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日本にも気軽にカウンセリングを受けられる土壌を作りたい。社会保険労務士が心理相談アプリ「Plattalks」開発に取り組んだストーリー

著者: 社会保険労務士法人プラットワークス

社会保険労務士法人プラットワークスは、企業の各成長フェーズに特化したサービスを提供する社会保険労務士法人として、お客様のビジネスの成功をサポートしています。事業計画・人事制度の立案、女性や子育て世代が活躍できる組織づくり(えるぼし・くるみん認定支援等)、組織再編・海外進出・IPO支援、補助金・助成金等の資金調達支援など、各個人の成長機会やクリエイティブな価値が、自然と生まれる風通しの良い組織運営を実現し、働くことの楽しさを思い出す組織づくりをサポートしています。

また、2021年より提携企業の従業員様向けのオンライン心理カウンセリング事業「Plattalks」(https://www.plattalks.com)をスタートし、2024年度からは全国の市区町村の子育て世帯、および個人向けにもサービスを展開していく予定です。

今日は、心理相談アプリ「Plattalks」誕生のストーリーと、「Plattalks」にかける思いを、開発者であり法人代表の芳賀満が振り返ります。【聞き手:プラットワークス カウンセリング担当 小木曽由佳(公認心理師・臨床心理士)】 



仕事による「うつ」を予防できる環境を作りたい、という思いから社労士が心理カウンセリング事業を展開することに

──社会保険労務士事務所が心理カウンセリング事業を行う、というのは、なかなか類を見ない、珍しい試みであるように思います。芳賀さんはどのような思いがあってこの事業に乗り出されたのでしょうか。


芳賀:私はこれまで、一貫して「職場環境を見る仕事」に従事してきたといえます。社会保険労務士になる以前、実は厚生労働省の職員として、労働基準監督署に勤務していました。そこでいわゆる「労働災害(労災)」の認定の仕事をしていたのです。労災の中には、激務から来るうつ症状など、精神疾患に関するものも数多くありました。そうして働く中で、制度自体は労働者の安心・安全を守るうえで素晴らしいものだと思う一方で、精神疾患というところまで至ってしまうと、なかなか社会復帰することができないという問題がありました。どうにか、そこまでに至らない環境、うつを予防できるような環境を作りたいと思うようになったわけです。

経済を回していくうえで、世の中には色々な事業者がいて、その組織で働く人がたくさんいます。利益を追求するうち、働く意味が見えなくなったり自分を犠牲にしてしまったりするなかで、ハラスメントや一線を越える言動が出てきてしまう。それはその人だけの問題ではなく社会の問題であるようなところもあると思います。組織というものがある以上、そこにある程度は内在したものなのです。

その後、厚労省を退職し、社会保険労務士としてコンサルティング事業でたくさんの企業を支援していくなかでも、やはり組織というものがもつ問題が見えてきました。人事制度の狭間で、仕事をやめにくい人がどうしても嵌まってしまう穴のようなものがあり、“お金をもらっている人は幸福そうだが弱者でもある”と感じました。そこをどうにかしていきたいという思いが心のどこかにあったのです。

日本では保険医療とならない心理カウンセリング。まずは企業の福利厚生サービスとして普及させたい

──芳賀さんが厚労省におられた頃から8年がたち、時代的な状況の変化もあったでしょうか。


芳賀:世の中全体からしても、コロナ禍などに伴う特有のストレスも増えてきているでしょうね。また、友人や周りの人と対面で話す機会も顕著に減りました。しかも核家族化は進む一方で、家族の中にも、昔のように話せる人がなかなか話す人がいない。家でも外でも話しにくいというように、個人化が進んだことによる弊害もある中で、予防的な観点で心理カウンセリングを受けられる環境があったらいいと思います。

 

──日本ではまだあまり心理カウンセリングが身近とは言えないのでしょうか。


芳賀:アメリカでは、日本と違ってカウンセリングが保健医療の対象になることも多く、そうした仕組みが組織の維持にも役に立っているし、社会から出てしまう、あるいは出てしまった人のためのセーフティーネットとしての役割を果たしています。調べていくうちに、日本の保険制度では歴史的な経緯もあり、カウンセリングが医療の対象にはなりえないということもわかってきました。だからまずは、カウンセリングを企業の福利厚生サービスとして導入してもらうというやり方に思い至りました。はじめは企業、地方自治体、そしてゆくゆくは国にも働きかけたいと思います。医療制度や政策にまつわる、とても大きな問題だと考えています。

きっかけはコロナ禍。医療従事者へのストレスケアへの思いからアプリ開発を決行

──そうした問題意識を持っておられた中で、Plattalksの事業に実際に着手されるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。


