お寺で育った幼少期、異国での日々、3.11での被災、ライターで食いつないだ東京でのじり貧生活...こわがりだった私の半生の中で、唯一ゆずれなかったもの

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後編: 永い準備期間を経て、とある孤高の作家と出会い、本当に好きなものが仕事となった話


お世話になった人々に報告した。

溜め込んだ資料、雑誌、名刺、

ライターで得たものすべてを捨てた。

当時つきあっていた彼氏とも別れた。

長かった髪の毛も切った。

何も持たずに、旅立った。

とても、爽快だった。





ヒースロー空港におりると、そこは外国人ばかりだった。

というか、この場合、私が外国人になるのか。


朝、7時。ロンドン直行の急行電車にのって、

パディントンという駅におりた。


葉っぱの一枚一枚や、空気、石造りの建物、

人、すべてが、日本と違っていた。

誰も、自分のことを知っている人がいない国。

そう思うとすべてのしがらみから

解放されたような気持ちになった。

はじめておりたったロンドンは、

シナモンの香りがした。



英語はまったくわからなかった。

実際に外国人にむかって、英語を話したこともなかった。


目の前に、芝生が広がる平たい公園を見つけた。

ベンチに腰掛けていると、

ジョギング中のカップルが近づいてきた。

女性は60代くらい。短パンに大きなつばの帽子。

男性は20代くらい。金髪のくるくるヘアー。

不思議な組み合わせだ。


女性が私にたずねた。

「Is this hat hyde my face?」

帽子に顔が隠れてるか?ってことかな?

うん。っと、うなずくと、

女性は、満足そうにジョギングしていった。


なんだかロンドンってすごいなー。

日本ではそんな質問されたことなかったー。

ここでのルール、今までとはまったく違うものですよ。

そう言われたような。不思議な洗礼をうけて、

私のロンドン生活がはじまった。



人々の話し声が、テープの逆回転のようにしか聞こえなかった一年目がすぎた。

英語も話せない私は働くわけでもなく、ぶらぶらと近所を散歩して歩いていた。

寝る間もなく働いていた東京でのライター時代とは、真逆の生活を送っていた。


青くぬけた空。

白い石造りの建物。

からっとした自由な空気。

さまざまな人がいて。

何もかもが新鮮だった。


絵描き、ミュージシャン、デザイナー、作家、映画監督、

出会う人すべてがアーティスト。その表現者の多さにおどろいた。

私は少しずつロンドンの生活に慣れていき、

バイトもし、イギリス人の友達も増え、

徐々に英語の聞き取りもできるようになっていた。





ロンドンの生活も2年が過ぎようとしていたころ。

私は、ニーナ・ミランダとクリス・フランクという

ミュージシャンが大家さんをしているフラットに引っ越していた。

1Fが彼らの住まいで、私が2F。

私は時間があると1Fに遊びにいって、

一緒にお茶を飲んだ。


(photo by Steve Franck)



「優子はどんなことに興味があって、どんなことが好きなんだ?」

彼らにはそんなことをよく聞かれた。その質問は、知り合う人、友達、出会う人みんなに聞かれた。私はその都度自分のことを一から振り返らなくてはならなかった。


何が好きで、どんな人間か。

なんのために、ロンドンに来て、

なんのために、仕事をして

なんのために、存在しているのか?


そんな質問が頭の中をかけめぐった。

「なんのために、生きてるのか?」

お金のために働いていた私には、すぐに答えが出なかった。


アーティストである彼らにはいつも言われていた。

「書きたいものがあるなら書かなきゃ」


ちょうどニーナとクリスは、新しいCDアルバムを作っていたところだった。



その日もニーナが手描きでアルバムのデザインをしていた。

私は一緒にソファに座って彼女の描く絵を見ていた。

カラフルな色使いでヘビが楽しそうに踊っている絵だった。


「こっちとあっちどっちの絵がいいか?」

「ここはこの色にしようかと思うけど、どうかな?」

そんな簡単な会話をかわした。

私はすっかりくつろいでニーナの絵をみていた。


自分の部屋にもどったその日の深夜過ぎ。

激論を交わしたわけでもなく、激しい音楽を聴いたわけでもなく、

お茶を飲みながら、ニーナの描く絵を横で見ていただけなのに、

布団に入っても私は興奮してなかなか眠れなかった。

それどころか空想のようなイメージがどんどん膨らんでいった。


そうだった!

私はトウモロコシの粒が主人公の話を書くんだった。

イメージがおしよせてきた。それは11話から成る短編集だった。

書かなくてはならなかった。イメージが押し寄せてどんどん膨らんだ。

みんなの読んで良かった!

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