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日本の文化財の研究機関が、教育プログラムを開発した理由とは。染織品をはじめとする伝統文化を次世代に繋ぎ、未来へ遺すための取り組み

著者: 一般社団法人千總文化研究所

千總文化研究所は、1555年に京都で創業以来、様々な染織品を手がけてきた株式会社千總ホールディングス(以下、千總)を母体として2017年に設立されました。千總が所蔵する美術品や歴史資料、染織品の技術などを「京都」「技術」「美」の3つのテーマを柱として調査研究を行なっています。そうした有形・無形の文化財の研究機関である千總文化研究所ですが、2021年より教育分野の専門家らとともに教育プログラムの開発を始めました。このストーリーでは、当研究所が教育プログラムを開発し、提供に至った経緯や目的、プログラム学習を通じて実現したい未来についてお話します。





ー次世代のためのSTEAM教育と日本文化の伝承

 ご存知の通り、昨今は世界が抱える社会課題が複雑化し曖昧で先が見通せない「VUCA」の時代と言われています。さまざまな要素が複雑に絡み合った問題を解決するには、幅広い知識と視野を持ち、それらを横断的、俯瞰的に捉える論理的思考力や創造力が必要と考えられています。そのため、学校教育においても、アメリカの科学技術人材の育成を目的とした教育政策に端を発する「STEAM教育」をはじめ、理系·文系の分野を超え複数の教科を連携させた「横断的・総合的な学習」の方法論が検討され、様々な試みが進められています。

  一方で、着物をはじめ日本の多くの伝統的な文化や産業は、後継者と市場が減少の一途を辿り、次世代にどのように伝え遺せるかが課題となっています。



ー染織文化と技術を教育教材として再構築。日本文化を次世代に伝承する新しい方法を見出す

 日本文化には、より美しいもの、品質の高いものを作り出すために人の知恵と美意識、作り手の探究心が凝縮されています。言い換えれば、日本文化を研究することは、人間の思考力や創造力を明らかにすることでもあります。 さらに日本の染織文化や染織技術を学問として分解すると、染めや織りの技術は化学や工学、絹や麻といった素材は農学、模様は植物学や文学などといったように、自然科学から人文科学まで様々な学問分野が横断して構成されていることが見えてきます。

 そこで、染織文化や染織技術を教育教材として再構築すれば、次世代の育成に貢献するとともに、日本文化を次世代に伝承する新しい方法論を見出せるのではないかと考えました。

 しかし、千總文化研究所には教育に関する専門家が在籍していませんでしたので、日本STEM教育学会の研究分科会へご教示を依頼しました。すると、同会のSTEAM教育研究会SIG研究代表者である下郡啓夫氏(函館工業高等専門学校教授)がこのアイディアにご賛同くださり、函館工業高等専門学校におけるご自身の講義の1年間の枠を共同研究としてご提供くださいました。

 2021年度は同校において、染織文化や染織技術を題材として、Visible Thinking(ハーバード大学教育大学院のプロジェクト「プロジェクト・ゼロ」で研究された学習方法)や知識構成型ジグソー法(東京大学CoREFにより開発された授業法)等を用いて、 着物に描かれている模様と日本文化の関係、着物とその技術を大学生たちが多角的に観察・検証するためのプログラムを設計・実施いたしました。


函館工業高等専門学校における授業風景。Visible Thinkingの思考ルーチン「Color,Shape,Line」を用いて着物を考察するワークショップを実施しました。


ー複数の教科を横断して学ぶ。高評価を得た中学生むけの課外プログラム「きもの科学部」

 さらに、2022年度は京都市教育委員会の協力のもと、中学生向けの課外プログラム「きもの科学部」を実施。文学、農学、工学、染色、デザイン等の専門家を講師として招き、きものを構成する色、模様、制作工程などを中学生が学校で学ぶ教科と結びつけて、複数の教科を横断した全5回(1回2時間)の内容を設計・実施しました。座学だけでなく、教育工学の専門家によるワークショップを交え、子どもの創造力の育成を目指しました。

 「きもの科学部」には京都市内の10校から、延べ48名の中学生が参加し、延べ13名の中学校の先生方が参観に来られました。プログラム終了後の先生方向けのアンケートでは、「本プログラムの講義やワークショップ内容がパッケージとして提供されるとしたら授業などで活用したいと考えますか?」という問いに対して、回答者全員が「活用したい」と回答され、京都市教育委員会からも創造力を育む教科横断型プログラムとして高い評価をいただきました。(本プログラムは、文化庁令和4年度「地域活動推進事業及び地域文化倶楽部(仮称)創設支援事業」のもと実施され、実践内容は、日本STEM教育学会拡大研究会にて発表されました。)

第5回「デザイナーって何をつくる人?」の実施風景。

千總のデザイナーによる実演との講義、着物のデザインにチャレンジするワークショップを行いました。



ー大人向け文化プログラムで学びを次世代へ繋ぐ

 次世代を担う子どもたちには、日本の染織文化や染織技術からの学びを通して、学問と社会と文化のつながりや自然と人間の関係性を理解し、未来を考える力を身につけてもらいたいと考えています。

 「きもの科学部」は、今後当研究所において中学生・高校生のための課外プログラムとして開催されるほか、国内外の教育機関・専門家と連携した異文化交流や教育教材開発への展開を進めていきます。きもの以外の分野への応用も視野に、文化芸術を題材とした次世代の思考力・創造力育成プログラムの社会実装を目指します。

 その第1歩として、2024年からは次世代の育成支援のために大人向け文化プログラム「五感から知る言葉にならない日本の美」を開催いたします。本プログラムでは、第一線で活躍する表現者・技術者を招き、五感を切り口とした講演とワークショップを行います。日本の美を五感からたどり、人の感性に立ち返った文化芸術の伝承を試みます。

 本プログラムの収益は、次世代育成プログラムの運営に充てられます。大人の学びが子どもの学びの支援となる「学び」のバトンです。大人は五感から、子どもは学校の科目から、アプローチは異なりますが、どちらのプログラムも文化芸術の新しい伝承の方法論がテーマです。皆様にも、次世代に伝え遺したい日本文化を共に考え、「学び」と「伝承」のバトンをつないでいただけたら嬉しいです。


2023年に実施された大阪教育大学附属天王寺中学校の理科の授業の様子

着物の技術と文化を題材に、美術科、理科、国語科、家庭科の教科を横断した授業が、同校が取り組むSTEAM教育の一環として実施されました。美術科と理科では千總のデザイナーと手描き友禅職人が講師を務めました。



▼中高生向け課外プログラム「きもの科学部」2024年

▼大人向け文化プログラム「五感から知る言葉にならない日本の美」












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