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誤作動ゼロを目指して!半導体メーカーのロームが挑む終わりなきEMC対策の舞台裏

著者: ローム株式会社
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ロームは1954年に京都で創業した半導体メーカーです。抵抗器からはじまり、トランジスタやダイオード、ICと開発を進めています。最近では、脱炭素社会の実現に貢献する半導体技術として期待されているSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)などの新素材のパワー半導体の開発にも注力しています。

1971年には日系企業として初めて米国シリコンバレーに進出。今では全世界に営業、開発、生産拠点を持ち、日本発のグローバル企業として歩みを続けています。

お客さまをはじめとする世界中のステークホルダーの皆さまから選ばれる企業になるためには、品質第一の考えを大切にしたものづくりが最も重要だとロームは考えています。今回は、電子機器を安全に使用するために重要な半導体の「EMC対策」を紹介します。

なぜ電子機器を安全に使用するために「EMC対策」は必要なのか?

電子機器が正常に動作し他の機器や周囲に影響を与えないために、EMC(電磁両立性)対策が不可欠です。

EMC対策には、具体的に2つの対策があります。

EMI(電磁妨害)対策

発するノイズを抑えるための対策。電子機器が動作する際にノイズが発生するが、他の機器に悪影響を与えないようにするために行います。

EMS(電磁感受性)対策

外部からのノイズを受けても影響を受けないようにするための対策。外部環境からのノイズによって電子機器が誤動作しないように行います。


2000年代には電子機器に使われる部品の性能が向上し、高速かつ高周波で動作するようになりノイズの発生量が増加。そのため、家庭用機器から車載機器までさまざまな分野でノイズ対策が課題となり、電磁波を規制する国際規格も細分化され、現在はさらに厳しくなっています。

とくに自動車では先進運転支援システム(ADAS)の組み込みなどで多くの電子部品が高密度に集積し、また電動車(xEV)では高電圧電源をもちいたモータや駆動回路からのノイズが増加するなど、車内のノイズ環境は年々非常に厳しくなっています。このようにノイズによる誤動作は、自動車では生命の安全に直結するため、EMC対策はますます重要になっています。

ロームが自社で運用する「EMC測定サイト」とは

ロームは2009年から、横浜テクノロジーセンターに2つの電磁暗室を設置した「EMC測定サイト」を自社で運用しています。このサイトは、電子機器の電磁干渉(EMI)や電磁感受性(EMS)に対する性能を評価するための専門的な試験を行えます。主な特徴は下記になります。

車載暗室

自動車のボディを模した環境で、BCI(Bulk Current Injection)試験など、さまざまな車載規格試験を実施可能。

3m法電波暗室

壁に三角形の電波吸収体を貼り付け部屋内で電波の反射を起きにくくした設計で、IEC・CISPRなど各種国際規格試験を実施可能。


このような電磁ノイズの影響を測定・試験するためのEMC測定サイトは、日本品質保証機構(JQA)が運営する公的認定試験所や、大手電気メーカー、専門会社の試験所が一般的になります。半導体メーカーが自社で運営していることは珍しく、ロームの開発スピードと挑戦への姿勢を表しています。

EMC測定サイトのエンジニアは、もう一人の製品設計者

ロームが「EMC測定サイト」を社内に設けた最大の理由は、製品開発のスピードを高めるためだと立ち上げ当時から従事する小川は言います。


「IC単体の動作検証も終えた上で、いよいよサンプル品をお客さまのセットでの評価・・・ というタイミングでノイズ起因の不具合が見つかるケースがほとんどです。お客さまのセットの中には、他にどんな部品がどの位置で入っているか、わからない面も正直あるので、原因の特定さえ難しいこともあります。いずれにせよその時点で、IC単体で修正できることはほぼありません。結局、手戻りして再度対策を講じた設計をしなければならない、ということになります。」

回路技術開発部 AFE・測定技術担当 測定技術課 EMC支援グループ グループリーダー 小川 修


開発効率をあげるためにも、開発の早い段階で精度の高いEMC測定を行う必要性が急速に高まっている中、EMC測定サイトのエンジニアの役割を次のように小川は考えています。


「EMC測定サイトのメンバーは、電波暗室での測定・分析だけではなく、評価ボードを作成する段階から頻繁に製品設計者と意見交換を行う、ある意味もう一人の設計者としての役割を担っています。

製品設計者と現状の課題を共有しながら測定方法を提案し、その結果をもとに『なぜこんなにノイズが出るのか?』『では、どういった方向でブラッシュアップしていくのか』といったコンサルティング的な立場で、設計者と膝を交えて話すことこそが、私たちの仕事の本筋だと思っています。」


ノイズに関する知見だけでなく、ICの特性や業界の動向にも深い造詣が求められるスペシャリストとして、EMC測定サイトのエンジニアは半導体デバイスの開発に欠かせない存在となっています。

