英国ロイヤル・バレエ団よりスターダンサーを招いてガラ公演を開催。プロデュースは秋田市在住の夫婦。夫婦二人三脚で運営するプロダクションが、多くの人に支えられながら無事開催するまでの奮闘のストーリー。
写真©️Andrej Uspenski
2023年8月5日、6日に札幌文化芸術劇場hitaruで、8月10日にあきた芸術劇場ミルハスで英国ロイヤル・バレエ団よりプリンシパルダンサーを初めとする世界トップレベルのダンサーを招いてバレエの公演を行いました。主催したのは秋田市在住の夫婦で運営するS Art Production。無謀と思えた初回公演を無事に終えることができた喜びと奮闘を振り返りながらお話ししたいと思います。
代表のソ・ドンヒョンと妻の私のヒストリー
カナダ国立バレエ団所属時のドンヒョン
日本でバレエダンサーとして生活していくのは金銭的に難しいということは、バレエを少し知っている方はご存知のことかと思います。しかし、バレエダンサーとして海外のバレエ団に就職し、ある程度活躍した後もなかなか難しい人生が続くのです。
多くのバレエダンサーは幼少期にバレエを始め、10代前半からコンクールに明け暮れ、バレエ学校入学、バレエ団へ入団とバレエ一色の人生を送ります。入団は17-18歳が多く、そこから社会人として自分で責任を負い、親元から遠く離れた地で就職することも多くなります。そして、バレエダンサーは遅かれ早かれ引退の時期があり、人生を賭けてバレエを踊ってきているにも関わらず、その後の人生は保証されていません。
代表のソ・ドンヒョンもバレエ学校の守られた環境から急に責任と自由を手にして戸惑ったと言っていました。ティーンエイジャーのドンヒョンは、正しく導いてくれる恩師の存在が遠くなったうえに、怪我に苦しみ、嘱望されていたようにバレエ人生を歩むことは出来ませんでした。
そして30代前半でバレエを踊ることから引退した後に、他の職業に転身を考えていましたが、外国人、地方在住、バレエ以外の経験なしなどの条件から、やはり難しいと考え、バレエを職業としてやっていくことになりました。ドンヒョンのバレエダンサーとしての最後を見届け、その後は、彼の引退後のキャリアと、二人の生きる道をともに模索してきました。
秋田市の新劇場オープンを機に、公演のプロデュースを決意
2020年よりバレエ教室を主催し始め、時を同じくして秋田市に新しく劇場が建設されることを知り、公演を行いたいと夫婦間で話すようになりました。この目標に向かって進むことが、コロナ禍が世界を覆う中での一筋の希望のように思えました。人々が移動することや集まることが著しく制限され、舞台芸術は本当にコロナとの相性が悪く、どこの団体も本当に苦しい状況にあった時期でした。
その日々の終焉と新しい時代の幕開け、それを住んでいる秋田に、北日本に届けたいという強い想いを元に公演開催へと進み始めました。
踊ることは出来るが日本語をあまり話せない夫と、医療職でバレエは習い事としてしか経験のない妻の組み合わせでの二人三脚での奮闘が始まりました。
公演から遡ること2年前の夏、公演を行う頃にはコロナが落ち着いているのではないかと予想して2023年夏に公演を行う目標を立てました。せっかく公演するのなら夫婦が暮らしている北日本の方に公演を届けたいと、札幌文化芸術劇場hitaruへ連絡を取ったところ、快く実績のない私たちにも劇場の予約を受け付けてくださいました。まだ基礎工事中だったあきた芸術劇場ミルハスも無事予約することが出来ました。
芸術監督をお願いしたネイマイア・キッシュ氏はドンヒョンのカナダ国立バレエ学校時代の親友です。キッシュ氏とは劇場を予約する前から、公演開催について相談し始めました。キッシュ氏は英国ロイヤル・バレエ団元プリンシパルダンサーで、昨年9月にロンドンでの5日間に及ぶガラ公演の芸術監督も務めた経験も持ち、彼から何から何まで教えてもらうことになります。そして世界トップレベルの素晴らしいダンサー達もキッシュ氏の声掛けでロンドンから集まって来てくれました。
公演実施を決定してからの紆余曲折。夫婦で悩み、考え、乗り越えた
さて、日程と会場は決まり、その後舞台照明も秋田市に拠点を置く会社に依頼することが出来ました。
