美しさの新しい地平を切り拓くSHISEIDO BEAUTY WELLNESSVol.1 価値創造篇 どこからきて、どこへ行くのか、から始める
2024年2月1日、資生堂は、美の領域を押し広げ、時代の変化や生活者の意識に即した価値を持つ新インナービューティーブランド 、「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS」を発売しました。このブランドの特筆すべき点は、自社のみならずカゴメさま、ツムラさまと協業した価値開発にありますが、ほかにも新しい価値を生むために前例にとらわれないさまざまなチャレンジがありました。
連載三回シリーズの第一回は、ブランド立ち上げ以前から価値開発を模索してきた2人、資生堂 インナービューティー事業部グループマネージャー 笠井芙美と、資生堂クリエイティブ株式会社 クリエイティブディレクター 永田香に話をききました。
「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS」とは、人の美しさを外見や「肌」のみではなく、肌、身体、心の調和が取れている状態こそが健康的で美しいと捉え、日々の生活を通じて、一人ひとりのここち良い独自の「健康美」の実現を目指したブランド。2024年2月に3商品ブランドを発売しました。
- 株式会社ツムラと共同開発した「TUNE BEAUTE(チューンボーテ)」
- カゴメ株式会社と共同開発した「ROOTINA(ルーティナ)」
- 刷新した資生堂独自の「The Collagen(ザ・コラーゲン)」
資生堂の新しい鉱脈を探すために
―2024年2月1日に発売したSHISEIDO BEAUTY WELLNESS(以下SBW)ですが、お2人はいつからどのように参画していましたか?
笠井 2019年の9月ぐらいに参画しました。「INSPIRE 2026」というプロジェクトがあって、中長期視点でスキンビューティーの次を模索し、資生堂の新しい勝ち筋を探すというプロジェクトでした。まだどんなブランドになるのかを決めずにオープンなディスカッションをしている段階でした。現在はSBWのチームでブランドの中長期戦略とファイナンスを見ています。
インナービューティー事業部 グループマネージャー 笠井芙美
永田 2021年の 6月に声をかけていただきました。私はクリエイティブの視点で、どんなブランドが資生堂にあるべきなのかといったかなり構想レベルのところから参画しました。その後は、ブランド全体、マークやロゴを含め、パッケージデザインの実務を、チームと共に担当しています。
資生堂クリエイティブ株式会社 永田香
―かなり初期段階からですね。ほかにはどのような方が参加していましたか?
笠井 クリエイティブ、みらい開発研究所の研究員、長く食品事業に携わっていたメンバー、そしてそのころ資生堂に転職してきた人たち、と非常に多様でした。
プロジェクトリーダーの梅津さん(現・資生堂中国地域CEO)が新しい価値開発手法に挑戦しようと編成したチームです。思い出してみると、最初は共通言語がなかったですね(笑)。
永田 (笑)。左脳と右脳ってよく言ってましたね。
私には、データからは出てこない感覚的なところを期待されていたように思います。普段のブランドの仕事だと、クリエイティブに話が来るときには目標が明快なことが多いです。例えば、飲み物を作る、錠剤を作る、と、何か具体になっているものに対してデザインの力で貢献することが仕事なんです。
このプロジェクトではそれ以前の時点で参加して、ディスカッションを続けながら資生堂が目指す美の新しい地平を見るための共通言語をつくっていく、というのが仕事でした。
一直線にゴールに向かわず、遠心力と求心力で新しい中心を見つけていく
―目標がはっきりしているものとは違う脳の使いかたがあったのでは?
永田 ディスカッションする中で、誰かが「セルフオーナビリティー」という言葉を発しました。それぞれのひとが、自分の体が自分のものであるって認識する、もっというと、自分の体は自分で獲得していく、みたいな、個人が主体だっていう感覚を表現した言葉でした。
すごくみんなにしっくりきて、「あーなんかわかるわかる、そうだよね」って。誰もが感じている「肌、身体、心」のつながりというブランドの根幹がキラッと見えた瞬間でした。そんなふうに少しずつ言葉をやりとりしながらコンセプトを詰めていきました。
「美容大好き!」という人ばかりではなかったのも良かったかもしれません。協業先のみなさまも含めて、美に対する距離感の違う人たちが集まって、話を広げたり、集約したりを繰り返しながら、遠心力と求心力をエネルギーにして、みんなで今の時代の新しい中心を探したという感じです。このワークショップ形式には大きな意味があったと思います。
―贅沢なやり方ですね
笠井 見えているゴールを達成するために集まったチームではなかったのが良かったと思います。自分たちで自らに問いながら進めるという。
何かを実現しなくてはならないですけれども、ゴールは設定されていない。時間のかけ方は贅沢ですが、ある意味メンバーにとっては厳しくもあるやり方です。
―協業はいつ出てきたアイデアですか?
笠井 私ははじめからイメージしていました。
このプロジェクトでは、未来の資生堂はどうありたいのかということをまず考えて、それと今とのギャップを考えて、どうしたらそこが埋まるかを考えていました。その時、これからの時代、資生堂だけでは実現できないビューティーを実現するために、協業はマストだ、と思ったのです。
ロゴができて、ブランドが可視化された
―プロジェクト自体が一方方向ではなく、遠心力求心力の連鎖で推進してきたことがよくわかります。ブレイクスルーポイントはどこでしたか?
