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人の数だけ、物語がある

中学生が3年越しで考案した「学校に行きたくなる給食」新しい献立の裏側にあった、校内ハートフルの生徒の想いと奮闘

著者: 横浜市


生徒が描いた「学校に行きたくなる給食」の調理実習の絵


「えっ、この子たち、マスク外してる。しかも、ほんとに楽しそうだ。」支援員の今井あすかさんは、驚いた。


完成した「学校に行きたくなる給食」とともにみんなで撮った記念写真では、普段マスクを外さない生徒たちがマスクを外して笑顔を見せていた。


「達成感を得られる機会が少ない生徒たちが、自分たちでメニューを考えて、調理して、出来上がった揚げパンを担任の先生に渡して喜んでもらえた。その姿は、嬉しそうでしたし、誇らしげでした。」


「最高の笑顔で撮れた記念写真がすべてを語っている」と支援員の今井さん



横浜市教育委員会では、生徒が中学校給食の献立を考える、「中学校給食メニューコンクール」を開催している。

令和5年度は約1万人が参加。たくさん寄せられた献立の中でふと目に留まった献立名があった。それは「学校に行きたくなる給食」。

たしかに、学校に行くのが楽しみになる給食がいい。直球な献立名に惹かれた。どんな生徒が考えたのだろう。作成した荏田南中学校(都筑区)に話を聞きに行ってみた。

給食をきっかけに学校に来るように

「学校に行きたくなる給食」を作ったのは、「校内ハートフル(以下「ハートフル」)」と呼ばれる部屋を利用している生徒たちだった。そこは、教室に入りづらさを感じる生徒たちが、教室へ戻るためのスモールステップとして利用するための「居場所」である。


きっかけは、支援員の今井さんの「給食を一緒に食べようよ」という一言だった。生徒と一緒に献立を見ながら一緒に食べる日を選んで給食を申し込むと、それを目的に学校に来る生徒が出てきた。あるときメニュー選びで盛り上がっていると、校長先生が「中学校給食メニューコンクール」があることを教えてくれた。優秀賞に選ばれると次年度の給食の献立に採用される可能性もある。生徒たちは、「わたしたち、こんなに給食が好きなんだから、選ばれるかも!」と、一念発起。有志でメニューコンクールに参加することになった。

1年目のチャレンジは「にっこり 骨太 マッスル給食」

最初に応募したのは2021年。ハートフルに集まった生徒たちは、食べたいメニューを挙げていくことから始めた。「もっとボリュームのあるおかずが食べたいよね」「唐揚げが好き!」「カツカレーはどう?」そんな意見が出てくるなか、メンバーに肉が苦手な子がいることがわかった。「揚げ物はゆずれないけど、魚なら大丈夫?」「じゃあ、魚のフライはどう?」と、意見のすり合わせをする生徒たちからは「いろいろな人が食べられるメニューにしたいよね」という言葉が出てきた。


メニューを考えた期間は約4カ月。休みがちなメンバーもいて、全員がそろうことは難しくても、次にやることを伝言しながら、チームワークで進めていく。そしてできたメニューは、魚フライカレーが主菜の「にっこり 骨太 マッスル給食」。みんなが満足のいくメニューができあがった。

3年目のチャレンジ「学校に行きたくなる給食」ができた

1年目のチャレンジは残念ながら優秀賞には選ばれなかった。しかし、生徒たちは諦めない。2年目のチャレンジは「I LOVE 横浜にっこり給食」。「にっこり」は継承した。

「優秀賞を狙うには、特徴のあるメニューにしないとだめなのでは?」という反省から、横浜発祥のメニューや食材について調べ、ナポリタンや小松菜、横浜ビールを使った牛肉のビール煮などのメニューに行き着いた。しかし、またも受賞ならず。


そして、3年目となる2023年。


「1年目、2年目といろいろ考えても叶わなかったし、こうなったら思いっきり自分たちが食べたいものを組み合わせよう。そうしたらもっと学校へ行きたくなるよね!」そんな会話から生まれたメニューの主菜はパリパリ皿うどんとミニ揚げパン。副菜には焼き鳥、わかめとしらすの酢の物、柿とクリームチーズのサラダを選んだ。


コンクールに提出した献立レポートには、「『学校に行きたくないな。』と思う日が多い私達が、給食を楽しみに学校へ向かうことができそうなメニューなので、多くの生徒がこのメニューを楽しみにウキウキ登校できることを願っています。」と書かれている。メニュー作りに参加した生徒は14人。こうして『学校に行きたくなる給食』ができた。



「学校に行きたくなる給食」の献立レポートの一部

調理実習でみんなとつながった

今回も優秀賞に届かなかった。でも、好きなメニューがこれだけ並んでいるのだから、どうしても食べたい。生徒と先生の熱意で、調理実習の実施が決まった。


揚げパンを何度で何分間揚げればいいのかわからない。調理方法を調べることからのスタート。調理実習が決まると、メニュー作りに参加していなかった生徒からも、「作って食べられるなら自分も調理実習に参加したい」という声が出る。後から参加した生徒からは「自分はメニュー作りには参加してないけれど、調理実習は楽しくていい雰囲気だった」という声も聞こえた。調理実習にはハートフルを利用している生徒17人のうち14人が参加した。まさに「学校に行きたくなる給食」だった。


2023年11月の調理実習。この日に参加するために体調を合わせるくらい、みんな張り切っていた。事前に作り方を調べたとはいえ、あいまいな部分もある。「あれ?これは何㎜で切るの?」「これくらいの大きさ?」という会話が自然に出てくる。「余った食材で何か作る?」と、その場でメニューが追加されるサプライズも生まれていた。



調理実習には14人が参加。グループに分かれて大量の調理をこなした



キュウリは何㎜で切ればいい?厚さ比べ


ミニ揚げパンは、自分たちの分だけでなく担任の先生の分も作って、直接渡すサプライズ。先生たちは自分たちの分があるとは思っていなかったこともあり、不意を突かれて頬が緩んだ。


揚げパン贈呈式で、先生も思わず笑顔に

メニューコンクールを通じた体験が自信に


調理室からハートフルに戻ってみんなで試食


調理実習に参加した生徒からは「上手にできているか不安もあったけど、美味しいと言ってくれて嬉しかったし、何より楽しかった」「学年もクラスも違う人たちと集まって一つの物を作り上げるという貴重な体験を通して、コミュニケーションの楽しさ、協力の楽しさを感じることができた」といった感想が寄せられた。


調理実習での友だちとの楽しく近い距離感をぐっと近づいた構図で表現


その調理実習の様子を生徒に描いてもらったのがこの絵。


「私にとって、『絵を描くこと』とは『生きる』ということ。食事をみんなで作ることや一緒に食べることの楽しさ・尊さを、私の大切にしている「絵」で表現したかったので、たくさんの人にこの絵に込めた想いが伝わると嬉しい」と絵を描いてくれた生徒は言った。


「みんなと一緒に長い時間をかけて真剣に考えたメニューを実際に作って食べることがこんなに楽しいなんて。」そんな楽しい雰囲気が伝わるように、と描かれた絵には、献立作りや調理実習に参加した生徒みんなの想いも一緒に込められているのだろう。




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