製品化までに10年。広洋技研開発の砂ろ過装置が約70台の導⼊実績を得るまでの歩みや歴史
⽔処理機器メーカーである株式会社広洋技研は、従来の⽔処理装置の問題を解決するべく砂ろ過装置「リーチフィルター」開発。1998年に開発を開始し、
1999年にテスト機を製作。
2000年には製品化したものの改善改良を重ね、現⾏モデルが完成するまでに10年以上の時間を要しました。
⽔処理現場での課題であったろ材の洗浄不⾜やランニングコストを解決する画期的な装置として、2022年6⽉時点までに上⽔・中⽔・下⽔・排⽔処理の現場にて約70台の導⼊実績があります。
そこで今回は、株式会社広洋技研の代表取締役会⻑である⾙原和年に「リーチフィルター」が完成するまでの苦労や⽔処理業界への想いについて改めて話を聞きました。
⼀般的なろ過装置が⻑年抱えてきたろ材の洗浄不⾜
ーーまず、⽇本での⽔道⽔を作るための⽔処理の歴史について教えてください。
⾙原︓⽇本の⽔道が今のように⼤きく整備されたのは、第⼆次世界⼤戦後。経済発展に伴い都市に⼈⼝が集中したことで河川の汚濁が顕著になってからなので、約70〜80年ほどです。だから、僕らの世代が⼦供だったときには、ほとんど⽔道はなく、井⼾から⽔を汲んで⽣活に使⽤していました。
⽇本で最初にできた急速ろ過の⽔処理場は横浜です。今でもそうですが、横浜には海外の⽅が住んでいるかと思います。イギリスやフランス、アメリカでは⽇本より早くに⽔処理の技術が発展し、装置が開発されて下⽔道ができていましたが、彼らが住み始めた頃の⽇本は、⽔処理のシステムが整っていませんでした。
彼らからの要望があり、じゃあきちんと⽔処理を⾏いましょうということで浄⽔場ができたんですね。だから、最初の⽔処理システムではすべて海外から来た技術を使⽤していました。
ーー⽇本初の下⽔道の⽔処理場が⼤きな普及をはじめてから約70〜80年ほど経ったいま、⽇本の⽔処理現場で抱えている課題というのは︖
⾙原︓ろ材の洗浄不⾜です。ろ材というのは、ろ過装置の中に⼊れるフィルターのことで、⽔処理では砂ろ過を使⽤します。
例えば、⼀般家庭で⾦⿂や熱帯⿂を飼っている場合、⽔槽の中に砂を引きますよね。する
と、砂にゴミがくっついて、⽔を綺麗な状態に保ちやすくなる。この砂は⽉に1回程度洗って⽔槽に戻すと思いますが、これが意外とくっついたゴミが取れない。
⽔処理の現場でも同様の問題が起きていて、要するにろ材の洗浄に⼤きなコストがかかっているんです。
ーー新たなろ材を採⽤し、使⽤したろ材を処理することは難しいのでしょうか。
⾙原︓⽔処理で使⽤するろ材は特殊な砂です。そのため、⽇本はろ材を中国から輸⼊していたんですね。ただ近年、中国で輸出が規制されたこともあり、そもそもろ材を⼿に⼊れることが難しくなってきました。
使⽤したろ材を処分することも、今では⾮常に厳しいルールが⽤意されています。ろ材は産業廃棄物であり、産業廃棄物の処理を委託する際には「産業廃棄物管理票」に対応しなければなりません。
ーーそこで、ろ材の洗浄不⾜という課題に着⽬したと。
⾙原︓ろ材⾃体は⾮常に優れているんです。しかし、ろ材を洗浄する技術が不⼗分であるから不要なコストがかかったり、ろ材の処理が⼤変だったりする。それなら、ろ材の洗浄⼒をあげ、ろ材の交換コストを下げるシステムを作ればよいのではないか︖ と考えたわけです。そこから「リーチフィルター」の開発に踏み出しました。
製品化まで10年。独⾃の機構ゆえに装置の有⽤性を⽰すことが困難だった
ーー製品化にいたるまで10年の歳⽉を費やしていますが、開発時に苦労した点はなんで
しょうか。
⾙原︓ひとつは、独⾃機構のため業界での参考事例がなかったことです。「リーチフィル
ター」は、ろ材の洗浄不⾜やコスト問題を解決するため、独⾃機構の洗浄⽅式を採⽤しています。この結果マイクロバブルが発⽣し、洗浄効果を⾶躍的に向上させることができました。社会的評価としてはFBIA(⼀般社団法⼈ファインバブル産業会)での認証を取得するに⾄っております。
補⾜︓⼀般的ろ過機は⽔洗浄のみが⼀般的。⼀般的ろ過機は空気洗浄と⽔洗浄でも少しの時間 しか同時に洗浄出来ないため、⾼い洗浄効果は得られにくいのが現実です。
