暗黒時代 2
波乱の始業式を終えて教室に戻った俺達一年生は、まだクラスメイトの顔さえ満足に覚えてはいなかった。
ウチのK中学はH中学とA中学の分校なので、一学年の人数は170人も居なかったと思う。
その9割の生徒が同じK小学校の連中だった。
そして5クラスあるうちの各組に5人前後、隣のH小学校からの生徒が混ざっていた。
なので、顔を知らないヤツは、このH小学校から来たヤツらだけだった。
俺達は、入学式を含めてもまだ2日しか顔を合わせてないので、H小出身のヤツらはその仲間で固まり、K小出身のヤツらも同じくK小の仲間で固まっていた。
俺の所属する1年5組には、小学校からの顔馴染みである「いとしん」「宇留野」などが居た。
その中に、同じクラスにはなった事がなかったが、顔馴染みである「五木地義則(通称ゴキジ・仮名)」も居た。
コイツは小学校時代、別の野球チームに所属していて、ちょくちょく練習試合や公式戦で対戦しており、よく知った間柄だった。
野球を引退してからも、プライベートで何度か一緒に野球をやった事もあった。
その頃は特に目立つような存在でもなく、どちらかというと、汗くさい体臭のせいか周りから嫌われていたし、からかいの対象になってるようなヤツだった。
だが、中学生になったゴキジの雰囲気は、それまでとは随分違った。
目付きも悪く、態度もでかかった。
聞けば、3年のワルの先輩達のパシリをしているのだそうだ。
その繋がりを怖れた連中が、勝手にゴキジの事を一目置くようになっていて、ゴキジもまたその空気を敏感に察知して、横柄な態度をとっていた。
元々ゴキジは、些細な事を根に持つようなヤツだった。
その汗臭い体臭から「綾瀬川」などと侮蔑的なあだ名を付けられたりもしたが、みんなから臭い臭いとからかわれると、小声で何回も
「畜生…、畜生…」
と呟いていたのを覚えている。
ちなみに「綾瀬川」とは、俺達の住む街の近くを流れる川で、当時日本一汚い川として有名となっていて、悪臭が酷かった。
その時の情けない姿の印象が強く、ゴキジの豹変した態度に正直驚いた。
俺はいとしんや宇留野といった、6年の時のクラスメイト達と、部活の話をしていた。
俺は既にサッカー部に入る事を6年生の時から決めていたし、慎ちゃんも俺と同じだった。
ただ、宇留野だけが依然としてサッカー部にするか、それとも野球部にするか決めかねていた。
「俺もサッカー部に行くぜ!」
突然、その輪の中にいたゴキジが偉そうにそういった。
俺はてっきりゴキジは野球部に入るとばかり思っていたので、サッカー部とは意外だったが、のちにワルの先輩達との関わりを聞いて、成る程と納得した。
俺達の輪から少し離れた所に、「森英治(仮名)」が独り、廊下側の掲示板に寄り掛かっていた。
英治とは確か、小学校1、2年の時に同じクラスだった事があるのだが、ほとんど口をきいた事がなかった。
俺は独りで佇んでいる英治に向かって話し掛けた。
「よう英治。お前部活どこ入るの?」
すると英治はこちらに顔を向け
「ああ!? テメェ馬鹿じゃねぇの!? 部活なんてやんねぇよ!」
掲示板に寄り掛かったまま、ポケットに手を突っ込み、吐き捨てるようにいった。
英治は俺に近づくと、睨みつけながら通り過ぎ、窓の方へ移動した。
英治の豹変振りには、ゴキジ以上に驚いた。小学校時代、更に目立たない存在だったから…。
ゴキジと英治。
この2人こそ、俺の暗黒時代に最も深く関わってくる人物なのである。
ウチのK中学はH中学とA中学の分校なので、一学年の人数は170人も居なかったと思う。
その9割の生徒が同じK小学校の連中だった。
そして5クラスあるうちの各組に5人前後、隣のH小学校からの生徒が混ざっていた。
なので、顔を知らないヤツは、このH小学校から来たヤツらだけだった。
俺達は、入学式を含めてもまだ2日しか顔を合わせてないので、H小出身のヤツらはその仲間で固まり、K小出身のヤツらも同じくK小の仲間で固まっていた。
俺の所属する1年5組には、小学校からの顔馴染みである「いとしん」「宇留野」などが居た。
その中に、同じクラスにはなった事がなかったが、顔馴染みである「五木地義則(通称ゴキジ・仮名)」も居た。
コイツは小学校時代、別の野球チームに所属していて、ちょくちょく練習試合や公式戦で対戦しており、よく知った間柄だった。
野球を引退してからも、プライベートで何度か一緒に野球をやった事もあった。
その頃は特に目立つような存在でもなく、どちらかというと、汗くさい体臭のせいか周りから嫌われていたし、からかいの対象になってるようなヤツだった。
だが、中学生になったゴキジの雰囲気は、それまでとは随分違った。
目付きも悪く、態度もでかかった。
聞けば、3年のワルの先輩達のパシリをしているのだそうだ。
その繋がりを怖れた連中が、勝手にゴキジの事を一目置くようになっていて、ゴキジもまたその空気を敏感に察知して、横柄な態度をとっていた。
元々ゴキジは、些細な事を根に持つようなヤツだった。
その汗臭い体臭から「綾瀬川」などと侮蔑的なあだ名を付けられたりもしたが、みんなから臭い臭いとからかわれると、小声で何回も
「畜生…、畜生…」
と呟いていたのを覚えている。
ちなみに「綾瀬川」とは、俺達の住む街の近くを流れる川で、当時日本一汚い川として有名となっていて、悪臭が酷かった。
その時の情けない姿の印象が強く、ゴキジの豹変した態度に正直驚いた。
俺はいとしんや宇留野といった、6年の時のクラスメイト達と、部活の話をしていた。
俺は既にサッカー部に入る事を6年生の時から決めていたし、慎ちゃんも俺と同じだった。
ただ、宇留野だけが依然としてサッカー部にするか、それとも野球部にするか決めかねていた。
「俺もサッカー部に行くぜ!」
突然、その輪の中にいたゴキジが偉そうにそういった。
俺はてっきりゴキジは野球部に入るとばかり思っていたので、サッカー部とは意外だったが、のちにワルの先輩達との関わりを聞いて、成る程と納得した。
俺達の輪から少し離れた所に、「森英治(仮名)」が独り、廊下側の掲示板に寄り掛かっていた。
英治とは確か、小学校1、2年の時に同じクラスだった事があるのだが、ほとんど口をきいた事がなかった。
俺は独りで佇んでいる英治に向かって話し掛けた。
「よう英治。お前部活どこ入るの?」
すると英治はこちらに顔を向け
「ああ!? テメェ馬鹿じゃねぇの!? 部活なんてやんねぇよ!」
掲示板に寄り掛かったまま、ポケットに手を突っ込み、吐き捨てるようにいった。
英治は俺に近づくと、睨みつけながら通り過ぎ、窓の方へ移動した。
英治の豹変振りには、ゴキジ以上に驚いた。小学校時代、更に目立たない存在だったから…。
ゴキジと英治。
この2人こそ、俺の暗黒時代に最も深く関わってくる人物なのである。
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