芳賀:きっかけはまさに、新型コロナウイルスの流行でした。2020年2月、世界がまだこのウイルスの存在をあまりよく知らなかった頃、クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号の中でCOVID-19の集団感染が発生したという事件を、皆様もよく覚えていらっしゃると思います。私たちは、この未曽有の事態に得も言われぬ恐怖感を覚えたものでした。

しかしそんな中で、感染者が次々運び込まれた病院の医療従事者の方々は、死に物狂いで未知のウイルスとの戦いに挑んでいました。防護服を着て、救急車で運ばれる乗客の対応をしている医療従事者の姿が、連日テレビで映し出されていたものです。

知り合った心理士さんの縁で、ある大手医療グループをご紹介いただき、そこで医療従事者の方のストレスケアをできないかという思いをもっておられることを知りました。先ほど言ったような、心理カウンセリングへの思いもあったことから、困っている医療の方がいて、それを助けたい心理士さんがいるのなら、一緒になれることがあるのではないかと思ったのです。そういうわけで、2020年の4~5月頃、1,2か月、本務の事業をストップさせ、持ち出しでアプリ開発に取り組みました。

 

──今困っている人を助けたいという強い志を持っている人を目の当たりにしたことがきっかけになったのですね。


芳賀:そうですね。自分でやりたいというよりは、やりたいという人たちとの出会いが先だったのかもしれません。受け入れ病院にも実際に訪れて院長から話を聞き、医療法人の本部にもつないでもらいました。

そういう経緯で、Plattalksのひな型が完成し、医療の最前線で高いストレスにさらされている医療従事者のメンタルヘルス維持のため、スマートフォンで気軽に話ができる場を作り、心理的側面から貢献することを理念に、有志の協力者・心理カウンセラーによるプロジェクトとして、ボランタリーな活動から始まったわけです。

ボランティアとして集まってくれた心理士たちとの協働の方法を模索

──皆さんボランティアだったのですね。何名くらいの心理士さんが活動されていたのでしょうか。


芳賀:知り合いの心理士で声を掛け合って、かれこれ30名程度が集まってくれました。現場の看護師さんのご利用がとりわけ多かったようです。定期的にオンラインミーティングを実施し、心理士同士で情報を共有していました。経験豊富な心理士が多く、ボランティアということもあってか、志が高いので、私自身、常に刺激を受けました。

 

──心理士と密に関わるという体験もこれが初めてだったのでしょうか。


芳賀:そうなりますね。心理士の方たちとの付き合い方は、ビジネス感覚と大きく違うところがありました。ビジネスで出会う人たちとはペースが違うのです。私もコンサルタントの中では理屈ばかりで進めるタイプではありませんが、心理士の方は同じ“士”業ではあるものの、時間やお金だけで動く人たちではない。ボランティアと、お金や効率は、仕事の意義としては逆のものですから。そこは私も同じ気持ちでやっているところがあるので、それはそれで共有できました。

従来の時間感覚とは違うので、もちろん最初は戸惑うところもありました。何か物事を進めていくときにスピード感を重視している方たちではないので、なかなか次のステップが決まらないこともある。でも、迷うところは私が決めていく、という役割分担が自然にできていきました。そのうちに、そういう決定の仕方もいいなと思うようにもなりました。そういう中で出てくるものもある。無理に決めようとしないで、時間をかけて一緒にやっていくということの大切さもわかっていきました。それまでは何でも即決、スマートな解法を探る、というのが当たり前でしたから。このプロジェクトの一番の収穫は心理士の方々とお付き合いできたことだったかもしれません。コンサル業にもいい影響があったように思います。

      

──このプロジェクトはどれくらい続いたのでしょうか。


芳賀:Plattalksは当初より無償で提供していたこと、システム開発から運営維持のための費用もかかっていたこともあり、半年くらいたったあたりで、「もうこれ以上プロジェクトを継続するのは難しい」という絶体絶命の状態に陥りました。サービス終了が目前に迫ったところで、先述の医療法人から外部のメンタルヘルス相談窓口(福利厚生制度)として継続的にご利用いただけることになり、急遽、事業化に向けて準備を開始することになりました。

このことを心理士さんたちに伝えようとすると、どの人も、自分はボランティアとしてやっていた、ビジネスのつもりはない、と事業化にも参加される方は一人もおられませんでした。筋を通すというのはそういうことなんだな、と改めて感服したのを覚えています。