永田 ロゴができたときでしょうか。自分の体の中をよく知って、働きかけて、美しく健康な人生を実現する、というビジョンが視覚化されているものがロゴだとしたら、どんな感じかな、と、デザインチームで考えました。いくつも提案をしましたけれども、ある時、現在のロゴの原型を見せた打ち合わせで、チームの空気がふわっとひとつになる感じがありました。
説明云々ではなく、直感的な「いいね」というムードがあった。不思議でした。考えてきたことが感性で理解できて、これが私たちが示すものなんだ、と実感できたことがまず一番大きかったかな…。
―多様な人が集まるプロジェクト推進の醍醐味ですね。このロゴのかたちが生まれた背景をもう少し詳しく伺います
永田 肌、身体、心がキーワードでしたので、最初は内側の、体の中を意識していたんですが、そうじゃなくて、この3つの繋がりこそがブランドの肝なんですっていうインプットがあって。じゃあそれぞれが関わりあって分かちがたいっていうことか、というところから、巡りとか、循環というデザインコンセプトになりました。
ブランドコピーの「美しい、は生きている」と同じ思いですね。
ロゴのアニメーションを制作していたときに気づいたんですけど、あ、心臓みたいだな、呼吸して、生きてるんだな、と。心が満たされていく、生きている、というイメージ。
そしたらあいみょんさんがSBWのために「リズム64」という楽曲をつくってくださったと聞きました。64は彼女の鼓動のリズムだと聞いて、すごい!繋がってる! と感動しました。
SHISEIDO BEAUTY WELLNESSのロゴ
―自動的にナラティブが生成されています
永田 そう思って作っていないのに、出来上がってみるとこれはやっぱり心臓なんだ、だからみんなの中の求心力になっていくんだ、と、お話がつながっていくというのは、クリエイティブあるあるというか、ブランドの価値を真剣に作っていると自動的にストーリーができていく、磁力を感じます。
互いをリスペクトする、協業先との関係
―カゴメさんとツムラさんと共にものづくりをするところで気を配ったことは?
永田 まず、カゴメさんツムラさんの歴史を勉強しました。資生堂と同じように、先方にも、創業の祖が必ずいらっしゃいますよね。誰が、なぜ、この会社を始めたのかを知ることがやっぱりもう一つのブレイクスルーになったと思っています。
「カゴメ」という社名は「籠の目」のことで、野菜を収穫して丁寧にカゴの中に入れていく、その収穫や実りに込める想いが商標になっていったことを知った時には、心が震えるような感動がありました。ツムラさんであればもちろん漢方というイメージが強いわけですが、そもそもは植物の力からなんだよね、って。
それぞれのオリジンがあって、それぞれのサイエンスを持っているっていうことを知ったんです。
それがすごく面白かったのと、それぞれのファウンダーが、日本を良くするために起業している。根は資生堂と一緒な気がしたんですよ。
―協業先として、やはり日本をよくするという根っこが一緒な会社を選んだ?
笠井 ツムラさんとお話させていただく中で、創業年が近いことや薬局が始まりなのねっていうのもわかって。不思議なご縁を感じました。
永田 尊敬すべき協業先さまと組むことで、資生堂だけではできないチャレンジは何だろうと考えました。あわせて、資生堂と組む以上、「資生堂らしい」気配があることは皆さん気にしてらっしゃると思ったので、誠実な中味であることプラス、アーティスティックというか感性的なところも前面に押し出しました。
笠井 デザインを協業先様にお見せすると、両社ともに最初におっしゃるのが「うちじゃできない」「うちじゃこうならない」っていうことでした。
やっぱりそこは資生堂の持っている、想いをデザインとして見せる力が、喜んでいただける価値だったのでは、と今も思ってますね。
資生堂を冠するブランドでBETTER WORLDを目指す
―日本で立ち上がったばかりですが、もうすでに次の展開がありますね
笠井 2025年以降に中国での展開を予定しています。中国のお客さまに対して、どのように価値を発信して提供していくかを検討中です。
―このブランドで目指す「BETTER WORLD(よりよい世界)」はどんなものですか
笠井 はっきり言えるのは、このブランドは資生堂が単に健康領域に参入するためのブランドじゃなくて、資生堂が掲げる新しい美の在り方を体現するブランドだということです。
資生堂はビューティーの会社ですが、それは今の価値観にするとビューティー×ウエルネスだ、と。それをお客さまの日常の中に取り入れてもらって、「そうだよね、これだよね、これから私が求めるものはこれだね」、と感じて付き合ってもらえるブランドになることを目指します。
永田 資生堂は歴史的に、新しい文化を発信しようとしてきた会社だと思っています。社会をいかに良くできるだろうかという想いが強い会社だなと。文化と言うのはひとつの大きな流れみたいなもので、個人から、社会が変わって、その時代の文化になって世界がよりよいものになっていく、そんなことにこのブランドを通して取り組んでいると思っています。
笠井 もうひとつお伝えしたいことがありました。
私は、死ぬ直前まで自分を好きでいられる人が増えるのがBETTER WORLDだと思います。もちろん自分もそうありたい、その思いでこれからもいろいろな仲間と共に、よりよい世界に向けて貢献できる仕事に取り組んでいきたいと思います。
Vol.2 生活者視点篇 自身の強い興味を力にバリューを発掘する
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