リスクという不確実性の可視化を探求することで、実効性のあるリスク評価を普及させたい。企業リスク評価サブスクサービス「i-CRAS2(アイクラス2)」開発者の思い
企業リスク評価、製品リスク評価を中心に、コンサルティング業を展開してきたドキュメントハウスが、2023年5月に企業リスクを診断できるサブスクリプションサービス「i-CRAS2(アイクラス2)」をリリースする。複雑化した現代、企業はさまざまな状況に備えたリスクマネジメントを求められている。そういった状況下で、企業の抱えるリスクを手軽に洗い出し、リスク対策の指針をアドバイスするサブスクサービスを開発したドキュメントハウス。リリースにあたって、開発の経緯や思いを代表の本間俊明氏に伺った。
米国損保大手との連携をきっかけに、リスク評価システムの開発を手がける
ドキュメントハウスはマニュアルの制作・翻訳に加え、企業や製品に関するリスク評価という二本柱を中心に、コンサルティング事業を展開してきた。
もともと語学に関心があった本間は、大学卒業後、翻訳言語の修行を目的に大手電機メーカーの翻訳部門に就職した。その後、マニュアル制作・翻訳会社で北米向けのマニュアルの取りまとめ役を担い、テクニカルライターとしてキャリアをスタートさせる。
26歳のときに、テクニカルライティング事業で独立。4年後に株式会社ドキュメントハウスを立ち上げ、それ以降は家電製品・産業機械・医療機器を中心に、全業種のマニュアルの企画・制作・翻訳事業に従事してきた。
そんな本間に、あるとき転機が訪れる。1995年7月1日、日本でPL法(製造物責任)が施行されたのだ。PL法とは、製造物の不良や欠陥によって生じた損害は、損害賠償責任のもと賠償を受けることができるという法律。この法律の施行を機に、米国損保大手から本間にあるオファーが来た。
「製品マニュアルの企画・制作や翻訳に携わっていたので、海外のPL法についても熟知していたことから、米国損保大手から『クライアントに対してコンサルティングセミナーを実施してほしい』というリクエストをいただきました。そのコンサルをきっかけに、もっと大きい括りでリスクを捉えられるといいのではないかという話に発展し、業務提携をしながら全社的リスク評価のシステム開発を開始することになったのです」
そして2007年、米国損保大手と共同でクラウドコンピューティングによる企業リスク診断サービス「i-CRAS(企業リスク評価システム)」をリリースした。
素早く手軽にPDCAを回せない企業リスク評価の体制に課題感があった
リリース以降も、銀行系のシンクタンクや大手コンサルティング会社との提携を行い、サービス提供を行ってきた。しかし、本間はあるジレンマを抱えることになる。
「キックオフミーティングからリスクの洗い出し、評価前準備、評価、評価結果分析、サマリレポート作成、クローズドミーティングでの報告など、人が介在するプロセスが多く、業務を効率化できませんでした。そのため、サービスの提供価格を下げられず、リスク評価を世の中に普及していく上で障壁を感じていたのです」
業務の多様化・グローバル化に加えて、自然災害や感染症、人材不足、情報漏洩など、どんどん新しいリスクが出現する中で、リスク評価の必要性が増しているにも関わらずサービスを広く提供できない歯痒さを感じていた。
「企業リスク評価は、いかに早くPDCAを回せるかが重要です。リスク評価に費用と時間をかけすぎていると、実際に費用と時間をかけるべきリスクコントロールが手薄になるばかりか、その間にも次々と違うリスクが出現してしまう。リスクへの対応が後手に回ることで、リスクマネジメント体制の形骸化を招き、危機に陥ってから初めて事の重大さを認識する事態になりかねないのです」
リスク評価は外部のコンサルティング会社にすべて委託する企業も多いという。そのため、リスク評価がどのような観点から行われ、どのような対応が取られているか、社内担当者に少しでも知ってもらいたいという思いもあった。
「外部委託の場合、たとえば評価の規模によっては、1回の評価で1,000万近い費用がかかることも珍しくありません。さらに、企業リスクは改善できたとしても、売上との相関関係が見えにくい。つまり、やっただけの価値を社内外に証明できず、報われないと感じる担当者も多くいます」
そこで、本間はコストと時間を削減するための対策として、手頃な価格でリスク評価できるサービスを提供したいと考えた。外部のコンサル会社主導型ではなく、企業側が主体となってリスクを評価していく。つまり、企業にどういったリスクが想定されているのか理解してもらい、あるレベルまでは自助努力でリスク評価を実施できるよう支援したいと考えたのだ。
急速に変化する時代に合わせて、手軽にタイムリーにリスク評価ができるように
テレワークが一般的になってきた現代において、リスク評価もリモートで参加できる環境づくりを積極的に進める必要があると本間は感じていた。
