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80代の著者さんもおられます。

パブリックアートの実践40年の軌跡 : 「場」に息づくアートを仕掛けるアートプレイス株式会社

著者: アートプレイス株式会社

中村哲也《B.S.EAST》 / 《V.O.WEST》2006

成田国際空港 第1ターミナル 南ウィング

(東の雲[Blue Sky East]/西の波[Violet Ocean West]) (撮影: フォワードストローク)



街のあらゆる場所にアート作品を企画、設置、展示してきたアートプレイス株式会社は、今年で40周年を迎えた。1983年の創業(前身の株式会社コトブキ トータルアート事業部より)から700件あまりのプロジェクトで延べ1388人のアーティストと関わり、パブリックアートの実践に取り組んできた。アートを仕掛けた場所も、オフィスビル、空港、病院、集合住宅、大学や小学校など多岐に渡る。

時としてアート作品は、その「場」のシンボルになったり、市民の交流を活性化させる起爆剤となったり。

また、パブリックアートは時代と共にその形状を変え、スチールやステンレスのモニュメントから次第にワークショップや市民参加型のプロジェクト、デジタルアートなど、多様な表現へとその領域を広げている。アートプレイスはパブリックアートを通して40年間、街や社会の変化に呼応しながら街の文化を創ってきた。そして今日も街や社会にアートを提供しながら、アートを通した人と人、人と地域や社会をつなげる「場」に息づくアートを仕掛けている。

パブリックアートのパイオニアとして築いた基盤

山本衛士《 飛躍 》 1989 茨城県那珂市役所庁舎


アートプレイス株式会社は、その前身となる株式会社コトブキ(公共家具メーカー)のパブリックアート事業専担部「トータルアート事業部」(その後タウンアート部に改称)としてその活動を開始した。

活動が始まった80年代は日本経済が右肩上がりの時代。パブリックアートを取り巻く環境も今とは全く違ったという。公共事業を請け負う設計事務所からの依頼が主流であった。竹下内閣肝入りの政策事業「ふるさと創生一億円事業」で「地方の時代」とも言われた時代であった。地方自治体も、競うように公共空間にモニュメントを作った。当時はパブリックアートとして設置される作品も、権威ある作家の高額で巨大なステンレス、スチール、石などを使ったモニュメントが目立った。

90年代までは、場所の特性を活かして作られるサイトスペシフィックの作品や自治体の受注に作家たちが関わるコミッションワークが主流であった。しかし、96年くらいにモニュメント型の潮流は終焉を迎える。

創作のサポート:アーティストにとっての新しいチャンス

フレデリック・フンデルトワッサー緞帳《マッシュルーム》1992 

葛飾区文化会館(かつしかシンフォニーヒルズ)


1992年、トータルアート事業部は葛飾区文化会館(かつしかシンフォニーヒルズ)のプロジェクトでフレデリック・フンデルトワッサーほか6名の作家のアートワークの総合プロデュースを行なった。

トータルアート事業部時代には、アートワークの総合プロデュースで経験と実績を積み、その後の株式会社タウンアート、アートプレイスへと受け継がれることとなるパブリックアートの基盤を築き上げた。


その基盤とは、プロジェクトのために作品制作を依頼をした作家をサポートする、プロデューサー的な役割である。設計者やクライアントからは要望や条件(大きさ、用途、予算、納期など)を、作家からは作品制作のイメージを聞き、双方の希望が最大限叶えられるよう、それぞれの言語を理解し伝える中間子のような役割を果たす。また、設計者やクライアント、作家と協働してイメージを作っていくのがコミッションワークである。


そして、何よりもパブリックアートに求められるのは「公共性」で、多様な解釈ができること、人に危害を与えない、恒久性と耐久性が要求される。

また、どういう作家をどのような場所に当てはめるのかマッチングを見抜く力も必要だ。作家にとってはギャラリーや美術館とは違う発表の場となり、うまくマッチすれば作家にとって次のチャンスにもつながっていく。


アートの価値づけが「もの」から「こと」の時代へ。(2000年代)

撮影: 初取伸一・株式会社タウンアート


2000年、営業形態が事業部から株式会社タウンアートとして独立する。2000年代に突入し、行政は経済的にも厳しくなった。これまでのパブリックアートはまちづくりを後押しする地域アートプロジェクトへと姿を変えていった。


地方創生の時代に日本全国に作られたモニュメント彫刻をこれ以上増やす必要があるのかという議論も起こった。モニュメント型のパブリックアートへのオファーが減少し、地方文化行政の後押しもあり、プロジェクト型の地域アートが盛り上がる。


