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「美容業界の変革に挑む」Agu.グループ代表、市瀬の挑戦を支えたものとは?

著者: 株式会社K&A


『スタイリストファースト』を掲げる日本最大級の美容室グループ「Agu.グループ」は、2020年8月29日(土)、国内500店舗目となる「Agu. hair zero 伏見桃山イオン前店」を京都にオープンすることとなりました。


創業から約11年。500店舗を展開するまでに急成長した背景には、この美容室グループを運営するAB&Company代表、市瀬一浩の「美容業界を変える」という強い覚悟がありました。なぜ、市瀬は美容業界を変えたいと思ったのでしょうか。今回は創業ストーリーと併せて、「Agu.グループ」が歩んできたこれまでの道のりと、中期目標に掲げる1,000店舗への展望をご紹介します。

美容業界が抱える古い慣習を変えるために起業

市瀬は、もともと青山や表参道の有名サロンで働く美容師=スタイリストの一人でした。スタイリストを目指したのは、ドラマ「ビューティフルライフ」の木村拓哉さんに憧れたのがきっかけで、身近に美容室を営む親族がいたことも影響したと言います。そんな彼がスタイリストになって感じたのは、美容業界が古くから抱える構造的な問題や、スタイリストが長期的なキャリアを築くのが難しい労働環境の問題でした。


「美容業界では一人前のスタイリストになるまで3~5年かかると言われ、その過程は非常に過酷です。終業後の深夜に練習を積み、長時間労働で休みも少なく、『修行』という名のもとに低賃金を強いられる。さらには上下関係の厳しさなどもあって、途中で諦めてしまう人も多いのです。


しかも、女性が多い業界でありながら、結婚や出産後に復帰して家庭と両立できるサロンはかなり限られています。これらの構造的な問題を変えていかないと、美容業界に未来はないと考えるようになりました」


そこで市瀬は自身が27歳となる2009年、5年間働いたサロンから独立。Agu.の前身となる「hair salon alice」を池袋にオープンしました。

以降、自身の苦しい経験の中から現状を打開しなければという思いが原体験となり、サロンで働くスタイリストたちがモチベーションを長く保ち続けられる仕組みを模索することになるのです。そこにあったのは、ここに立ち向かうと決めた『覚悟』だけでした。

一人でできることには限界があると感じたサロン経営

<写真>記念すべき1店舗目の内装(2009年当時)。その後2度の改装を行い、心地良い空間を提供し続けている


一人で始めたサロン経営は、すべてが手探りの状態。

何より市瀬が苦しんだのは、人材のマネジメントやスタッフとのコミュニケーションでした。


お店は順調で毎日多くのお客さまをお迎えしていましたが、それだけに多忙を極め、経営者としてもマネージャーとしても何もかもが初めてで試行錯誤の連続。目の前のお客さまとお店の経営に必死になるがあまり、スタッフとのコミュニケーションが手薄になり、仲間たちの離職が繰り返されていったのです。


「理想を高く掲げるあまり、『サービス業はこうあるべき』という考えをスタッフに押し付けてしまっていたのかもしれません。一人で店舗経営をしながら、自身もスタイリストとしてお客さまと向き合い、かつ店長として20人のスタッフと対応する日々。365日、緊張と疲れ、ストレスにさらされ続けることで、時間的にも精神的にも余裕がなくなっていき、一人ひとりと向き合うことができずにいました。今思えば、自らスタッフとの溝を作っていたように思います」


そんなときにスタッフの一人から『オーナーは間違っている』とハッキリ言われたことで、目覚めることとなります。そして、そこからは一人ひとりと真剣に向き合い、ときには納得してくれるまで朝まで語り合うこともしました。会社を去っていく仲間がいる反面、市瀬の想いに共感して支えてくれるスタッフも増え、ようやく組織としての結束を固めていったのでした。

「スタイリストファースト」と「フランチャイズ展開」が成長のカギ


<写真>京都市にオープンした、国内500店舗目となる「Agu. hair zero 伏見桃山イオン前店」


サロン経営を通じて、『自分一人ではできることが限られている』と感じた経験から、フランチャイズ展開を決意します。


「業界の構造やカルチャーを変えるには、一緒に戦ってくれる仲間が必要でした。また、頑張ってくれているスタッフには自分の可能性を広げていってほしかったし、そんな仲間がどうしたら幸せになれるかを本気で考えていました。この業界を目指す人たちにも、未来を感じてもらえる世界をつくりたかったのです」


