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食品原料業界のDXを加速させ、食品ロス削減と業界の働き方改革を目指す。原料の売り手と買い手をWebで繋ぐ「シェアシマ」誕生秘話

著者: ICS-net株式会社

いま注目を集める「食品廃棄ロス問題」は、SDGs(持続可能な開発目標)にも合致するグローバルな社会課題です。食品廃棄ロスが起きている現場として思い浮かぶのは、飲食店やコンビニなどではないでしょうか。しかし、食品廃棄ロスの問題を抱えているのは業界の上流に当たる食品メーカーも同じです。ICS-net株式会社では、原材料を作る側と使いたい側とを繋ぐ食品原料Webサービス「シェアシマ」を展開しており、このほど登録ユーザー数が2000を突破しました(2022年3月末)。

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サービス誕生の裏側と今後の展望について、代表取締役の小池祥悟CEOに聞きました。



これまでノータッチだった原材料のロス削減に着手


――「シェアシマ」について教えてください。


「シェアシマ」は食品業界の売り手企業と買い手企業とをWebで繋ぐサービスです。サービス名の由来は「原料を『シェア』『しま』せんか」。両者を繋ぐことで、無駄に廃棄されてしまっている食品原料を減らすことを目指しています。


世の中で取り上げられている食品ロスの多くは、飲食店やコンビニで販売されている「完成品」ではないでしょうか。確かにそれらのロスを減らすことも重要ですが、食品ロスのうち24%は食品製造業から出ているという事実があるんです。



一つの製品を作るとき、その裏には多くの食品メーカーが関わっています。例えばコンビニ弁当であればおかず一つに使われる原料それぞれに各メーカーが関わっていますし、インスタントスープ一つを取ってみても、具材とインスタントスープそのものを作っているメーカーは別々です。一つの製品に10を超えるメーカーが携わっていることも珍しくはないんですよ。


順調に生産され、市場に出荷されている間はさほどロスが出ることはありません。しかし、リニューアルや減産、終売などでその製品が作られなくなったら、どうなるでしょうか。製品を支えてきた原料の多くが廃棄とされてしまうのが現実なのです。


食品ロスに取り組む企業が増えながら、川上となる原料のロスに関しては、これまでどこも手を付けられていない状態でした。ここを何とかしようと着手したのが、当社の「シェアシマ」なんです。


食品メーカー時代に「ほしかった」サービスを実現


――なぜこれまで原材料の廃棄ロスは手つかずだったのでしょうか。


リスクが高いからでしょう。食品ロスを減らす既存のサービスでは、できあがった食品を売買しています。製品に問題があり回収となった場合、リスクを負う可能性が生じます。原料に不具合が出たとなると、完成品とは比べ物にならないくらいの規模の回収騒ぎになってしまいます。100グラムの原料が10万個の製品になるのですから、当然ですよね。その品質担保の面において、ハードルが高かったのだろうと思います。


――それでも着手しようと思われたのはなぜですか?


それには私の実体験が関係しています。私は以前、食品メーカーに勤務していて、商品開発をする際、新たな素材を見つけるのにとても苦労していました。食品業界は保守的で、これまでの付き合いを大切にしたり、新しい販路を開拓するには昔ながらの「足を使った営業」をしたりするしかないという特徴があります。上手にデジタルを活用すれば、新しい素材を検索するだけで見つけられるようになるのに、という思いがあったんです。


また、メーカー時代、海外に原料を調達しに行ったときに痛感した世界の変化にも影響を受けました。インドネシアやベトナムで、「日本は大した量を買わないのに価格や品質にうるさい。それくらないなら大量に買ってくれる中国に売る」と言われ、危機感を覚えました。少子高齢化で市場が減少する日本は、今後どんどん販売先から外されていくのではないかと思ったんです。


原料を無駄にせず、国内で循環できるようになれば、40%を切っている食料自給率の面においてもプラスでしょう。外国から売ってもらえなくなるかもしれないのに無駄に捨てている場合じゃないという思いが強くありました。


――サービス立ち上げに際し、どのような苦労がありましたか?


