若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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しばらくするとU先生が、教官室から出てきた。

「わしがUや」

先生は、僕らを前にして、仁王立ちで腕組みをしたまま話し出した。

 いつもの赤のランニングパンツ姿。妙にドスの効いた話し方だ。

「おまえらが泣いて頼むから、フットボールの顧問をすることにした。わしがするからには徹底してやる。おまえらは卒業するまでに兵庫県代表で関西大会に行くんや」

「作って2年で関西大会に出た学校はない」

「いや・・・。ないと思う。おまえらはそれをやるんや」

「練習は、しんどい。今からいうとく。遊びでやるんやったらやめとけ」

「ええか。わかったな」

一方的にそういい終わると、

「今からわしがフットボールを教えたる。S、おまえセンターしてみい」

U先生はいきなりそういって、Sを前に連れ出し、犬のように四つん這いにさせた。

そして、ボールを左右から挟み込むように両手で握らせ、顔の前方でボールを床に立てるように、自ら手を添えて指導した。

(変なかっこう、犬みたいや)

僕らはそう思った。

「ちょっとそのまま待っとけよ。ボールは45度以上起こしたらあかんで」

そういうと、すぐに

「次は、クォーターバックや。Mきてみい」

Mが前に引っ張り出されて、Sの真後ろに立たされた。

「両足を肩幅くらいに広げて、ちょっと腰を落とし、Sのケツに手を当てるんや。ええか、顔は下げず真っ直ぐ前を見とけよ」

U先生がいったので、Mは、少し腰を落として手のひらをピタッとSのおしりに当てた。

(きもちわる)

みんながどっと笑った。

「ちゃうちゃう。それはオカマや。手のひらは下向けに開いて、手の甲をケツに当てるんや」

U先生は、苦笑いをしながら、Mにやり直しをさせた。

そしてU先生は、Mに

「今からわしがいうことをまねせい」

そういったかと思うと、

「レディ セット ダウン ワン ツー スリー 」

突然、英語らしき言葉を発した。

(今何いうたん?)

僕らは、U先生が叫んだ、へたな英語の意味が分からなかった。

「先生、それなんなん?」

Mが思わず口に出していってしまった。

「ばかたれ。お前らは英語も分からんのか。これは、センターがスナップするタイミングを伝えとんのや」

「最初に1か、2か、3か決めといて、それをクォーターバックがいうたときにセンターがボールを動かすんや」

U先生が得意そうに説明した。

「それで、後はなんていうとん?」

僕が追い討ちをかけるように質問をした。

「そんなもん知らん。ワンか、ツーか、スリーを決めればそれでええんや。わしは英語の教師とちゃう」

U先生は僕の質問をうまくかわした。そしてすぐにSにいった。

「S、そんで、ボールを股の間からMに渡してみい。自分のケツに当てるように後ろに引くんやで。そんでMはそのボールを受け取るんや」

「先生、こうか」

Sが、ボールを床から浮かして恐る恐る後ろに引き上げた。

ボソッと音がして、ボールがゆっくりとMの手に当った。

「もうちょっと速よ上げてみい」

「こうか」

また、ボソッとにぶい音がして、ボールがMの手に当った。一回目よりは少し速かった。

「まあええわ。最初はそんなもんやろ」

「ほんまはな、もっとバシッと音がするんやけどな。バシッと・・・」

U先生は、少し不満そうだったが、続けてSにいった。

「お前、これからもセンターせい。ここで何べんもスナップの練習をしとったらええ。そのうちに股の内側が腫れ上がってくるから、そうなったらうまくなっとる」

これは、本当の話で、自分の両手が内股に当たるので、何回もセンタースナップをすると、内股が腫れて痛くなってくる。

そして、うまくなった頃には、あまり手が当らなくなるのと、内股が鍛えられて、もう腫れることはない。そうなると一人前のセンターである。

 

僕たちはそれから、暇さえあれば、体育館でフットボールの真似事をしていた。

 そしてついに、1年7組の教室で、ボールを投げる練習を始めてしまった。

 Mが教室の教壇側から反対側の壁の前に立っている僕に向かって、ボールを投げる。ボールはみんなの頭越しに僕に向かって勢いよく飛んでいく。

フットボールは、ラクビーボールのように楕円形をしているが、ラグビーボールよりも一回り小さい。これは、遠くまで投げることができるようにするためだ。

 このボールはうまく投げないと俗にいう「ガメラ飛び」になってしまう。

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