〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜【第一話】『うつ病になった日…』
心底、彼女の理解に感謝した。
会社にも話し、8月の夏休みから、とりあえず一ヶ月間、休職することになった。
僕が適応障害と診断されてから、心に良いとされることを色々やってきた。
彼女は、根菜類や豆などを使った美味しい料理を毎日作ってくれた。
彼女も働いていたにも関わらず、僕の負担を減らそうと、皿洗いさえさせてくれなかった程だ。
寝るときは、いつもソファだった。
僕はベッドで一緒に寝たかったのだが、僕の負担にならないようにと、彼女は頑なに断り続けた。
そんな彼女に僕が出来ることは、どこかに連れて行くことくらいだった。
彼女は旅行が大好きだった。
休みの日はどこかしらに出掛けてはいたが、今までは僕の仕事が忙しく、
旅行には全然行けていなかった。
休職しようと決めた今、彼女との時間を存分に楽しもうと決めた。
仙台に住む友達に夜行バスで会いに行き、牛タンを食べ、牡蠣を食べ、観光地めぐりをした。
初めて富士山に登り、一緒に御来光を見た。
楽しそうにしている彼女を見るのが何よりも嬉しかった。
もっともっと彼女と同じ時間を過ごしたいと思った。
そして僕は、彼女と一緒に過ごせる時間を増やすため、
転職しようという気持ちが強くなっていった。
8月14日から休職期間に入り、約2週間。
事件は起きた…。
うつ病になった日…
2013年8月25日…
今でも鮮明に覚えている。
帰宅した彼女の明らかにおかしな態度に、
「ちょっと話そうか。」
と、イスに腰を掛けた。IKEAで買ったお気に入りのナチュラルテイストなテーブルを挟み、
改めて彼女の顔を見た。
「やはり様子がおかしい…」
只事では無いと、
僕は彼女に聞いてみた。
彼女は言う。
幸いにも誰かに何かをされた訳ではないようだった。
しかし、うつむき、目を合わせようとしない彼女を見て、
「何かあったなら言ってよ?」
「僕、何かした?」
こんなやり取りを何度か繰り返し、
彼女は重い口を開いた。
「別れたい…」
その言葉を聞いて、耳を疑った。
つい3週間前、仙台に行った時は、
めちゃめちゃ楽しんでいて、
「結婚式のプロフィールムービーに使おう!」
と何枚も何枚も一緒に写真を撮った。
2週間前の富士登山では、彼女と一緒に登頂をした。
キツそうな彼女を励ましながら、一緒に登頂をした。
僕は八合目から自分のザックと彼女のザックを担ぎ、登った。
正直僕も結構キツかったが、彼女のために出来ることが嬉しかった。
下山した後、彼女は、
「◯君がいなかったら、絶対に登れなかった。ありがとう!」
と言ってくれた。
そんなことがつい2、3週間前にあったのに、
どうして急に別れを告げられるのか不思議で仕方がなかった。
彼女は全てを背負いこんでいた。
「それに休めば治るんだから」
僕はそう言った。
「私には、そんな不安定な生活は耐えられない…」
彼女は何か勘違いをしているようだった。
「今の僕を見てごらんよ?こんなに元気じゃん!」
「休めば治るし、次はちゃんと2人の時間を作れる仕事をするからさ!」
「◯◯に養って貰おうなんて全く思ってないし、僕はちゃんとやる人間だから、大丈夫だよ!」
そう言っても、彼女の表情は変わらなかった。
大音量の音楽をヘッドホンで聞いているかのように、
僕の言葉は全く届いていなかった。
「なんで、うつ病になっちゃったの…?」
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