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プロフェッショナルたち | 貸切民泊 志ろきや(福井県勝山市)リニューアルプロジェクト

著者: 貸切民泊志ろきや

お一人目 | 画家の滝田知佳さん 貸切民泊 志ろきやに作品を提供

滝田知佳(たきだ ちか)

福井県敦賀市を拠点に活動中

書や日本画の経験をベースに、色彩豊かな躍動感ある絵画作品を発表している

2023年12月、個展「trim」を敦賀市の画廊喫茶「未完成」にて開催し好評を博す

2024年春、志ろきやエントランスを飾る力作「相(そう)」を完成



九頭竜川との出会い

ーー今回の九頭竜川(くずりゅうがわ)をモチーフにされた絵は、自分が知っている滝田さんの画風とはずいぶん異なる印象です。滝田さんのアクリル画は結構カラフルだったり、筆の運びがビシッと残るイメージですが、筆使いが違いますね。


滝田:そうですよね、そうなんですよ。志ろきやさんからオーダーもらってるのに、これでいいのかって思いつつ、なんかもう止まらなくなってしまいました。



ーー良い意味で期待を裏切られたなぁと思ってるんですよ、これは滝田さんの新境地ではないかと。


滝田:最初は結構、いつも通りの私だったんです。ただね、九頭竜川を実際に見てしまったもので。重厚感があって、まるで生き物のようで。


ーー確かに勝山市は、白山(はくさん)山系から雪解け水が押し寄せている場所ではありますね。


滝田:なんか動きも一様じゃないんですよね。入り込んでいったり上がってきたりとか。そのワンシーン・ワンカットをずーっと見ていられました。


ーー流れが急というだけの話であれば、さらに上流の方がもっと激しいんだとは思います。この辺りはその急な水が集まって力を持ってるような感じはありますね。


滝田:そう、力を持っていると強く感じますね。


(滝田さん撮影)


ーー白いペイントが波濤(はとう)のようであったり、真ん中に近いブルーの部分が渦(うず)のようにも見えます。

風景画のようで、どこにもない場所のようにも見えてすごく不思議な気がします。



滝田:九頭竜川に面と向かって、お互いの波動が混ざり合うような感覚が生まれたんです。九頭竜川をもう画題として分離できなくなってしまって、かといって一体化したわけでもなく、具象と抽象のあいだを彷徨っていました。歌で言うと歌詞を練った曲というよりは、ふと口ずさんだ鼻歌のような…。

切り取った15分の1

滝田:これ本当はね、もっと大きな布キャンバスに描いてたんです。どれぐらいかなぁ。たぶん15倍ぐらいのサイズでは描いてるんですよ。


ーーえぇ!?


滝田:布キャンバスを壁いっぱいに貼り付けてずっと描いてました。


ーーウォールペインティングみたいな感じですか?


滝田:そうですね、もう全身運動。ずっと全身使って描いていて。なんでそんな大きいキャンバスに描いたかっていうと、私が九頭竜川の前に立った時に、そういうサイズ感だったんですよ。相手がそのサイズ感なのに小さな枠の中で仕事しようとするのはちょっと無理でした。


ーーなるほど。


滝田:割り切って目的ありきで描くこともできるんですけど、そこに奇跡は起きないんですよ。水ってそういう相手じゃないなって。大きく書いて、本当に大事なところだけを今回切り取ったんです。トリミングすることで生命(いのち)の解像度を上げたかった。


今回の作品は最終話として完結はしているんですけど、私の中では外側のつながりがあってはじめて今回の作品が生まれているんです。作品の外にあるものが大事で、切りとるときめっちゃ考えたんです。LINEでもとの絵を送りますね、大きいですよ。


(滝田さんが対峙した巨大なキャンバス)


ーーあ、こんなだったんですか。壮大ですねぇ。


滝田:ふふふ、ただねある程度進めていくと、切り取りたいところが決まってくるので。ある一点にピントを合わせて書き込んでいるんですよ、外側はあまり手を入れていないんです。

重ねたマチエール

滝田:最初は私が本来得意とする日本画独特の表現で進めていたんですが、私が九頭竜川に感じた感動はそこにはなくて。志ろきやさんには申し訳ないけど、わたしちょっとこれオーダーもらったのと違う方向に行ってしまうなあと思いつつ、やらせて欲しい!と思いながらやってました、ふふふ。


ーー大丈夫です(笑)  正直、最初テーブルに置いて見た時はピンとこなかったんです。でも指定の場所に絵をかざしてみて、上からスポットライトが当たると、途端に立体的になったんですよ。白いしぶきに生命力が宿りました。



滝田:白いものって弱く感じるんですけど、陰影や光が入った瞬間に表情が出てくるんです。志ろきやさんの玄関の雰囲気やコンセプトを考えたときにまず上質でありたかった。安っぽい色味ではなくて、白の中に表情や生命力を表現したくて、マチエール(絵肌)はずいぶん重ねたんです。


ーー分厚い感じがしますね



滝田:だいぶ重ねましたしその重ねるところも本当に小筆とかでずっとやってたんですよ。



滝田:油絵だとギトギトになってしまって水の透明感がでないのですが、そこは工夫しました。色を納得いくまで描きたいっていう点では、自分は結構しつこい描き方をすると思いますね。九頭竜川の水の底にあるものの色は何色だろうとか考えながら色を重ねていくんです。最終的に写真と違うかなと思うのはそこですかね。私がどういう風に感じた色かっていうところなので。


枠の外にあるもの

ーー滝田さんが表現された色には共感します。もっとキラキラした感じの川が全国にはあると思いますが、福井県は大体が曇り空で。なんとなく風景に曇天の連続があるんですよね。