弊社装置はこれらの問題を解決し、効率良く洗浄することで、消費電⼒の削減も実現しています。
どうしたらその課題を解決できるかと考えたときに着⽬したのが、眼鏡の洗浄機です。あれは超⾳波を利⽤して、レンズに付着した汚れを落とす仕組み。空気の粒というのは⾮常に⼤きな超⾳波を出します。これをろ過システムに応⽤できないかと考えたんですね。業界では採⽤されていないシステムだったため、製品化までに時間がかかりました。
ーーもうひとつの苦労した点はなんでしょうか。
⾙原︓独⾃機構であるため、実績がなかったことです。「リーチフィルター」は、⽔処理場で24時間365⽇稼働する必要がある装置です。しかし、1年を通して四季がはっきりと分かれている⽇本では、夏場や冬場で⽔の温度や汚れ⽅が変わります。
導⼊してもらうには、四季に対応しつつ、最低でも5年間問題なく稼働できる装置であることを証明する必要があります。5年間使えて初めて評価されることが多いんです。
技術⼒ではなく結果がすべてという業界のルールのなかで、千葉の海岸で天然ガスを採っている会社から、「リーチフィルター」をテストしてみたいという連絡がありました。海だから塩分もあるし、油脂も⼊っている。いくつかの企業の装置を試してみたが、1回使ったあとは機械が固まってしまってろ過ができず、お⼿上げという状態でした。
弊社の「リーチフィルター」もテストはしてみるものの、1週間で使⽤を中⽌する可能性が⾼いといわれていました。実績がなかったので、信⽤されていなかったんですね。でも、実際に現場に⾏ってみたら「リーチフィルター」は問題なく稼働し続けた。
その実績が⼤きな評価となって、20〜30台ほど導⼊することが決定し、今も稼働しています。
製品が動き続けることで有⽤性を説明できる、技術⼒を証明できると感じた印象的な出
来事でしたね。
ーーなかには企業から依頼があり、装置の製造だけでなく運営システムも⼿掛けることもあるそうですが、機器の開発とは違った苦労があったのでしょうか。
⾙原︓提供する装置は弊社で製造するため問題ありませんが、運営システムは企業ごとに要望されるシステムの内容が異なるため、毎回特注で対応しています。
苦労した点は、ユーザーが持つ設備と弊社装置の複数台連携の実施にあたる提案と、ユー
ザーの要望を満たしていくことでしょうか。当初の設計計画とは異なる要望を受けることがあり、処理⽔質を向上する装置の追加導⼊が必要になりました。それによりユーザーが希望した、⾼度な⽔質を得ることができました。
そこからは⽣産設備増設の依頼やリピートオーダーがあり、同現場での運転台数は6台。複数台の装置の遠隔監視・管理を可能にすることで、現場維持管理性の⼤幅な向上に貢献することができました。
⽔資源を守るために⽔処理業界ができること
ーー現在、⽔処理業界が抱えている次の課題はなんですか。
⾙原︓現在、⽇本で導⼊されている砂ろ過装置は約30万台ほどありますが、⾼度経済成⻑期に作られた設備のため、それらが⽼朽化してきています。多くの浄⽔場や⼯場が使⽤していますが、既存のしがらみもあり、古い設備がなかなか更新できていないのが現状の課題ですね。
コスト問題・環境問題により、ろ材の交換⾃体も難しい。そうした過渡期のなかでは、今後は「リーチフィルター」のような低コストで環境負荷の低減にも繋がるようなろ過装置に替えていく必要があると考えています。
ーー⽔処理業界や製造業に携わる⽅々に伝えたいメッセージはありますか。
⾙原︓⽔処理は⽇本の企業が責任を持って取り組んでいく必要があるのではないかと思っています。既存の技術に頼るのではなく、⽇本初の世界的な技術を開発することで、⽔処理業界をよりよい⽅向に、共に盛り上げていきたい。
⽔は、⼈間が⽣きていくのに⽋かせない資源のひとつです。飲料だけでなく、お⾵呂や洗濯など、⽇常⽣活を送るうえで必要なものです。今後はますます、⽔の需要が⾼まっていくことも考えられるでしょう。
ほとんどの⽔は浄⽔場や⼯場で処理されています。⽔を利⽤する際には、⽔処理業界と⼀般⽣活者が決して無関係ではなく、繋がりがある関係であることを意識してもらえたら嬉しいですね。
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