緑豊かなキャンパスで木の輪で学びの場をつなぎ、環境人材育成を進める玉川学園
「Tamagawa Mokurin Project」座談会(2)
多摩の丘陵地に広がる玉川学園のキャンパス(東京都町田市)で、最も標高の高い丘である「聖山」。「守り、継承する聖山」とのコンセプトで継続的に行っている「聖山労作」では、幼稚園生から大学生まで、あらゆる年代の子どもたちが間伐(かんばつ)などの聖山の整備活動に取り組んでいます。
2023年の聖山労作を主導した農学部教授の山﨑旬氏は「木を伐(き)る行為をネガティブにとらえる方がいるが、庭園木や街路樹、学園内などに生える樹木を制限なく大きく育て続けるわけにはいかない」と指摘します。木は「守る」だけでなく、倒木の恐れのある古木などを定期的に伐採し、新たな樹木が育つ素地を作ることで、人の周りの自然はどんどん活性化していきます。若い木が生えそろえば、二酸化炭素(CO2)の吸収量も増やせます。「樹木の伐採は、里山の環境を維持する上で大切なこと」(同教授の石﨑孝之氏)なのです。
https://www.tamagawa.jp/education/report/detail_22966.html
伐採した木材は乾燥させ、学内で建材や教材として利用しています。学園内には特殊な低温乾燥装置があり、45℃の低温で木材を乾かすことで、木の色やつや、手触りなど木本来の良さを残すことができます。こうした“本物”の木を素材として使い、芸術学部講師の堀場絵吏氏は空間デザインに生かし、工学部講師の平社和也氏はものづくりに応用するなどして、地域のイベントやワークショップで披露しました。
木の輪で学びの場をつなぐ、こうした「Tamagawa Mokurin Project(タマガワ・モクリン・プロジェクト)」の一連の活動が評価され、玉川学園は2023年末、環境省が主催する「第11回グッドライフアワード」で実行委員会特別賞「子どもエンパワーメント賞」に輝いています。
https://www.tamagawa.jp/news/news_release/detail_22658.html
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【山﨑旬(やまざきじゅん)農学部 環境農学科 教授】
専門は保全生物学、植物繁殖学。植物の人工増殖方法の技術開発や絶滅危惧植物の保全に関する研究に従事。キャンパス内にはラン科植物やシダ類などの希少な野生植物が自生しており、組織培養による増殖などを通じ、その保護や持続的利用(保全)を目指す
【石﨑孝之(いしざきたかゆき)農学部 生産農学科 教授】
専門は応用微生物学。菌類、特にきのこの生理生態について研究。学内のバイオバンクに保管されているきのこの菌株の中から、樹木病害の防除に効果のある菌などを探す傍ら、学生と一緒にキャンパス内できのこ採集をする
【堀場絵吏(ほりばえり)芸術学部 アート・デザイン学科 講師】
専門は空間デザイン。展覧会の会場構成やワークショップの監修、プロダクト・ディスプレイデザイン、地方創生をテーマとしたデザインに関する研究教育活動を行う。木に限らず、さまざまな素材でワークショップなどを手がける
【平社和也(ひらこそかずなり)工学部 デザインサイエンス学科 講師】
専門はメディア工学。デジタルデータを基にものを作る3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション技術でデバイスやアプリケーションを一から開発し、ユーザーに対して意図した効果を発揮しているかを定量的、かつ定性的に計測している
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――山﨑先生は、プロジェクトで木を「殖やす」部分を手がけられていますね。
山﨑「私は植物の増殖を専門にしていることもあり、Mokurinプロジェクトでも、木を伐って利用しつつ、循環させるために種子から樹木を殖やすことが重要だと考えています。昨年の聖山労作では巨大なヒマラヤスギを伐採し、またクマノザクラを植樹しました。スギの間伐材は、2025年の大阪・関西万博で構造物として使われる予定です。こうした活動と同時に、ナラ枯れの被害に遭った学内のカナダピンオークの後継樹として、ドングリから育てた苗木作りなどにも取り組んでいます。まだ幼苗なので、引き続き育成が必要ですね」
――きのこが専門の石﨑先生は、学内の木をどのように利用しているのですか。
石﨑「学内で伐採したコナラやマテバシイを使って、学生とシイタケの原木栽培をしています。春に栽培を始め、秋にたくさんのシイタケを収穫することができました。栽培したきのこを、DNA抽出実験の材料としても活用しています。伐採した樹木もいろいろな方法で有効活用できることを、このプロジェクトを通じて多くの人に知ってもらいたいと思います」
――堀場先生は、Mokurinプロジェクトと、三菱地所ホームが「木と出会う」場の創造を目指す「KIDZUKI(キヅキ)」の活動との橋渡しをされていますね。
堀場「はい。一時発足に関わったKIDZUKIとMokurinをつなげることで、企業の視点と教育の視点が組み合わさり面白いのではないかと考えました。実際にKIDZUKIとは、プロダクト開発やワークショップなどで連携を進めています。Mokurinプロジェクトでは、大切に育てられた木を使ったものづくりを、地域に結びつけられるような活動にしていくことを目指しています。木の葉で作る鳥の自然観察キットなど小さなものから、木の家具など大きなものまで、学生とさまざまなものづくりをしてきました」