滝田:あんまり明るい陽気な感じではなくて、もうちょっと深い感じですね。日本画でいうと白緑(びゃくろく)や銀鼠(ぎんねず)あたりの色味を感じます。


ーー勝山は山に囲まれていますからね。多分川に山のパワーが全部集まってるような感じ。


滝田:うん。そうですよね。川だけの話じゃないですよね。それこそ私が今回やったように、枠の外の見えない部分に物語の本当の文脈があるというか。



ーー今回志ろきやのお風呂を檜(ひのき)にリニューアルして「冠雪」と名付けたんです、冬の勝山の山々に敬意を表して。滝田さんも川を取り巻く何かを感じとっておられていて、リンクしている。


(hinoki bath 冠雪)


滝田:こういう不思議な巡り合わせにとても魅力を感じます。なるべくしてなったのでしょうか、嬉しいですねぇ。勝山の土地の世界観に触れることが出来て良かったです。


ーーこちらこそ、滝田さんが渾身の力を注いでくださった絵を飾ることができて光栄です。ありがとうございました。


お二人目 | 山田 育郎さん 志ろきやリニューアル工事を指揮

山田 育郎(やまだ いくろう)

山二工業株式会社取締役専務


今年度より福井県商工会議所青年部連合会会長に就任


志ろきやオーナーの厳しい要望、無茶振りにとことん付き合ってくれたナイスガイ

「良いものを作る」情熱は人一倍


守り抜いた檜(ひのき)

ーー志ろきやリニューアル工事の総監督お疲れ様でした。

今どのようなお気持ちでしょうか。


山田:バスルームの檜材は繊細なので当初は非常に心配でした。何とか完成し皆様からお褒めの言葉も頂いて、非常に嬉しく安堵しています。


(hinoki bath 冠雪)


ーー山田さんはこれまでたくさんの現場をディレクションされてきたと思います。

今回他の現場と比べてどのような印象をお持ちでしたか。


山田:志ろきやオーナーが明確なプランと情熱をお持ちでしたので、自分も感化を受け非常に勉強になりました。

リニューアルに向け工期厳守でしたから、身の引き締まる気持ちで毎日やりがいを感じていました。担当できて非常に嬉しかったです。


ーーhinoki bath「冠雪(かんせつ)」はふんだんに檜を使用しています。施工にあたって難しさはありましたか。


山田:今回、檜の天井と壁が大きなデザイン上のアクセントになっています。檜材をリブ(波型)加工した羽目板(はめいた)を贅沢に使用しました。



山田:檜の天井と壁を貼り上げてからほかの左官工事が入ることになりますので、モルタルのアク汚れや傷がつかないよう檜をしっかり守らなければなりませんでした。万一傷がついたら天然木ですから補修もできません。檜の浴槽の据付もタイミングが難しく、綿密に計画を練りました。細かな手順を職人さん達と共有するよう心がけました。

ミニマルとラグジュアリーの融合 志ろきやデザイン

ーー床のタイルから水栓に至るまで、志ろきやオーナーから細かな指示があったと聞いています。オーナーの要求が多すぎてやりにくくなかったでしょうか。


山田:要望が細かく追加も多くて、確かに大変でしたね(笑) ご指定のシャワーが見たこともないドイツ製だったり。でも毎日打ち合わせを重ね、オーナーの目指す世界観がしっかりと伝わってきましたので、むしろやりやすかったとも言えます。迷ってしまって決められないお客様が普通ですので。


(志ろきやの和室にてオーナーと打ち合わせ)


ーートイレも印象が全く変わりました。トイレについてはいかがでしょうか。


山田:今までにない雰囲気で仕上がったと思います。窓をあえて無くしたのですが、本当は大丈夫かなと心配でした。この辺りの戸建て住宅では、窓がない空間はあまり無いんです。完成したらまるでトイレではないみたいにスタイリッシュになりました。勉強になりましたね。



ーー間接照明も印象的ですね。


山田:そうですね。バス・トイレともにライン照明を配して空間の広がりを表現しています。器具がコンパクトかつ高性能になったことで利用しやすくなりました。以前は海外製の品質の低いものも多かったのですが、今回の仕上がりには自信があります。今後積極的にお客様にお勧めしていこうと思っています。

込めた想い、届けたい想い

ーー山田さんのこれまでのご経験や想いを反映された点がありましたらお聞かせください。


山田:もともと設計・大工を目指していましたので、今回のようなデザイン性の高いプロジェクトに非常に興味がありました。設計士が理想的なプランを作ったとしても、金額との兼ね合いや施工の難しさなどで結局断念してしまうケースが多いんです。今回はオーナーと毎日議論を重ね助言もさせて頂きながら、妥協しないで進めることができました。初志貫徹でやり切れば、素晴らしいものができるんだなと再認識しました。


ーー仕上がりについては、100点満点中何点でしょうか。その評点の理由についてもお聞かせください。


山田: 100点満点と言いたいところですが、工期がギリギリでしたので10点減点させてください。実は最終日、「しっかりしろ、そんなことでは終わらないぞ」と現場で声を荒げてしまいました。職人さん達と現場監督が一丸となって何とかやり遂げてくれました。チーム全員に感謝しています。


ーーこれからたくさんのお客様が志ろきやを利用されると思います。見どころや、お客様にお伝えしたいことがございましたらお願いします。


山田:天然木曽檜の香りに、ガラス越しに見える竹、湯船に浸かりながら日本の美を感じて頂きたいですね。

ゆっくり落ち着いてですね、時が止まったような、心身ともに癒されるときをお過ごし頂きたいなと思います。遠方の方だけでなくご近隣の方にもこの空間をぜひご体験頂きたいです。広い縁側から見えるお庭はこの辺では本当にないほど素晴らしいものです。ご家族や親しいお仲間が地元に集まる機会でのご宿泊も良いと思います。




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