そこから何をどのようにしたら良いかわからず、時間ばかりが過ぎていきました。プロモーターをお願いすることも検討しましたが、うまく話を繋ぐことが出来ず、費用の面からも夫婦で舞台を運営していくことになりました。CM作成、依頼、ポスターやチラシの作成、新聞への広告掲載、ビザの取得、航空券や国内での移動および宿泊先の手配、プログラムの作成、グッズやフォトブースの作成など仕事は多岐に渡り、ほとんどの仕事を夫婦でこなし、キッシュ氏、カンパニーマネージャーに支えてもらいました。
今年2023年に入りエアコンもない自宅の一室に、ようやくパソコンを購入し細かい実務を開始できる体制を整えました。
公演グッズのデザインも担当
この公演を行う中で一番苦労したことは、依頼先がわからないこと。初歩的な例を挙げると、どこに依頼してチケット販売サイトに掲載してもらうか、プログラムの編集は誰に依頼したら良いかなどもわかりませんでした。ひとつずつ何が必要か考え、依頼先を探し、発注するという手順を限られた時間の中で繰り返し、時間が足りないと常に感じていました。小さい子供が家にいて、私は医療者として夕方まで働き、帰宅後は寝るまでガラ公演の仕事をするという日々が続きました。
そして舞台として形になりそうだとようやく思えたのは公演1ヶ月前ほどでした。
収支は赤字。しかし多くの方々との繋がりや、学びが得られた
公演はさまざまなハプニングやトラブルに見舞われましたが、素晴らしいダンサーやチームのおかげで幸せをたくさん感じながら無事に終えることができました。
公演後、初回に求めるものは何だったのか、何をどうしたら良かったのか、自分たちの中で大成功だと思えない原因は何か、たくさん考え、話し合いました。大成功だったと言えない原因は収支を大幅にマイナスにしてしまったことに尽きます。思ったように集客することが出来なかったことに加え、昨今の物価上昇の影響を受けて、航空券や宿泊費が高騰により当初予定していた予算よりもかなりかかってしまいました。
しかし公演から数ヶ月経って、得られたこともたくさんあると改めて思います。
まずは、参加されたダンサーの皆さんが札幌と秋田を楽しみ、私たちの公演にまた参加したいと言ってもらえました。とても小さなチームだったのでダンサーとの距離も近く、互いに名前で呼び合う仲となりました。
そして、今回私たちの理想に共感し、たくさんの方々が関わってくださいました。どの方も心から私たちを応援し、舞台芸術を運営するということの段取りがわからない私たちに時間を割き、一緒に考えてくださり、本当に周囲の人に恵まれ、助けられたなとしみじみと感じています。
秋田公演ではレッスン見学会を実施。ドンヒョンがレッスンを教えた (写真左端)
実際の公演は、劇場を満席するほどの動員は出来ませんでしたが、ご来場されたお客様が嬉しそうに帰る姿を見ることができ、感無量でした。「札幌で、秋田で、こんなに素晴らしいダンサーの踊りを見ることが出来て、一生の思い出になった!」「涙が止まらなかった」「また是非札幌や秋田で公演を行って欲しい」などたくさんのポジティブな感想をいただきました。
『白鳥の湖』よりヤスミン・ナグディ、ウィルアム・ブレイスウェル
写真©️Andrej Uspenski
公演後3ヶ月以上が経過し、初回公演を成功させるべく全身全霊を尽くし、消耗したエネルギーも回復してきました。今回行った公演の上手くいかなかったことを直視し、培った人との繋がりや楽しみにしてくれているファンの期待を糧に、また頑張ろうと思えるようになりました。皆様に素晴らしい舞台をお届けすることが出来るよう夫婦二人三脚で邁進していきます。
S Art Production:
秋田県秋田市でバレエのオープンクラス「S Ballet Open Class」を主催。
2023年8月5日、6日(札幌)、10日(秋田)で「Royal Stars Gala」を開催。
同公演には英国ロイヤル・バレエ団より、サラ・ラム、、平野亮一、ウィリアム・ブレイスウェル、フランチェスカ・ヘイワード、ヤスミン・ナグディ、マルセリーノ・サンベ
、高田茜(プリンシパル)、崔由姫(ファーストソリスト)、中尾太亮、ルーカス・ビヨネボ・ブレンツロ、チョン・ジュニョク(ソリスト)、五十嵐大地(ファーストアーチスト)、イングリッシュ・ナショナル・バレエ団よりフランチェスコ・ガブリエル・フローラ(プリンシパル)が参加した
今後もバレエ公演の開催を目指す。
公演時のグッズ販売をRoyal Stars Gala Storeで行う。https://sballetopenakita.stores.jp/
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