私たちが「つな木」を作る理由~開発チームNikken Wood Lab代表 大庭拓也~
徳島県庁オフィス内で全国初試行された「つな木」のプレスリリース
つな木とは、一般に流通している規格の「柱材」や「板材」、そして「クランプ」と呼ばれる接合金物を用いた木質ユニットです。同じ部材でデスク、棚、ベンチやプランタなどに形を変えることができます。製作には特別な道具や技能は必要なく、誰もが簡単に組み立て・解体・移設できます。
このつな木を開発したのは株式会社日建設計のNIKKEN WOOD LAB。代表を務める大庭拓也が、木造家屋への思い出や日本の森林に対する思い、人々との出会いを通し感じたことなどを綴る、つな木につながる物語をご紹介します。つな木:https://www.nikken.jp/ja/insights/tsunagi.html
つな木を生んだNikken Wood Lab
左から 大庭拓也、松丸真佑美、石澤英之、高橋恵多、大和田卓、江坂佳賢
Nikken Wood Lab(以下ラボ)は、新規ビジネスを募る社内コンペの際、職員10人程で立ち上げた木質木造を研究、実践するチームで、活動を始めて今年で2年目になります。森林や環境保全、木材活用に興味のある仲間に声をかけ、デザイナーやエンジニアなど様々な専門分野の有志により結成されました。
ラボのメンバーは日常的に木造建築の設計に従事しています。その中で、中大規模木造建築における様々なハードル(法律やコスト等)を知りました。木材利用促進を進めていくには、ハードルの低い「小さい木造」を面的に広げていく試みも同時に必要なのではという課題意識から「つな木」の発案につながりました。都市木造の専門チームとして、「先進的な」中大規模木造建築への挑戦と「誰でも手に取れる」極小木造へのアプローチの両輪がラボの活動(ゴール)になります。
原風景の木造集落を振り返りながら
北九州の農家に生まれ育ち、祖父祖母を含めた家族7人の田舎暮らし。生活に多少の不便を感じながらも村の人たちや動植物に囲まれ、豊かで刺激的な日々が僕の原風景です。実家は、母屋と離れがあり、100年以上増改築が繰り返されています。時代や家族構成により新陳代謝できるのも木造建築の魅力の一つで、田舎の民家や集落が少しずつ手を加えられながら移ろう様相に愛着を感じます。「計画的」にではなく「生育的」に最適な状況が継続されている原風景の佇まいが「つな木」の発想につながっています。
環境への思いを育てるものを残したい
建築をめざす中で、建築は創造的な行為であると同時に、少なからず破壊を伴うものであることを学び、「つくればつくるほど生命にとって良い建築」づくりが僕のマニュフェストになりました。
森林の健全な循環を助けるために、今、人工林として戦後植えられた切りどきの木材を活用していくことが重要になっています。そのうえで、木材を手にとって何かをつくる行為やそのプロセスそのものが、森林や国土、その先にある地球環境への思いを育てる機会になるのではないかと考え、その実証実験として「つな木」プロジェクトを進めています。
収穫→使う→植える→育てる→収穫という森林の循環利用により、木材の利用促進のほか、水源の保持、災害の防止、環境保全等、森林が本来持つ機能を維持することができます。
「空間を衣服のように着替える」ふるまいを生み出す
いくつかの木造建築の設計を通して「木材」の価格は高くないのになぜ「木造」は高いのかという疑問を持つようになり、それを分析していくと木材の加工と施工にコストがかかっていることが分かってきました。もちろん中大規模の木造建築においては専門的な加工や施工は必要になりますが、「つな木」のように極小スケールを想定し、加工を一切施さない木材をユーザーが自由に組立てできる仕組みを考えることで、今までになかった「空間を衣服のように着替える」ふるまいが可能になるのではないかと考えています。
徳島県スマート林業課プロジェクト推進室との出会い
木材活用がつなぐ縁
徳島県で木材需要や木育を推進する脇田太氏とは、ある木造プロジェクトを通じて出会いました。徳島県は、2010年に公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律が施行される以前から、県産材の利用促進にとても力を入れている自治体の一つです。「つな木」の開発段階においても幾度となく意見交換をさせていただき、ありがたいことにトライアルの第一弾として徳島県庁をテストケースにしてはという話につながりました。
(徳島県庁、脇田氏より)
「もっと身近に感じられる「木づかい」を発信したい」という思いが合致し、「つな木」をオフィス木質化のモデルとして県庁でトライアル的にできないかと考えました。徳島県には、ふんだんに森林資源があるため、県庁が自らの手で「利用し」「その価値を体感する」ことで、県民の皆様をはじめ沢山の方に「ちょっとした「木づかい」がこんなに手軽に、楽しくできます」ということをご紹介したいと考えました。
「つな木」ワークプレイス
2020年3月にモックアップで構造実験をした後、4月に発注し施工の予定でしたが、コロナの緊急事態宣言により中断。緊急事態宣言が解除された6月に入り、ようやく施工を進めることができました。コロナ禍中で、私は東京より見守ることになりましたが、逐一、脇田氏より「早く同じ空間を共有したい」と組み立ての状況を知らせるメールや動画をいただき、同じ気持ちで施工段階を過ごしました。
完成のタイミングで徳島県庁のオフィスを訪れた時には、最後のブースを製作されていました。職員のみなさんが想像以上に効率よく、また笑顔で声を掛け合い製作されていた風景が印象的でした。
徳島県庁のみなさんが自らの手で組み立てている様子
アンケート
その後、脇田氏を中心に独自で「つな木」ワークプレイスの施工や使い心地をアンケートに記してくださいました。みなさん手書きでぎっしり。情熱を感じました。概ね好評価でしたが、課題も見え、今後の大切な資料となっています。
木材を、身近な社会インフラへ
計画段階から竣工まで、スマート林業課のみなさんとの関わりは、かけがえのない経験となりました。みなさんと意見交換しながらデザインを進めた今回の「つな木」ワークプレイスですが、デザイナーの個性が前に出るものではなく、ユーザー自体が発案、製作しアレンジする様子を目のあたりにし、「つな木」は単に家具や小空間というものを越えて、人々の生活に寄り添う小さな「社会インフラ」としてのポテンシャルがあるのではないかと感じさせられました。
徳島県庁のワークプレイスを皮切りに様々なカタチで「つな木」を面的に広げていき、そこで生まれる人や文化との出会いを大切にしながら、豊かな木質空間と森林保全に向けて引き続き邁進していきたいと思っています。
竣工記念に撮影。会議テーブル天板の裏側には、竣工日と関わったメンバーの名前を書き込んだ。中央左:大庭拓也・2列目左:徳島県スマート林業課プロジェクト推進室 脇田太氏
大庭拓也プロフィール
株式会社日建設計 設計部門 アソシエイト アーキテクト Nikken Wood Lab代表 1982 年福岡県北九州市生まれ。福岡大学建築学科卒業。東京工業大学大学院建築学専攻修了。2007 年日建設計入社。林野庁長官賞、木材活用コンクール部門賞、グッドデザイン賞等を受賞。「つくればつくるほど生命にとって良い建築」を実務やラボの活動を通して模索中。
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