〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜【第一話】『うつ病になった日…』

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「心療内科ってこんな感じなんだー」


白を基調としたキレイな内装に、3人掛け用のイスが並んでいる。

アロマのような心地よい香りと、

さりげなくヒーリングミュージックがゆったりと流れていた。


男性、女性、若い人、中年の人、スーツの人、普段着の人、

実に様々な人達が、心に問題を抱えているんだと初めて思い知った。


そして僕もその一人だった。



しばらく経って、僕の名前が呼ばれた。


部屋に入ると、


少し小太りの、変な柄のネクタイをした男の医者と助手の若い女性が座っていた。


医者
「おかけください。」


僕はイスに座り、これまでの症状と、今の現状を赤裸々に話した。



医者はしばらく僕の話を聞き、問診票を見ながら、こう言った。



医者
「自律神経失調からの適応障害の可能性があります。」



「て、適応障害?」



僕はショックだった。

適応障害の意味は良く分からなかったが、

とりあえず適応出来ない人間なんだと思った。

こんなに仕事を頑張って、成績も残してきたのに、

自分は、社会に適応出来ない、社会不適合者なんだと思った。


しかし心の奥でどこか腑に落ちる感覚があった。


「やっぱりか」


と妙に納得した部分があったのだ。



医者
「今はお仕事が忙し過ぎるのでしょう。」

「少し休めば良くなりますよ!」




それを聞いて少しホッとした。

適応障害と言われても、得体の知れない恐怖に襲われ続けるより、原因が分かっただけで良かった。

休めば治るのなら、大丈夫だと思ったら、少し元気が出た。


とりあえず僕はうつ病ではない。


「休めば治る適応障害!」


それくらい軽く思っていた。


その日、


医者
「これを飲めば、気持ちが楽になりますよ。」


と、

精神安定剤を処方された。


薬を飲むことに少し抵抗は

あったが、薬を処方されたことでの安心感と、

「やっと仕事を休む正当な口実が出来た。」


と思った部分があった。

いや、むしろそっちの方が大きかったかもしれない。


病院に駆け込んでから、つい数時間前までのことが嘘のように、気持ちが随分と楽になった。


しかし、気持ちが楽になったのは、ほんの短期間だった。

日が経つに連れ、またあの恐怖感が襲ってくる。


7月の後半、初診から2ヶ月が経った頃、

僕は仕事の外回りの時間を縫って、週一回、病院に通い続けていた。


だか、症状はほとんど改善はしていなかった。


あの小太りの医者に相談をしたところ、


医者
「一旦お休みをしましょう!」

「少し休めば良くなりますから!」


と言われた。


自分でも、このままの状態で仕事を続けていても、きっと良くならないだろうと思っていた。

それ以上に悪化していくだろうと思っていた。


この時既に、お客さんと話すのが怖くて仕方がなかったからだ。

どこにいても電話の着信音を聞いただけでも、心臓がバクバクする。


夢の中でも仕事をし、寝ることでさらに疲れが増していく。

朝食を食べれば嘔吐し、電車に乗るのも怖かった。



僕は、営業職で、税金など、個人事業主の方の経理のコンサルタントの仕事をしていた。


この仕事を選んだのも、今後の結婚生活で、

お金の仕組みを知っておくことは非常に大切なことだと思ったからだ。


しかし、この仕事で、お金と人、会社のダークな部分を知ることになる。


自分の正義と、会社の正義、そしてお客さんが求めているもの。


僕にはどうしても納得の出来ないことがあった。


心にシコリを抱えたまま、仕事を続けていたが、

お客さんに契約をしてもらうことが、自分自身を騙し、

お客さんを裏切る行為になるんじゃないかと思え、

ついこの間まで、営業成績をトップで走り続けていたのに、

全くと言うほど契約が取れなくなっていた。


というか、取らなかった。


お客さんの仕事の経理や税金は、お客さんにとって、生活に直結する部分だ。

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