それは"い草"に恋をした世界的デザイナーの情熱から始まった。美しさとサステナビリティを兼ね備えた「SAKYU」の誕生秘話
カフェ、レストラン、ホテル、オフィスなど商空間で使われる業務用家具のメーカーであるアダル は、日本の伝統素材である"い草"を用いたサスティナブルブランド《Look into Nature》を展開しています。
Milano Design Week 2019 で展示した"い草"を使った家具に一目惚れをしたデザイナーの情熱から始まった新たな"い草"家具開発プロジェクト。コロナ禍の制約の中、ドイツ人デザイナー、Michael Geldmacher(ミヒャエル・ゲルトマッハ)氏 との全ての打ち合わせをオンラインで行いながら、1年の歳月をかけて6つの新商品を生み出しました。
なかでもシェーズロング(長椅子)のSAKYUにおいては、自然の美しさとサステナビリティを兼ね備えたデザインにより、見事世界三大デザイン賞であるiFデザインアワードを受賞。その開発の背景と情熱に迫ります。
"い草"に恋をした世界的デザイナー。Milano Design Week 2019での出展が転機に
Milano Design Week 2019 で、アダルは《Look into Nature》ブランドである日本の伝統素材である"い草"を使用した家具を出展しました。世界中のデザイナーや業界関係者が集まり、新しいデザインや素材を探し求める中、 世界で活躍するデザイナーミヒャエル⽒がアダルのブースを訪れました。彼は、"い草"商品に興味を示し、自然素材の持つ独特の魅力や、そのサステナブルな側面に深い関心を抱いている様子でした。
2020年には、「"い草"に恋をした」との言葉と共に、ミヒャエル氏からアダルに1通のメールが届きました。メールの内容は、アダルの《Look into Nature》ブランドが大好きになり製品を見るたびにインスピレーションを受け、"い草"に魅了されていること、もっとアダルについて知りたい、"い草"について学びたい、という情熱的なメッセージでした。
当時ミヒャエル氏からのファーストコンタクトを受けた《Look into Nature》 の企画担当者は、「一流の方から我々の活動を認められた気がして、とても自信につながった瞬間だった」と話します。
Milano Design Week 2019のブース
段ボールプロトタイプで検証されたデザイン。細部にまでこだわったサステナブルな設計
2021年、「アダルの為に特別にデザインした製品でコレクションに貢献したい」と、シェーズロング、パーティション、ウォールパネルなど多数の"い草"を使用した家具のデザインを提案していただきました。
日本の伝統素材"い草"を使ったサステナブルブランドである《Look into Nature》の発展を図る上でも、ミヒャエル氏の提案はアダルにとって重要であると判断し、アダルはプロダクトデザイナーとしてミヒャエル氏を迎え入れることを決定しました。
デザイン提案の際に、アダルの企画担当者が驚いたことがあります。
ミヒャエル氏はアダルへの提案以前に、段ボールを使ってシェーズロングのプロトタイプを原寸で制作し、実際に座ってみて背中の角度や腰から脚の曲がり具合など、座り心地の検証を行っていました。さらに"い草"を入手して検証し、二次元の方向にしか曲げられないという"い草"の特性を捉えたデザイン案だったのです。
実際の段ボール製プロトタイプ
ミヒャエル氏のデザイン案に加え"い草"を最大限に美しく表現するために、こちらからいくつかの提案をしました。一つ目は"い草"の耐久性を考慮し、座面の"い草"シートは全交換可能な仕様であることです。経年劣化により"い草"の退色やささくれが出来る、ということをミヒャエル氏に伝え、シートの部分的な交換ではなく全交換ができる仕様にデザインされました。
二つ目はヘッドレストの固定方法にも工夫が施されました。固定具が前面に見えないこと、背面の曲線を美しく保つことはミヒャエル氏の希望であったことから、後ろから引っ張る方式やベルトで巻く固定方式を検討しましたが、マグネットを使用して魔法のようにヘッドレストの調整ができるようにしました。また、"い草"シートのすぐ下にマグネットを貼るのではなく、芯材の中にマグネットを組み込みました。
こうして使用時の利便性とミニマルなデザインを両立させることができたのです。
左)可動式のヘッドレスト
右)い草シートはマジックテープで簡単に着脱交換可能
全てオンラインで行われた打ち合わせ。機械生産に適した寸法への変換作業
ミヒャエル氏から最初に提供されたアイデアスケッチはフリーハンドでしたが、意匠図面はきちんと検証された寸法が明記されていました。しかし、工場で製作できるための詳細な構造図まで描かれた製作図面を起こす必要がありました。
商品設計を担当したのは、当時アダル東京支店に所属していた加畑でした。
コロナ禍であったことから、福岡にあるアダルの製造工場や提携先の鉄工所との打ち合わせは全てオンラインで行いました。実際に工場で試作状況を確認することができないもどかしさを感じながらも、細やかなやり取りが必要でした。
月に1度のミヒャエル氏とのWeb会議では、設計図の検討だけではなく、商品化に向けた"い草"や木部、スチール脚のカラー選定、出展ブースの打ち合わせなどが行われました。限られた時間でコミュニケーションを円滑に進められるように、加畑は入念に事前準備をしました。デザイナーの意図を損なわずに再現性のある図面を起こすためも、細かい図面で質疑や提案を見える化したり、英語でのコメントを追加する工夫をしたそうです。
特に力を注いだのは、シェーズロングでした。自然現象からインスピレーションを受けたというミヒャエル氏のデザイン、『サハラ砂漠の美しい砂丘のイメージ』という座面の曲線を表現するために、細かい緩やかな角度をキリの良い寸法に仕上げることに注力しました。曲線にぴったりと"い草シート"を組み合わせる為の製図が必要であったことから、「デザインの美しい曲線を保ちつつ、木材、スチール、"い草"という異素材を組み合わせ、機械で製造できる寸法に調整することは極めて難しかった」と加畑は話します。
新商品「SAKYU」の完成とiFデザインアワードの受賞。"い草"家具の進化と新たな挑戦
ミヒャエル氏のオファーから約1年、コロナ過の限られた状況下でありながらも6つの商品が完成。新商品は《Look into Nature》ブランドとして、2022年のミラノサローネで大々的に展示されました。
2023年には販売を開始。そして2024年、世界三大デザイン賞であるドイツのiFデザインアワードを受賞するに至りました。「JCD プロダクトオブザイヤー2023」の準グランプリ、「Archiproducts Design Award 2023」に続き、3度⽬のアワード受賞となります。
iFデザインアワードを受賞したことは、アダルにとって非常に名誉なことであり、デザイナーと共同で取り組んだプロジェクトの成功を象徴するものとなりました。この賞は、世界中の優れたデザイナーによって評価される特別な賞であり、デザインだけでなく、製品を実現させるために裏側で行われた努力にも授与されるものです。
わたしたちアダルは、「伝統工芸品としてではなく産業としてあり続けたい」という"い草"生産者の想いに共感し、現代のライフスタイルに合う"い草"の家具を世界中の方々に届けたい、という思いから《Look into Nature》ブランドを立ち上げました。
わたしたちはさらに"い草"に関する知識を深め、"い草"の持つ可能性を最大限に引き出し、サステナブルで魅力的なプロダクトを提供し、危機的な状況に直面している"い草"の産業を、世界中にそして未来へ繋げることが、アダルの使命であると再確認しています。
ミヒャエル氏《Look into Nature》コレクションについてのインタビュー
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