ただでさえ保守的な傾向のある業界です。サービスとしての信用度がないところから始め、まずは理解してもらうのに苦労しました。資金繰りも大変で、正直何度もショートしかけましたね。預貯金を取り崩しましたし、定期預金にも手を付けました。危ない局面を何度も乗り越えながら、ようやく黒字化にこぎ着けたという感じです。



登録ユーザー2000の今に至るまでの道


――順調に進められるようになった転機があったのでしょうか。


2020年11月、株式会社経済界が次世代の起業家を発掘・応援するビジネスアワード「金の卵発掘プロジェクト2020」にてグランプリをいただいたことが契機になりました。それまでは自己資金で何とかやりながら赤字幅を減らしてきたのですが、注目を集められるタイミングで思い切って資金調達をし、ビジネスを拡大する路線に切り替えました。



――ユーザーの登録状況はいかがでしょうか。


買い手側の登録は順調で、こちらから何もしなくても増えている状態です。驚いたのは、大手メーカーの開発担当者が登録してくれていること。中小企業がメインになるのではないかと思っていたため、予想外でした。大手メーカーになればなるほど、開発担当者は新しい原料の情報に触れようとアンテナを張っているのかなと感じましたね。


一方、売り手側はこちらから営業をかけて登録してもらえている状態です。私たちの思いやサービスの内容、メリットを丁寧に説明することで、着実に登録数は増えています。ただし中には、原料を広く売りに出すことに対して不安感を覚える会社も少なくありません。こうした傾向も、保守的な業界ならではだと思いますね。


正直、買い手側と売り手側がここまでアンバランスになるとは思っていませんでした。ただ、コロナ禍に入り、これまで当たり前だった対面営業が制約されたことを受け、登録を決める売り手企業が増えてきたように感じています。


――この領域に切り込めない理由として、品質管理のリスクがあるというお話でした。こちらに関して、どういった工夫をしているのでしょうか。


当社ですべての現物を取り寄せて確認できるわけではありません。しかし、当社のメンバーは私を含め食品メーカーの勤務経験者ですから、規格書を見れば概ね品質を把握することができます。規格書に引っ掛かりを感じるものに対しては、サンプルを取り寄せて確認するなど、業界経験者の知見を活かして品質を担保しています。


――コロナ禍を受けてサービスをリニューアルしました。変更点を教えてください。


できることを増やしました。個人ではなくチームで管理できるようにし、出品する原料の公開・非公開を切り替えられるように変えています。さらに、商品情報をPDFでダウンロードできるようにしたため、営業先にカタログを持っていかずとも、電子カタログとしてご利用いただけるようにもなりました。


そして、ページのアクセス分析機能も搭載しました。自社では思ってもみない原料に、何人もの買い手からアクセスがあるというケースもあり得ますから、ぜひマーケティングに活用していただきたいです。実際に、ニッチな原料が意外と売買されているなど、出してみなければ反響が分からない事例もあるんですよ。


また、当社としては地方創生にも貢献したいと思っています。地方の特色ある食品原料を広めるために、地方自治体との連携も模索しています。


買い手側に向けては、開発担当者が検索しやすいように検索機能を改良しました。私がメーカー時代に「こんなサービスがあったらいいな」と思っていたものを、一つ一つ実現させているという具合ですね。


他業界では当たり前のDX化。食品業界では大きな一歩


――あらためて、「シェアシマ」への想いをお聞かせください。


他業界では当然のように提供されている、売り手・買い手のマッチングサービスの食品業界版が「シェアシマ」です。まだ当然のようにFAX文化が浸透していて、対面営業がベースという食品業界に新しい風を吹かせられたらと思いますね。買い手・売り手双方が抱えている課題を、シェアシマで解決したいと願っています。


おそらく、シェアシマを使って原料を探せば、開発担当者は60%ほどの時間を削減できるのではないでしょうか。業界のDX化、働き方改革にも寄与したいです。


競合の会社に情報がもれることを恐れるという考えがあることは承知しています。しかし、業界全体でロスが減り、効率的に全国各地の買い手と売り手が繋がれれば、この国の食品業界自体の力を高めることができるでしょう。時代が進むほどにデジタルを活用して利便性を上げることへの抵抗感は薄れていくものと考えています。シェアシマの登場は、食品業界にとって大きな一歩になるのではないでしょうか。


――今後の展望についてお聞かせください。


まずはシェアシマの登録者を増やし、原料の売買ハードルを下げ、ロスを減らしていきたいです。その上で、原料を買って加工した食品を販売する「食ロスモール」を作りたいです。食品ロスに理解のある一般消費者に向けた取り組みを目指しています。


いつでもどこでも手頃な価格でおいしいものが食べられる社会は、当たり前に存続しうるものではありません。まずは無駄な廃棄を減らすことで、循環型社会へと近づくことができる。SDGsの推進が急務となる昨今ですが、食品ロスは店頭販売品だけで起きている話ではなく業界全体の課題であることを、一般消費者の皆さまにも知ってもらえたらうれしいです。





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