「会社や自宅のPCだけでなく、出先からでもリスク評価に参加できるようにしなければ、目まぐるしく変化する社会に適応できません。スマホやモバイルからでもアクセスできるシステム作りが重要だと考えていました」
もともと提供していたクラウドサービスの内容にアップデートを加え、さらにサブスク化するための開発に計2年をかけ、企業リスク評価サブスクサービス「i-CRAS2(アイクラス2)」がリニューアルしリリースされる運びとなった。
1回のリスク評価は94,000円〜(内、年間登録料=24,000円)で手軽に受けられ、分析された評価データを常に確認できるサブスクプランとして全業種の個別企業向けに「i-CRAS2(シングルプラン)」、複数企業の評価を目的としたコンサル・代理店向けに「i-CRAS2(マルチプラン)」166,000円~(内、年間登録料=96,000円)の2プランを用意した。
特に、今回の「i-CRAS2」で本間がこだわったポイントは、概算損害想定額の算出ができる表示を入れたことだ。
「既存のクラウドサービスでは、リスクの危険度をスコアで提示していました。ですが、『このリスクは1000点満点で700点です』と伝えても、その点数が高いのか低いのか、実感が湧きにくいと思うんです。それなら、『このリスクは2億円ですよ』と表示されるほうが、早く何とかしなければいけないという気持ちになりますよね」
さらに、リスクマップも既存の内容からグレードアップしている。一般的に、リスクマップはエクセルファイルから集計して、それを手作業でマッピングする必要があるというが、それでは手間も時間もかかってしまう。「i-CRAS2」は自動的にリスクマップを生成し、4つのエリアを設けてひと目で危険なリスクを可視化できるようにした。
すぐに見れるようになることで、リスクへの危機感を抱きやすくなる。そこから、行動を起こしやすくもなるため、リスクへの対応に対する早いPDCAが実現されるのだ。
「4つのエリアは、受容エリア、低減エリア、移転エリア、回避エリアという内訳になっています。1番危険なのは、右上の回避エリア。ただちに、このエリアから外さないといけない大変危険なリスクです」
もちろん、顕在化したリスクに対して、リスクコントロールのための専門家によるアドバイス情報も提供されるようになっている。ほかにも、蓄積された実データから算出される市場平均、業種平均とのベンチマーク比較をリアルタイムで確認できる仕様だ。
リスクという不確実性が絶対的な形で表され、対応に移すことができる。そして、相対的
にも自社の状況が表されることで、リスクに対する危機感を正しく持つことができるのだ。
リスク評価をもっと身近に。各企業が未然に事故を防げるよう寄り添いたい
昨今のパンデミックからも分かるように、世の中には次々と新しいリスクが出現している。常に時代に合わせた動きを取っていないと、生きた「リスク評価」とは言えない。「i-CRAS2」では、今後起こりうるリスクをいち早くキャッチアップし、リスク評価項目を随時追加していけるようアップデートを行っていくという。
「リスク項目は、用意したテンプレートに加えて、自社の特徴に合った項目を10個まで追加できます。評価項目、評価データが蓄積されていくと、匿名性を持たせた上で市場や業種ごとの特性や傾向が明らかになります。同業他社との比較で、自社の立ち位置を客観的に把握できるよう、今後さらに充実したフィードバック体制を整えていきたいです」
何も起きないようにする。それこそが、リスクコントロールの目的である。しかし、それゆえに目的を達成しても脚光を浴びる機会が少ないため、地味な取り組みだと思われがちだ。
「地味ではありますが、それでもやらないと会社をリスキーな状態にさらすことになります。せっかくやるのですからリスク低減の状況が可視化できなければ、コントロールやモニタリングができないのはもちろん、担当者もやりがいを感じにくいでしょう。そのために不確実性であるリスクを数値化、見える化させたい。サービス提供の動機は、私のそんな思いに尽きますね」
会社法、金融商品取引法、東証のコーポレートガバナンスコード、開示布令(企業内容等の開示に関する内閣布令)などの要請に応えるため、上場企業だけでなく、グループ傘下の中堅・中小企業にも強固なリスクマネジメント体制が求められている。将来的にますますリスクマネジメントの需要が高まっていくと本間は予測する。
「自社がどういうリスクに直面しているか、あるいは潜在的なリスクを保有しているか。事故が起きてからでは、危機対応になってしまいます。その前にリスクに対して、何らかの対処をする。サービスを通じて、企業にとってリスク評価を身近な取り組みとして普及させることで、企業規模を問わずリスクマネジメントのメリットを享受できるよう社会貢献していきたいです」
令和2年度第3次補正 事業再構築補助金により作成
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