組織人事コンサルティングと心理学的アプローチを掛け合わせることが、組織力向上に繋がる    


──事業化してからの展開を教えてください。


芳賀:2020年末、「就業者に対する予防的なメンタルケア」を事業目的として、改めて23名の心理カウンセラー(有資格者)を募り、利用者の方が必要な時にいつでもご利用いただけるように、カウンセリングサービスの安定的な提供を第一に、再スタートを切りました。ウィズコロナ・アフターコロナの時代において、組織のあり方・働き方は急激に変化しています。組織そのものの変革も求められる一方で、組織や働き方の変化に伴う心理的なストレスの高まりで、個人に対する心理的ケアの重要性も一層高まりつつあると思います。これまでプラットワークスが提供してきた組織人事コンサルティングサービスと、心理学的アプローチを掛け合わせることで、「社員一人ひとりが環境の変化に対応できる強さを備え、人と組織が繋がり組織力を向上させる。」この新たな価値を届けたいという思いで、Plattalksをより多くの企業様にご利用いただけるように、鋭意努力しているところです。

提携企業様には、「スマホで時間や場所を問わず、サポートを本当に必要とする時に自分の都合に合わせて専門的なノウハウのある相手に相談ができる点や、組織外かつ匿名制ということもあり職員が気軽に相談できる点」を評価いただき、継続してご利用いただいています。

また、今年度、Plattalksが経済産業省の推進する「IT導入補助金2023対象ITツール」に認定されたことで、中小企業・小規模事業者等の皆様は、初期導入費用+2年分の月額基本料金の50%の補助金の交付を受けていただくことができるようになりました。これまで費用がネックでご導入いただけなかった企業様にもご検討いただきやすくなると思っています。このサービスが少しでも多くの方に届けば嬉しいですね。

 

──今、事業として芳賀さんを突き動かしているものは何なのでしょう。


芳賀:事業として、正直なところ採算は難しいところもあります。やっと黒字化が見えてくるかというところです。それでも、一緒にやってくれる心理士の人たちがいて、相談者がいる。企業も価値を感じてくれている。全体のニーズがあるということは社会に必要な存在なのだと思っています。私の場合、いい活動だからやろうという発想ではなく、目の前に相談者と、心理士と、利用する会社があって、みんなが欲しそうだからやる。はじめは細々というところから、いつか役に立つし、目の前の人たちがいるから止めないでやってきました。お金の問題は、時が来れば何とかなる。いつか相談が増えることもあるだろうと。その時にしっかりしたサービスとして提供できるように試行錯誤しながら進めているところです。

必要な人がいて、一緒にやるモチベーションの高いメンバーがいるから、やっていて楽しいのです。幸い、他の事業の方は順調なので、多少の赤字も許容できます。面白い仕事はぎりぎりなもの。コンサルティングの事業でたくさんの会社を見る中でも、本当に面白い仕事というのはどんなものなのか、わかってきたところがあります。 

働くことの楽しさを伝えたいという思い。カウンセリングで心を整理し、その人に合った道を見出してほしい


──働いている時間は人生の大きな部分を占めるので、仕事と面白さが結びつくと幸福度が上がりそうです。


芳賀:働くことの楽しさを伝えたいという思いはありますね。労働基準局で経験を積み、コンサルタントとしてたくさんの労働のあり方を見ていく中で、また、自分自身が働く中で、だんだんと実感できるようになっていったことがあります。それは、時間を守り、経済的に安定する生活も幸福ですが、それが全てではないのではないかということです。経済的なところだけに注目すると今を生きづらくなり、メンタルヘルスの不調にもつながります。そうではなくて、経済面以外の小さな報酬の存在に気づくことが重要だと思うようになりました。

労働法では、休憩時間の定義が”労働からの解放が保障されていること”としています。しかし、私は、働くこと自体に解放の要素があると言いたい。働いていて楽しい瞬間、それが世の中のため、人のためになると思えるとき、そこには見えない報酬があります。それは心で感じられるもので、心が元気になれば、自然とそこに経済的なものが付随してくる。国民経済の繁栄の礎はまさにそうしたところにあるはずです。日本の労働環境に、この状態を増やしていきたいのです。心の自由主義とでもいえるでしょうか。

私にとって、Plattalksのカウンセリングは、心を整理し、まずは今の与えられた場でいったん道を見出していただくためのものと考えています。もちろんそのうえで転職を考えるのもひとつの道ですが、あくまでも、自分のやりたいこと、向いていることに心から気づいていくことが、その後の人生にとって何より不可欠なことだと思っています。その先に、こういうサービスが日本でもアメリカのように、国内全体で、個人個人がハードルを感じずに受けられる環境にしたいという野望もあります。働く世代は子育て世代とも重なります。これまで企業向けに行ってきたPlattalksのサービスを、仕事と家庭を両立する親御さんにも広げていければと、現在首都圏のいくつかの自治体にも具体的にご検討いただいています。

 

──今後の展開が楽しみです。今日はありがとうございました。



 Instagram開設しました。

 アカウント:@platworks_sr

 URL:https://www.instagram.com/platworks_sr/




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