【第13話】『神様がくれたもの』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
20:30。
やっと宿に辿り着いた。
電話をしてから1時間程経過していた。
「遅くなってしまった…」
恐る恐る玄関の扉を開けた。
「あの、さっき電話した坂内です。」
そう言うと、
「よく来たわね!待ってたよ!」
おばちゃんは明るく迎えてくれた。
「じゃ、これ鍵ね!」
「いつもは満室になるんだけど、今日は一部屋だけ空いてたのよ!」
「あなたのために空いてたのね!」
何とも粋なことを言ってくれる。
でも僕は、きっと本当にそうなんだと思った。
神様はきっといて、いつも見守っている。
ピンチになったら、手を差し伸べてくれるんだ。
道祖神での不思議な出来事から、僕の意識は変わっていた。
ちなみに僕は何も信仰はしていない。
でも、実際に体験しちゃったんだから、信じざるを得なかった。
「ありがとうございます!」
それから僕は、何故旅をしているのかを話した。
初対面の、しかも今晩だけの付き合いの人に
自分の成り行きを話すのは、抵抗がある人もいるだろうが、
今僕がここにいる理由を話す上で、欠かせないことだった。
嘘は嫌いだ。
嘘をつくと、それからずっと負い目を感じることになるのを知っている。
正直に伝えるのが一番なんだ。
うつ病や婚約破棄の話を一通り聞き、
おばちゃんは、こう言った。
「あなたなら大丈夫よ!」
そう言ってくれた。
おばちゃんの人柄もあってか、ただ僕が話したいだけなのか、
ほんの数十分前に会っただけにも関わらず、何故か安心出来るような感覚だった。
「明日も早いんでしょ?」
「今日はもうゆっくり休みなさい。」
確かに、もう20:30を回っている。
「これ、足りないかもしれないけど、サンマの炊き込みご飯作ったから、良かったら食べてね!」
そう言って、おばちゃんは、サンマの炊き込みご飯にぎりと、みかんを2つくれた。
「いいんですか?」
「めちゃめちゃ嬉しいです!」
「ありがとうございます!!」
僕は素泊まりだ。
もちろん素泊まりの料金しか払っていない。
しかし、おばちゃんは、僕が歩いてやって来ると知り、
おにぎりを作って待っていてくれていた。
嬉しかった。
こんなことってあるのだろうか。
この旅で、一番の嬉しい出来事だった。
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