若者はこう生きろ。ど田舎にできた高校アメフト部がたった2年で全国大会に出た話

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冗談交じりにいった。

「どないしたん」

KDが心配そうな顔をした。

「左手首が動かへんのや」

僕が手首を見せた。

「え、それは大変」

KDは、僕の手首を見るなり、先生を呼びに中へ入っていった。

この病院には、予約や順番待ちというものがない。僕はすぐに診察室に通され、先生にレントゲンを撮ってもらい、診察を受けた。

頭がハゲあがり、目がギョロっとした年配の先生だった。   

先生はレントゲンの結果を見ながら僕に向かって、ニヤリとした。

「折れとる」

「ええ…、折れとるって、骨折のことですか」

「そうや、骨折や。ようがまんできたな。このまま放っといたら曲がったままくっ付いてしまうところやった」

そういうと先生は、早速手首にギブスをする準備にとりかかった。

「先生、ギブスは止めてもらえませんか」

僕はあわてて先生の動作を遮った。

おそらく2週間はギブスをすることになる。ギブスをすると1週間で間接が固まって動かなくなる。そして、筋肉も落ちて骨だけの腕になる。そうなると練習に復帰するのに余計に時間がかかる。そのことが分かっていたので、僕は先生に頼みこんだ。

しかし先生はこれを聞かなかった。

「あかん。ギブスをせな早よ治らん」

そういって、あっという間に慣れた手つきで僕の手首にギブスをしてしまった。

(どないしよう)

僕は見事に巻かれたギブスを見て落ち込んだ。

 

2週間ほどしてギブスは取れた。予想どおり間接が固まって手首は動かない。おまけに肘から先はごっそりと筋肉が落ちて骨だけになっていた。まるで老人の手のようだった。

「試合に間にあわへん。どないしよう」

僕が練習前に心配してMに話していると、それを聞いたU先生が、近寄ってきた。

先生は大真面目な顔でいった。

「石膏で固めて試合にでえ。日体大ではようやっとる」

(ええ、今、外したばっかりやのにそんな無茶な・・。そんなんで試合できるんやろか)

結局また、手首を石膏で固めることになった。

 

そんなときに、地元の新聞社が、「田舎に珍しくフットボール部ができた」ということで取材に来た。新聞記者は、手首に石膏をまいた僕に取材をすると、写真を何枚か撮って帰った。

翌朝、新聞を見ると、石膏で固められた腕をつった自分の姿が載っていた。その石膏の表面には、みごとな落書きがしてあることもはっきりと写っている。その落書きは、クラブの僕らが面白がって、赤いマジックで書いたものだ。

(かっこわる)

僕は、自分の写真を見てそう思った。

 

 

⒗心意気は伝染する

 

4月も終わりが近づきいよいよ、春のシーズンが始まった。

初戦の相手は最近できたばかりの大川高校。全くどんなチームか分からないので、試合前に相手高校の分析をする必要があった。

ある日、U先生が僕を体育教官室に呼んだ。

「お前ら貧乏やから、みなで都会まで試合を見に行く金がないやろ」

「ビデオカメラこうてきたから、これで誰か大川の試合を写してこい」

なんと、U先生はいつのまにかビデオカメラとビデオデッキを買っていた。

カメラとビデオデッキを合わせて50万円の値段がついていた。

(きっとボーナス全部はたいても足らんかったやろな)

その話を聞いて、僕らは思った。

ビデオでスカウティングするのはめずらしく、兵庫県では関西学院大学以外には使用しているところはなかった。それにしても50万円をつぎ込むとはいくら顧問でも、めったにできることではない。

 

このおかげで、初戦の大川高校には大差で勝った。

ビデオで分析した結果、コーナーバックが「45度クイック」といって、攻撃の一番外側に位置するフランカーが、45斜めに走りこんでパスを受けるパターンを警戒して最初から、フランカーの内側に位置していることが分かったからだ。もし、本番でもこうであればレッドコールをする作戦であった。

フットボールでは、予めキーカラーを決めておいてこれを状況に応じてクォーターバックがコールすることで、その場でプレーを変更することがある。

例えば、キーカラーをレッドと決めた場合には、レッドのコールでプレーを予め決められているプレーに変更する。それ以外のカラーのときは何も変更しない。

セットしたときにクォーターバックは、相手方のディフェンス体型を「ファイブ・ツー、ファイブ・ツー」というように大きく叫ぶが、それに続いて

「イエロー41」と叫ぶのだ。

このときはカラーがキーカラーではないので何も変わらない。ところが、クォーターバックのコールが

「レッド41」であればプレーを変更する。

 セットして、大川高校のディフェンスを見たときに、フランカーに出ていたZの前の大川のディフェンスバックは明らかに、45度クイックを警戒して、内側についていた。

これを見たKは、ヘルメットの中でニヤリとした。そして

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