そのような中、パブリックアートもアートプロジェクトの潮流の影響を受ける。市民参加型で制作のプロセスにも重きを置くパブリックアートの出現だ。また、アートにおいて「もの」より「こと」が注目されるようになると「もの」がない、自然現象を使ったアート作品もパブリックアートに登場する。

市民参加型のプロセスによるパブリックアート

カトウチカ ワークショップ《ユメノタネーハコブ・マク・ハルー》

2004年9月6日〜8日 武蔵野市立大野田小学校


2005年に竣工した武蔵野市立大野田小学校のプロジェクトは市民参加型の成功例である。小学校の移築に伴う新校舎に向けてのパブリックアート計画の実現であった。移築前の旧校舎での計画から始まり、作品制作・完成までのプロセスを全て公開し、作家や子どもたち、街の人々を巻き込んでの市民参加型プロジェクトであった。作品案の公募から公募作品展や市民による投票、子どもたちとのワークショップや作家による授業などを実施した。また、市民の投票により作家を選出したことで若手作家の発掘と育成の役割も果たした。


カトウチカ《ユメノタネーハコブ・マク・ハルー》2004

武蔵野市立大野田小学校 正門前


正門前にあるカトウチカによる人型の彫刻作品《ユメノタネーハコブ・マク・ハルー》は学校のシンボル的な存在になっていった。数年後には、PTAの要望で小学校を卒業する生徒にミニチュアキーホルダーにして配られ、小学校の思い出のひとつとして大事にされた。

ものがないこと(インマテリアル):自然現象を使ったパブリックアート

チャールズ・ロス《 Spectrum 12 》1999

埼玉県立大学 学生会館内吹抜け ©安齋重男


1999年に竣工された埼玉県立大学の例は2000年代からの新しい潮流を代表する。アメリカの現代美術家のチャールズ・ロスの作品《 Spectrum 12 》だ。彼は、自然光や時間の移ろい、惑星の動きなどを作品にすることで知られている。埼玉県立大学の学生会館 吹抜けには、トップライトに巨大なプリズム彫刻を設置し、そこに太陽光が当たると部屋中の壁や床などあらゆるところに色鮮やかなスペクトルの光が虹のように投影される仕組みになっている。


チャールズ・ロス, 《 Spectrum 12 》1999

埼玉県立大学 ©安齋重男


室内のスペクトルは1日の時間の流れや季節の移ろいによってその姿を変容させる。近代的な建造物の中にいながら、地球の自転を感じたり、見る者に気づきをもたらしてくれる。建築に取り込まれた環境アートの一例である。


アートプレイスでの時代の変化への対応(現代性・革新)(2021年〜)

現在は、地域アートのブームも一段落し、ビエンナーレ、芸術祭、アートフェアが美術の潮流となった。株式会社タウンアートは2021年に会社の名称をアートプレイス株式会社と改め、未曾有の世界的な危機であった新型コロナウィルス渦を体験した後の新しい時代を迎えている。


常に時代の変化と共にあるパブリックアートを提案してきたアートプレイス。

これまでタウンアートで実践してきたことを繋げながら新しい時代のクリエーションを提案している。


アートプレイスウェブサイトのアーティストインタビュー アーカイブ


現在、アートプレイスのホームページにはこれまで関った作家たちの創作についてのインタビューが収められている。


作家自身についてや作品の制作プロセスが重要であると痛感したためだという。アートの面白さは、作品だけで語ることはできない。作品だけではなく作家自身にもフォーカスし、作家自身が語る機会を作らねばならないとインタビュー動画を自社で制作し配信している。多様な感性の作家たちと共にパブリックアートで美術と社会をつなぐ実験的なプロジェクトに挑戦したいというのが新体制のモットーとなっている。


企業内スペースでの展覧会企画:出会いの場の創出

ctlxy(伊東)左側《 sroolf 》, 右側 左)《floor-01》, 右)《floor-02》2021

            「 Light Brain展 Vol.2 」ITOKI TOKYO XORK (撮影:加藤甫)


作家のキャリアを考えると、施設や企業などに既存の作品を貸し出すだけではあまり広がりがない。そこで、アートプレイスは企業内のスペースで企画展に挑戦した。


2021年から3期にわたり《 Light Brain展 》という企画展を「ITOKI TOKYO XORK」(株式会社イトーキ本社オフィスショールーム)で、また、イトーキ福岡オフィスプラザや、イトーキ大阪ショールームにて同時開催した。(Vol.1, Vol.2, Vol.3前期, Vol.3後期)


