若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話
Sがそういいながら、届けられたばかりのヘルメットをかぶろうとした。が、きつくて頭に入らない。後で、U先生が僕らに防具のつけ方を教えてくれることになっていたのだが、僕らは待ちきれず先に触りだしたのだ。
ヘルメットは、頭をピッタリと包み込むように作られているので、そのままかぶろうとしても頭には入らない。フットボールのヘルメットには、ちょうど耳にあたるところに直径5センチくらいの穴が開いている。そこに両手の指を掛けて引っ張って左右に広げて、その瞬間にかぶらないとうまくかぶることはできない。
また、ショルダーパットを先に付けて、後からジャージを着ようとしてもうまくいかない。肩幅が広くジャージに手を通すことができないからだ。
今度はZがヒップパッドを持ちあげて、首を傾げた。
ヒップパッドは、ベルトの中央部に幅5センチ長さ15センチ程度の板状のクッションが、そして15センチほど間隔を空けて両脇に直径10センチ程度の丸いクッションが取り付けられている。
「これって、前を守るんやろか」
Zが、中央部を前に持ってきて腰に巻いた。
素人であれば、誰もがそう考えるはずだ。
ちょうどそこへ、授業が終わったU先生がやってきた。
「何しとるんや、ブン。前と後ろが反対や」
先生は笑いながらブンに近づいた。
「ええ・・。そやけど先生、それやったら、大事なところを守られへんで」
「ばかたれ。お前の大事なところなんか、どうでもええ。それは、尾底骨を守るもんや。タックルされてケツから地面に落ちたときのためや」
それを聞いて、僕らは納得した。
30分ほど防具と格闘の末、U先生の指導もあって何とか全員着替えることができた。
防具の横には新しいボールが3個あった。少し赤みがかった色が付いていて、かたちも断面が円形ではなく、少し角張っている。
「このボールへんやで。表がぶつぶつしとる」
ボールを手にしたMが、じっとボールを見つめて、不思議そうな顔をした。
「わあ、ほんまや。へんや。へんや、このボール。にせ物ちゃうか」
周りのみんなも騒ぎ出した。
「ちゃうちゃう。さらのボールはこうなっとんねん」
「おまえらが使うとったやつは、皮が磨り減ってぶつぶつが無くなっとるだけや」
「普通はあんなツルツルのボールは捨てるんや。おまえらが使うとったボールは、大学が捨てようとしたやつや。それをわしが拾ってきたんや」
U先生は、少しすまなさそうな顔をした。
真っ白なヘルメットに真っ白なジャージとパンツ。それにぶつぶつのあるボール。11人がそろって小雪の舞うグランドを、時間が経つのも忘れて子供のように走りまわった。
そのころ校舎の中では、グランドに変な物が現れたと、大騒ぎになっていた。誰かが、グランドに見たことのない物がたくさんいると言い出したからだ。いつしか窓という窓は、突然雪の中に現れた不思議な光景を見ようとする生徒の顔で埋まっていた。
7.縁の下の力持ち
さて、防具が揃うといよいよポジションを決めることになった。
U先生から、1年7組の教室に集まるようにいわれ、放課後全員がぞろぞろと集まってきた。
司令塔となるクォーターバックは、MとK、その女房役のセンターはSに決定していた。足の速いGと、体の小さいZがランニングバック、背が高くスマートなYがスプリットエンド、バレーボールをやっていて、球の扱いがうまく体も大きいDと、Nがエンドになった。そして、体の大きいXがタックル、残ったポジションのガードに僕とTがなった。
ポジションが決まったところで、U先生が僕らを前にしていった。
「今度は、キャプテンを決める」
「立候補するやつはおらんか」
U先生はしばらく様子を見ていたが、誰も手をあげる者はいなかった。
「ほな。選挙やな。今から、投票用紙を配るから、これにキャプテンの名前を書け。ええな」
U先生は、自分の持っていたノートをビリビリと荒っぽく手で破いて、僕らに配った。
紙が配られると、僕の後ろでみんながこそこそと相談を始めた。
(こいつら、何かたくらんどるな)
僕はそう思った。
僕らは配られた紙にキャプテンの名前を書いて、U先生のところへ持っていった。その紙を受け取って、順番に見ていったU先生は
「キャプテンはうしや」
「ほな、たのむで」
いとも簡単にそういった。
それから
「大学では、だいたいキャプテンはラインの僕らがなっとる。なんでやわかるか」
U先生は僕らに問いかけた。
「フットボールをやったことがないお前らにはわからんわな」
U先生は独り言のようにつぶやいた。
そして、一気にまくしたてた。
「フットボールで目立つのはクオーターバックとランニングバック、それにボールを受けるレシーバーや。そやからこいつらが主役やと思うやろ」
「これが、違うんや。フットボールで一番大事なポジションはどこか知っとるか。知らんはな。それはラインや。ラインが弱かったら、なんぼええランニングバックがおっても走られへんのや。ラインがランニングバックの走る道を作ったっとんのやからな」
「ええか。ラインは目立たんけど、縁の下の力持ちなんや。そやからラインがリーダーシップをとるチームは強い」
「目立つ花形がリーダーシップを取ったら、ラインの影の苦労がわからんから、うまくいかんのや」
「あいつばかり目立ちやがって。そんなことを思うやつがおったらあかんのや」
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