういうふうに造っていきたいですか?
古田)
木桶って昔の道具だから、当時の純米酒ってどうだったんだろうというのをやってみたいですね。
例えば麹歩合をもっと上げて、純米純米したものにするとか。僕らのスタンダードのお酒とは違う濃醇寄りの味。ずっと昔のことは定かではないけど、明治時代あたりは麹歩合50%くらいでドロッとした酒だったって言うし。
昔の杜氏さんが書いた本で、容器革命が起きたときの話があって。その頃のお酒は「馥郁たる香りの黄金色だった」と。その時代の酒を知らないから、それはどういう味だったのかを再現してみたいですね。
田中)
いいんじゃない?温故知新で、できる限り木桶を使う以上昔の手法も取り入れてやれたらいいよね。実験的に僕らも楽しんで、そして次(未来)にいきたい。
木桶が広まった時代は、越後を上杉謙信が支配していた頃と重なっていて。上杉謙信は、当時普通は造った量に応じて税をかけるところ、それを免除したから酒造業が発達した…という歴史があるから、また越後・新潟で木桶の酒造りが盛り上がっていくようになったらいいね。
新潟県は淡麗辛口、という方向性があったけど、木桶を使うと酒の味としては淡麗から少し離れる。それもあって県内の伝統的な酒蔵ではあまりやらなかったのかも知れないけれど、今の若い世代の蔵人はまた違うアプローチをしていくかもしれない。
清酒の近代の変遷を考えると、明治に酒造りが確立、昭和に技術革新・大量生産、平成に級別廃止。そこからとにかく米を削って削って…というトレンドがあって、令和は多様化。これからは純米大吟醸とか特定名称にこだわらない時代になる。
多様化という時代の中で今代司は木桶仕込みを真っ先に復活させたし、これからも極めていきたいね。
醸造責任者 古田(左)、代表 田中(中央)、営業部長 佐藤(右)
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