三瓶玲奈《 色と編む 》2022

ITOKI TOKYO XORK 社長室

「 Light Brain展 Vol.3 後期」


展示タイトルには、アートを身近に感じられる空間で[右脳]を刺激し、感度を高め、「光脳-Light Brain-になろう!」というメッセージが込められている。

展覧会という形にすれば作家にとっても展示実績になる。ギャラリーや美術館だけでなくオフィスも作家の発表の場となり、可能性がさらに広がっていく。

ショールームにはクライアントが1日1,000人訪れるなど作家の発表の場としてポテンシャルを秘めている。


Hogalee《 Masking / Fixing 》(左)《 Face-Making 》,(右)《 Face-Fixing 》2019

《 Light Brain展 福岡 Vol.1 》イトーキ福岡オフィスプラザ


また、企業を訪れるクライアントだけでなくその企業内で働く人々にとっても福利厚生としての役割を果たす。働く人々が作品に出会い、さらに興味を抱くきっかけづくりともなっている。実際に、イトーキ福岡オフィスプラザでの《 Light Brain展 》の後、企業が作品を購入しただけでなく、ワーカーが展示作家の個展を訪れて作品を購入したこともあったようだ。

表現の多様性:デジタルアート

       平川紀道 デジタルアート《part and/or whole》2022  (撮影:加藤甫)

住友ファーマ株式会社 エントランスロビー


社会状況の変化でテクノロジーと表現の可能性が拡張し、作家の表現方法も日々変化している。現在、作家たちの表現方法で主流にもなっているのがデジタルアートだ。

アートプレイスは、パブリックアートにもデジタルアートの提案を展開している。


2022年、住友ファーマ株式会社は東京本社移転をきっかけにアートワークを新社屋内に求めた。「人々の健康で豊かな生活」に貢献することを目指す企業理念のもとで、刷新した企業イメージを作り出し、かつ社員の心と体の健康を考えたアートワークの導入であった。



企業のクライアントを迎え入れるエントランスロビーには国内外で活躍する平川紀道によるデジタルアートが採用された。巨大LEDモニターに、「部分と全体」をテーマとした計算式に基づく表現であるジェネラティブ・アートが映し出される。鑑賞者は刻一刻と変わるイメージに鳥や魚の群れ、素粒子などを想像し唯一無二の視覚的体験を味わう。



石井栄一 デジタルアート《Daily Codes [365++]》2023 (撮影:谷康弘)

山口大学医学部附属病院C棟 新中央診療棟1F クロスラウンジ


2000年代から10年は、病院へのアート作品設置が一大ブームであった。作家の既存の作品を設置することも多かったという。

2023から2025年にかけての山口大学医学部附属病院の再開発事業では、アート作品導入のプロジェクトにおいてデジタルアートが採用されている。多くの病棟が複雑に結びつくという建築上の構成から、人々の移動を考慮して場所や動線を視覚的に特徴づける役割がアート作品に求められた。


(撮影:谷康弘)


院内のC棟 新中央診療棟1F クロスラウンジには石井栄一の作品、《Daily Codes [365++]》が柱と一体化したモニター2面に展開されている。病院を訪れる人も働く人も毎日飽きないレクリエーションとして成り立つようなものを、というクライアント(病院側)の条件に沿う形で作家が制作した作品だ。

1 年365 日間を通して、毎日変化するグラフィックにより構成されている。作家自身が365日分予めプログラミングし、コンピューターを通じて計算、実行してディスプレイ上に描かれるという表現手法で制作された。

すべての場をクリエイティブに

与那覇俊《有限内の無限 0=3》2023

調布市文化会館 たづくり1F エレベーターホール


アートプレイス株式会社の40年の活動とパブリックアートの変遷を見てきたが、アートプレイスの新しい時代への挑戦はまだまだ続く。


最近では、正規の芸術教育を受けずに独学で独自の方法を編み出して生み出されるアール・ブリュットと呼ばれる作品もパブリックアートに採用した。初めてのクライアントからの受注に戸惑う作家もアートプレイスの経験と実績によるサポートで新作を制作しパブリックアートを実現することができた。



アートプレイスの今後の抱負は大企業など一部の人だけがアートを楽しむのではなく、もっと多様な人々にアートを楽しんでもらえる機会を作りたいということ。民間企業だけでなく公共機関も、東京も地方も、これまでアートに馴染みのなかった様々な環境でアートに出会える機会をできるだけ作っていきたい。企業や施設、工場など様々な場所で働く人々がアート作品によって元気になったり、マインドリセットできるような空間づくりをお手伝いしたいと考えている。

公園や駅前の金属のモニュメントから病院やオフィスのデジタルアートまで形や表現を変えて、人々の生きる空間に身を置いてきたパブリックアート。

これからはインターネット上のメタバース(仮想空間)にも人々の生活空間は広がっていくかもしれない。アートプレイスの挑戦はまだまだ止まるところを知らない。




(取材:嘉納礼奈/キュレーター、アートコーディネーター)







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