この『美容業界を変える』という信念のもと、市瀬が創業時から取り組んだことの一つが『スタイリストファースト』の職場づくりでした。

創業当初から業務委託サロンとして運営することで、スタイリストは自分の裁量で勤務時間を決めることができ、ライフステージや環境に合わせて勤務することを可能にしたのです。これにより、産前産後・育児のために仕事を一時やめた人も職場復帰がしやすくなり、生き方や働き方の選択肢が広がったといいます。


「自分自身もスタイリストとして、正社員と業務委託の両方を経験しました。その経験をもとに、これから美容業界に人を集めるためには、業務委託の制度を整えていく必要があると考えたのです。腕が良くても条件が合わずに辞めざるを得なかった人は多く存在しています。我々は、そんな人たちやブランクがあってもスタイリストとしてまた働きたいという人たちの受け皿になるべきだと思っています」


そして、人材育成においても独自のスタイルを作り出します。

通常、アシスタントからスタイリストとしてデビューするまでに3~5年かかるところを、市瀬はわずか1年でデビューできる仕組み=教育制度をつくったのです。


<写真>スタイリストを育成する「Agu. ACADEMY」の練習風景


「一般的なサロンでは、アシスタントは営業時間の前後か休日にしか練習ができず、その練習時間は無報酬であることが多いです。この過酷な労働環境がネックとなり、1年間で30%くらいの新人は辞めてしまいます」


そこで市瀬は、新卒の給与水準を大卒の新卒初任給(東京都平均23万円)と同水準まで高く設定したうえで、研修中も給与を支給。週5日勤務のうち3日は日中に練習に専念してもらい、残りの2日間はサロンワークを通して実践的な練習をする環境を整えました。

このように、通常の2倍くらいの練習と店長クラス以上の徹底した指導を経て、1年間でスタイリストとしてデビュー、そして早ければその後数年でフランチャイズオーナーへのキャリアを得られるようにしたのです。


この独自のスタイルが求心力となり、Agu.グループの新卒定着率は80%以上を誇っています。


こうして、「フランチャイズビジネス」と「業務委託」という新しいカタチを生み出し、創業から10年あまりで500店舗を抱えるサロングループとして成長を遂げていったのでした。

戦略的な出店で国内1,000店舗の実現を目指す

2020年1月には海外第1号店となるニューヨーク店もオープンし、急成長を続けるAgu.グループ。『スタイリストファースト』を掲げ、働く人たちが希望を持って働ける環境をつくってきた市瀬は、500店舗の出店をどのように進めてきたのでしょうか。そこには、価格と立地に独自の戦略があったといいます。


「私たちはビルの1階の路面出店に依存はしていません。スマホの普及とともに集客はネット予約が主流になってきており、高い賃料を支払って1階の見えやすい店舗で運営するより、2階以上を借りることで賃料を下げ、その分価格を抑えてお客さまに毎月通ってもらいやすくしているのです」


カットとカラーで通常は15,000円が相場とされる中で、3,900円という価格で提供して業界を驚かせました。「お客さまの生活の一部になりたい」、そう考える市瀬ならではの戦略でした。

また、出店するエリアにも1,000店舗を実現するカギがあるようです。


「フランチャイズ展開を始めた当初から、戦略的に全国各地、特に郊外への出店を進めてきました。もちろん、地元でフランチャイズオーナーとして活躍したいというスタイリストの夢を叶えることができることもポイントですが、『リスク分散』という経営視点もあります。


都市と地方という両軸で事業展開をしてきたことで、昨今の新型コロナウィルスにおいても、地域ごとの影響はあったものの、グループ全体として大きなリスクは回避することができたと感じています。


まずは、これだけの挑戦を一緒に立ち向かってくれた仲間に『ありがとう』と言いたい。そして、これからも多くのスタイリストが活躍できる場所を提供し続けたい。そのためにも1,000店舗の実現は、一つの通過点だと思っています。仲間とともに力を合わせ、必ず実現していきます」


市瀬のチャレンジは、これからも続きます。


(取材・文=佐賀 晶子)








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