https://kidzuki.jp/articles/mokurin_1_20230224/
――一方、平社先生は工学としてのものづくりですね。
平社「私も育ててもらった木材を使う係です。堀場先生が『地域』を拠点にされているのに対し、私は加工の現場にいます。もとは金属加工やデジタルマシンによるものづくりがメインでしたが、加工マシンの基本構造は同じであることから、プロジェクトをきっかけに木も扱うようになり、作り手として間伐材を有効利用する道を探っています。デジタルツールの活用でものづくりの敷居が低くなり、学園全体に開かれたものづくりスペース『メーカーズフロア』では、農学部や芸術学部など他学部の学生や、中高生もものづくりができるようになっています。木に親しみ、現場で一緒に試しながらものづくりを楽しんでいます」
――地域のさまざまな体験型の催しにも出展されていますね。
平社「そうなんです。例えば、キャンパス内で剪定(せんてい)した木材を使ったコースターづくりのワークショップでは、子供連れのファミリーや年配者など幅広い年代の来場者に描いてもらった絵や、スマートフォンで撮った写真をその場でレーザー彫刻機でコースターに焼き付けて喜んでもらいました。また、キャンパスの弓道場にあった古い看板をどうにか現代によみがえらせようと、看板の文字をスキャンしてデータ化し、木に彫り込んで木の看板として復元するなどの試みもしましたね」
堀場「平社先生も参加された『横浜開港祭』のイベントでは、私は木の家具を使った空間デザインを担当して工学部と芸術学部の連携で出展しました。ほかには、静岡県菊川市のまちづくりに3年前から関わっており、ゼミ生と現地に赴いてアートの力を使ったまちづくりについて議論したり、『深蒸し菊川茶』を味わうための木製の湯飲みを玉川産の木で制作したりしています。また、お隣の静岡県掛川市のオチャノキを使用してディスプレイを制作し、地域のイベントで展示もしてきました」
山﨑「私も地域のイベントに学生たちと参加し、『タネから木を育てよう』ということで、文字通りタネ(種子)を採集し、鉢にまいて育てるというレクチャーをしました。自信とホスピタリティーあふれる姿勢で一般市民の参加者に対応してくれた学生たちの成長に感動しましたね。プロジェクトのおかげで、学生間の異学部交流も進んだように思います」
――今後、Mokurinの輪をどのように広げていきますか。
山﨑「乾燥技術の発達などさまざまなノウハウが蓄積されることによって、昔は使えないとされた木も活用シーンが広がってきました。殖やす側からしてもモチベーションが高まりますね。今後も学内の諸事情で伐採される、あるいは不慮の倒木や立ち枯れなどが生じた木があれば、その子孫やクローンの増殖や再植樹を行い、“思い入れのある木”を『殖やす・育てる・植える』ことに貢献していきたいです。樹木を育て、活用し、それにかかわる人の輪を育む。このプロジェクトは、そうしたことを大切にしながら百年単位で続けていく取り組みだと思っています」
石﨑「原木栽培の作業には労力がかかりますが、皆でワイワイ作業をするのは結構楽しいものです。幼稚園生から教職員まで、全員が参加できる活動になればいいなと思っています。また、秋の文化祭(収穫祭)で、来場者に原木を頒布してこの取り組みを広めていけないか、学生と話し合っているところです」
堀場「素材として魅力的な木に触れるようになり、このアイデアを木で試したらどうなるかと、プロジェクトを通じて『木×○○』がまず頭に浮かぶようになりました。これまで木が使われていなかったものを木で表現することで、新しい価値も生まれます。また、こうしたものづくりを通じて、『命の循環』を伝えていきたいです。例えば木のテーブルには、子どもたちが遊んだ後にさまざまな傷が刻まれます。私たち人間も老いていくように、大切に育てられた木が別の形でその役割を務めていくというこの『循環』を多くの人に感じていただきたいです」
平社「私はプロジェクトの発足当初から活動していますが、これまでは機会がなかった学園の北海道の弟子屈農場に農学部の先生らと出向くなどの経験もできました。今後は経営学部や観光学部とも互いの専門を生かして玉川大全体で発展させていけたらいいですね。地域の方との交流の“ハブ”にもなっており、木の輪で人の縁がつながるプラットフォームになりつつあると感じます。地に足をつけ、泥だらけになりながら、皆で考え、進めていく。そんな、きれいなかけ声だけではない、本質的な部分で機能していることが、玉川学園のMokurinの良いところではないでしょうか。その機動力などを生かして、より社会に対して発信していけたらなと思っています」
Mokurinプロジェクト
https://www.tamagawa.jp/sdgs/article/detail_010.html
玉川学園のSDGsの取り組み
○Mokurinプロジェクト インスタグラム
https://www.instagram.com/tamagawa.mokurin.project/
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