EMC測定サイトのエンジニアと製品設計者が生み出す好循環

「EMC測定サイト」のエンジニアと製品の設計者が一体となって製品開発に取り組んだ例を2つ紹介します。

例1:車載用DC-DCコンバータのEMI対策

1つ目は、自動車の電圧変換を担うDC-DCコンバータICになります。性能向上には高速スイッチングが必要になりますが、ノイズの発生量も増加するため、そのノイズ量をいかに減らすかが課題でした。

IC単体で2MHzの高周波駆動をさせたいというニーズが増え、また車載受信機をノイズから保護する規格「CISPR25」の制定もあり、ロームは2010年代後半に高周波スイッチング対応DC-DCコンバータICの開発を開始しました。

そのときの苦労について、これまで電源ICを設計してきた大下はこう語ります。


「当時は、パソコンで回路設計やシミュレーションでは達成していたはずのノイズ性能が、自動車に実装するとうまくいかない・・・また再設計してという繰り返しでした。やはりボードなどの周辺コンディションの影響や、部品の配置によって大きく変わってしまうんです。」

電源LSI事業部 商品設計担当 電源LSI商品設計1課 技術員 大下 寛人


この課題の解決に大きく影響したのが、「EMC測定サイト」のエンジニアからアドバイスでした。そのアドバイスをもとに、ICの回路の工夫に加え、部品の配置などを変えた20種類ほどのプリント基板を電波暗室に持ち込んで計測し、ブラッシュアップを繰り返すことで、最終的に低ノイズで高性能なDC-DCコンバータICが完成できたと大下は言います。

例2:車載用オペアンプのEMS対策

2つ目は、センサ信号などを増幅する役割を担うオペアンプです。自動車のECU(Electronic Control Unit)でセンサ信号をもとに制御を行いますが、センサ信号はオペアンプで増幅する必要があるためノイズ対策が課題となっていました。

オペアンプに外部からノイズが入ると微小なセンサ信号と同じようにノイズも増幅されるため、システムの誤動作の原因となる場合があります。またとくに車載分野では、部品を組み込んでからノイズ特性を評価するため、設計段階での検証が難しいとされていました。

こうした状況の中、ノイズ特性の改善に取り組もうと決意したオペアンプの設計者である槇本は理由をこう語ります。


「確かに、ノイズ耐性を改善させるのは難しくてですね・・・、他社も手をつけられていない分野でした。正直、私自身も最初は絶対無理だと思っていたのですが、EMC測定サイトのエンジニアが積極的に協力してくれたので『とにかくチャレンジしてみよう!』という雰囲気になりました。」


槙本とともに、EMC測定サイトのエンジニアとして開発に携わった黒川も当時をこう振り返ります。


「さまざまな回路案を試作品として電波暗室に持ち込んでもらって、測定・検証を繰り返す。そんな地道な取り組みが長い期間続いたのですが、ある日たまたま電波暗室のスケジュールの空きが生まれたタイミングで『滑り込み』のように試した1つの試作品が、抜群のノイズ耐性を叩き出したのです。」


まさか、あのやり方で!と周りも驚く回路案でしたが、現在では高ノイズ耐量オペアンプ「EMARMOUR™」へと結実し、多くのお客さまに採用いただいていると槙本は言います。

左:標準LSI事業部 商品設計担当 アナログ商品設計課 技術員 槇本 浩之

右:回路技術開発部AFE・測定技術担当 測定技術課 技術員 黒川 洋一


このように、製品の設計者と社内EMC測定サイトのエンジニアが一体となって1つの課題に向き合うことで、より最短距離で結果に到達できる好循環が生まれるのでしょう。

シミュレーションをもちいたEMC対策設計へ

開発過程で課題解決を行うことが、スピーディーな製品開発とコスト削減を促すという考えは、すでに一般的となっています。多くの半導体メーカーが、ノイズ対策をシミュレーションで完結させる未来を模索している中、ロームでも部分的かつ段階的に移行していきたいと小川は言います。


「AIの進化や解析テクノロジーの応用と歩調をあわせながら、シミュレーション技術がどんどん取り入れられていくと考えますが、その過程でも私たちのような電波・ノイズの専門家に課せられた責任は決して小さくないと思っています。」


新世代のものづくりを牽引するキー・テクノロジーの1つであるEMC対策設計への期待値は、今後ますます高まっていくことでしょう。

私たちはどこに向かい、どんな未来を目指しているのか。EMC設計エンジニアと電子デバイス設計者たちによる、目に見えないノイズとの戦いを続ける中にこそ、その答えがあると考えています。ロームは技術革新を通じて、より安全で信頼性の高い未来の製品開発に向け、挑戦を続けていきます。



ロームの公式Webサイトでは、常に高い品質をお客さまにご提供するロームの「ものづくり」とそこに情熱を注ぐ人の物語を、動画でお届けしています。

Stories of Manufacturing

目に見えないノイズとの終わりなきたたかい:EMC対策設計

動画はこちら

ロームが開発する高ノイズ耐量オペアンプ「EMARMOUR™」

「EMARMOUR™」は、ローム株式会社の商標または登録商標です。




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