うつ・不眠症・ひきこもりだった主婦が3日間で715キロを下る、カナダの世界規模のカヌーレースで世界3位になった話

4 / 9 ページ


ボートでの席順は、

前・・・ジョナサン、ゾロくん

真ん中・・・はるかちゃん、わたし

後ろ・・・みなちゃん、トマスキーさん

一番後ろ・・・KENさん(ラダー ※舵)


ユーコンリバークエストは、世界規模のカヌーレースである。

「パドラーの聖地」と言われており、わたしたちのような「ド素人集団」が出場することは皆無に近い。

カナダ人をはじめとした、世界各国のカヌー上級者、ベテランの猛者たちが出場するレースだ。


当たり前だが、周囲のボートは早い、早い!

ここで私たちは、他のボートの漕ぎ方に注目する。


漕ぎ方は3通りある。

・御嶽漕ぎ・・・だいごさんから教わった漕ぎ方。水面に対して、パドルを立てて垂直に入れる。ストローク(水を掻く)の時間が長い。

・高速漕ぎ・・・御嶽漕ぎよりもペースは速い。パドルは立てずに、少し斜めにして漕ぐ。ストロークは短く、入水のときのみ力を入れる。

・ちゃぷちゃぷ漕ぎ・・・高速漕ぎよりもさらにパドルを斜めにして、先端を持つ手の肘を曲げて楽に漕ぐ。水をキャッチする力も、推進力も弱い。体の負担は少ない。


ほとんどの早いボートが、高速漕ぎで漕いでいた。

私たちは、彼らの真似をすることにした。

かなり早く進んだ。

KENさんから「かなりいいペースだよ!」とお褒めの言葉をいただき、とても嬉しかった。


私たちは、基本的に掛け声を掛けて進んでいった。

入水のタイミングを合わせるため、入水時に音頭を取り、

パドルが水から抜けるタイミングで、合いの手を入れる。


「セイヤー!」

「ういー!」

みたいな感じだ。


誰がどのタイミングで声掛けするかは自由。

私は無意識に、自然に合いの手を入れていた。

掛け声を掛け合うのは、とても気持ちがいい。元気が出てくる。


パドリングは、餅つきにも似ている。

男性が突いて、女性が返す。

セックスと同様である。





<カナダの大自然での開放>


順調なまま、最初の難所「ラバージ湖」を迎える。

ここは全長100キロの、流れのない巨大な湖。


それまで川の流れがあって順調と感じていたが、急にボートが重く感じる。

おまけに、強い追い風で波がかなり高く、ボートは揺れまくって極めて不安定。

途中で雨も降ってきた。


最初は「海みたい!」と面白がって興奮していた。

不注意により、パドルを流してしまったり

(後ろで漕いでいたみなちゃんがナイスキャッチしてくれた)、


雨具に着替える際、ノロノロしていて

ライフジャケットをつけていない時間が長くて心配をかけたり、


着替えに時間がかかって、まだ着替えていない他のメンバーが

雨に濡れている時間を長くしてしまった。


また、左右のポジションを交換する際、

ボートに捕まらず、不安定なまま腰を下ろしたせいで、

もう一人のメンバーが衝撃で倒れてしまうということがあった。


危険な状況の中、みんなが緊張感を持ってやっているのに、それが欠けていた自分に反省した。

このときから、ボートで用を足すメンバーが続々と出てきた。

2リットルのペットボトルを半分にちょん切ったものを使って、用を足す。

隣の人と共用だ。


揺れと緊張と恥じらいから、最初はなかなか尿が出ないという。

私は2人が先にしてくれたというのもあり、特に何の障害もなく用を足すことができた。

その開放感が、めちゃくちゃ気持ちよかった。


しかし、この危険な状況も、中盤になると、徐々に恐怖になってきた。

転覆する可能性もある。

改めて、水の大きさと恐怖を感じた。


ラダー(舵)のKENさんが、神経をすり減らし、

手にマメを大量に作りながらも、必死で舵を取ってくれていた。


ユーコン川の水は冷たく、転覆した場合、

10分浸かっていれば低体温症で死ぬという。


このラバージ湖はあまりにも大きく、波も高く、

転覆してから10分で岸にたどり着くのは至難の業。

そして、他のメンバーは泳げるけど、わたしは泳げない。


本当に危険な状況であり、一刻も早くラバージ湖を抜ける必要があった。

私たちは真剣に、必死に漕ぎつづけた。


実際にはあまり進んでないように見えても、確実に進んでいる。

ひと漕ぎ、ひと漕ぎをていねいに行った。


途中で、前に座っているゾロくんが、

「これ、食べさせて」と、クルミが入った袋を渡してきた。

一番前に座っている二人は、みんなをリードする役目だ。

ましてや、この不安定な状況。手を休めるのも躊躇するだろう。


この状況でなければ、お上品に一つずつ、

手と口が触れないように遠慮しながら行っただろう。


そんなことを気にしてられなかった。

決して衛生的とは言えない手で、私はおもむろにクルミを数個取り出し、

大きく開ける彼の口の中へ押し込んだ。

当然だが、手と口が思いっきり触れた。


同様に、ジョナサンの口にもたくさんのクルミを押し込んだ。

二人とも、もっと食べられると言うので、

「ブホッ」と吹き出すほど、たくさんのクルミを口の奥まで押し込んだ。

隣にいるはるかちゃんの口にも、容赦なく押し込んだ。


その行為に、とても快感を覚えた。

手と口が触れ、相手の中に入る。

相手と繋がっているように感じた。

自分を受け入れてくれているように感じた。


調子に乗った私は、その後もチョコレートやビーフジャーキー、

著者の川和田 あき子さんにメッセージを送る

メッセージを送る

著者の方だけが読めます

みんなの読んで良かった!

STORYS.JPは、人生のヒントが得られる ライフストーリー共有プラットホームです。