創業から75年ぶれない芯 人と環境に優しいトイレットペーパー ”一石四鳥”を実現した開発
いつもあるのが当たり前な生活必需品の1つ、トイレットペーパー。静岡県富士市にある新橋製紙は、安心・安全なトイレットペーパーやペーパータオルを追求する製紙メーカーです。
前身の製材店から製紙業に転身したのは1948年(昭和23年)でした。当時の日本は汲み取り式のトイレだったため、ちり紙が使われていました。ただ、米軍基地では水洗トイレとトイレットペーパーが使われていて、近い将来、日本中に普及すると着目しました。試作を重ねた末、創業から1年後に日本で初めてのトイレットペーパー「ベル」の製造に成功。ベルは現在も弊社の看板商品です。
<新橋製紙が最初につくったトイレットペーパー>
弊社の最大の特徴は、薬品を可能な限り減らした安心・安全な商品です。創業から一貫して、病院や介護施設、ホテルや学校などで使用される業務用に特化しています。トイレットペーパーは体に直接触れます。体や皮膚が弱い方を含めて、誰でも不安なく使える商品にこだわっています。
安心・安全を高める製造に大きく貢献しているのが、2023年6月に特許を取得した「アルカリ性電解水を用いた古紙の蒸解」です。薬品の使用を減らしてコストも削減。さらに、環境にも優しく、作業の安全性も向上。一石四鳥を実現させました。
実は、アルカリ性電解水の導入は別の用途で検討していました。発想の転換が予想以上の効果を生んだ形です。実用化の途中で起きたちょっとしたハプニングも含めて、弊社代表取締役社長の山﨑清貴が詳しくお伝えします。
■創業から一貫して薬品を削減 化学物質過敏症の症状改善に
新橋製紙で代表を務めている山﨑です。突然ですが、皆さん、化学物質過敏症という言葉を知っていますか?私たちは日常生活を送っていると様々な化学物質に触れていますが、極めて微量な化学物質でもアレルギー症状が出て苦しんでいる方がいます。
その症状は発疹やかゆみ、頭痛やめまいなど幅広く、重症になると外出できなくなるなど当たり前の生活を送れなくなってしまいます。他人事のように感じるかもしれませんが、日本には化学物質過敏症の予備軍が100万人以上いるとも推定されているんです。
化学物質過敏症は、トイレットペーパーを使うことで症状が表れる方もいます。実は、最近になって、その原因の1つがトイレットペーパーの香料だと分かりました。弊社では創業からペーパータオルを含めて商品に香りを一切付けていません。それは必要最小限の薬品以外は使用しない考えを貫いているからです。弊社のトイレットペーパーは、化学物質過敏症で困っている方からも安心して使えるという声をいただいています。化学物質過敏症の方に向けてつくっていたわけではありませんが、結果的に悩みや不安を解消する力になれました。
<弊社工場内にあるアルカリ性電解水の装置>
■特許と地球釜で安心・安全のさらなる向上を実現
弊社が強みとしている商品の安全や安心感は、従業員に脈々と引き継がれています。今より少しでも薬品の使用を少なくするにはどうしたら良いのか、常に模索しています。その中でたどり着いた1つが、「アルカリ性電解水の蒸解方法」です。2021年8月に研究を開始し、2022年11月に装置を導入しました。2023年6月には特許を取得しています。
新橋製紙の工場には、ひと際存在感を放つ直径約5メートルの大きな球体が2つあります。地球釜と呼んでいます。弊社がつくっているトイレットペーパーやペーパータオルの原料は古紙100%です。多くの工場では再生紙として利用できる状態にするため、薬品を使って作業の手間や時間を抑えています。しかし、弊社では地球釜に古紙と水、最低限の薬品を入れて6時間熱を加えています。
地球釜を使うだけでも、一般的な工場より薬品の使用料を減らせます。ただ、地球釜にアルカリ性電解水を加えると、さらに薬品を減らせると考えました。アルカリ性電解水は水や食塩水を分解することでつくられます。pH9~10(pHは液体の酸性やアルカリ性を示す単位)は飲用可能で、胃腸症状の改善に効果があると言われています。弊社が使っているpH10以上の強いアルカリ性は油を落とす効果が高く、洗剤などに活用されています。
<古紙の色を抜く時に使う2つの地球釜>
■アルカリ性電解水の可能性 ハプニング経て実用化に成功
以前は色がついた古紙を白くする用途で薬品の還元剤(硫黄化合物)を使っていました。しかし、アルカリ性電解水を地球釜に加えると同じ効果があるため、還元剤が不要になりました。硫黄を含む薬品は製造過程で硫酸イオンの発生を避けられません。硫酸イオンの使用は主に、以下の4つが問題となっていました。
①鋼をはじめとする金属製の設備などを腐食させる恐れがある。
②排水処理の工程で硫酸イオンが残ると海洋汚染につながる可能性がある。
③硫酸イオンの保管に不備があると火災を引き起こす危険性がある。
④作業員が吸い込むと健康被害のリスクがある。
アルカリ性電解水は人や環境に全く悪影響がなく、扱う際の危険性もありません。導入したことで、還元剤の硫黄化合物を一切使わなくなったことに加えて、他の薬品の使用も20%以上減りました。
しかも、コスト削減にもつながりました。還元剤はここ数年で大きく値上がりし、種類や購入する際の量で価格に違いはありますが、2022年8月時点で1キロ当たり約760円。一方、アルカリ性電解水の装置を使うと、1リットル当たり20円以下で製造できます。大幅に費用を抑えられるわけです。
<2023年6月にアルカリ性電解水の特許を取得>
■きっかけは配管掃除 思わぬハプニングも
これだけ素晴らしい効果のあるアルカリ性電解水ですが、元々は配管の汚れを取る目的で導入の検討を始めました。従業員からは「配管をきれいにするためだけなら、アルカリ性電解水は必要ないのではないか」という声もありました。
話し合いをする中で、「配管の汚れを取る力があるのなら、古紙の色を抜く効果もあるはず。そうすれば、薬品の使用を減らせる」と意見が上がり、研究をスタートしました。小規模な試験で良い数字が出たので実際の地球釜でも試してみると、古紙が白くなりました。地球釜などの設備に影響も出なかったため、導入を決めました。
試験をしていた時、思わぬハプニングもありました。地球釜の中で古紙が白くなっているのに、配管を通って出てきた古紙は汚れているんです。原因は配管の汚れ。アルカリ性電解水の効果で、長年蓄積した配管内の汚れがごっそり取れました。その汚れが古紙に付いていたのです。
さらに、配管に穴が開いていたことも判明しました。汚れが固まって穴をふさいでいる状態でしたが、汚れが取れたことで穴が顔を出したわけです。配管を補修して、問題は解決しました。
アルカリ性電解水によって、品質を保ちながら、価格を抑えてお客さまに商品を届けることが可能になりました。物価高騰が続く中で、生活に不可欠なトイレットペーパーやペーパータオルの価格上昇を抑えているので、取引先に大変喜んでいただいています。何気ない発想から、「薬品の使用減少」、「環境負荷の低減」、「従業員の安全性向上」、「コスト削減」と4つの課題が同時に解消しました。ただ、私たちのゴールは、まだ先にあります。薬品の使用ゼロに限りなく近づけるように、知恵を絞っていくつもりです。
<安心・安全にこだわった弊社のトイレットペーパー>
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