「お腹の子は、無脳児でした。」~葛藤と感動に包まれた5日間の記録~

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次話: 「お腹の子は、無脳児でした。」最終話 ~妊娠498日の約束~
著者: Handa Naoto

何?この光景。

頭の中は真っ白。

心臓バクバクどころじゃない。


イスに座っても、誰も何も話してくれない。


やっと話してくれたと思ったら、

「今日は一人で来てる?誰か一緒に来てない?」

とまた確認される。

そうとう内容が深刻なのはよくわかった。


やっと先生がしゃべったと思ったら、

「ちょっと中から見たいから、

内診台の方あがってもらおうかな。」


「何かあるんですか?」

すごく震えた声で、やっと聞けた。


「うーん。ちょっとね。うん。

胎盤の位置を確認させてね。」


なんとなく怖くてエコー画面が見れない。

それよりも、

先生たちのヒソヒソ声が気になって仕方がなかった。


うーん。やっぱりどうのこうの。

ここがあーのこーの。

だからあーのこーの。

全然聞き取れないけど、かなり深刻気味。


内診が終わっても、

足がガクガク震えてパンツがうまくはけない。


また先生の前に座る。


「これね、今日のエコーなんだけど。」


心臓が痛い。

今から何か言われると思うだけで、

過呼吸になりそう。


「ここわかる?下が黒くなってるでしょ?

頭の下と、ここ背中なんだけど、

背中の下も黒くなってるでしょ。」


「はい。」


「これね、赤ちゃんむくんでるんだよね。」

全く知識がないせいで、会話の先が読み取れない。


「でね、ここ、頭の後頭部なんだけど。

体の大きさに比べて、

頭の大きさがちょっと小さいんだよね。

ていうのは、後頭部が成長してないのよ。」


「はい?」


「前回のエコーではね、

そんなふうには見えなかったんだけどね。

んーーー。まー、要は脳がないんだよね。」


「え?!」


「無脳児って言うんだけどね。

こういう事、稀にあるんだよね。

お母さんのお腹の中では生きられるんだけど、

脳がないから、産まれても生きられない。

今の段階での治療法っていうのは、何もないんだよね。」


お腹の中では生きられる。

でも、脳がないから、産まれても生きられない。


全然わからない。

全然整理できない。


「え。どうしたらいいんですか?」


「今妊娠14週だよね。

そうすると、妊娠12週以降の場合は、

普通のお産と同じ形で、

赤ちゃんを出すしかないんだよね。

中絶という事になっちゃうんだけど。」


「中絶?!」


「うーーーん。無脳児ってね、

脳がないだけで、体はほんと普通に育つんだよね。

目もちゃんとあるしね。

心臓もちゃんと動いてるから、

どうしても中絶という言い方になってしまうんだよね。

母体のリスクを考えて、

母体保護法で中期の中絶をしてもらうことになってしまうんだよね。」


先生はすごく申し訳なさそうに言った。


のちのち、ネットで調べた記事には、

” 一般的に、医者から

中絶を勧めることはほとんどない。

ただ、無脳症の場合だけ、

唯一医者が中絶を勧める病気である。

それ程、無脳症というのは、

絶望的な病気である。 " と書いてあった。


頭の中で整理を全く出来ていないし、

現実に心が追い付いてないし、

そもそも全く現状を理解できていない。


「じゃあ、奥で入院する日を決めてね。」

と別の部屋に。


一人でボーッと考える。


でも、何を考えたらいいのかわからなさすぎて、

結局何も考えずに座っていた。


受付に戻ると誰もいない。


ボーッと待って、お金払って、車に戻って、

すぐ夫のはんちゃんに電話をした。


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