第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
家はもっとグチャグチャかと思っていた。倒れたものといえば、シャンプーくらいだった。
二人でホッとした。
家に帰った途端、自分がとても疲れていることに気づく。
けんちゃんなんて、もっとだろう。
新宿から恵比寿まで3時間以上かかっていた。
お布団をひいて、寝巻きに着替えた。
テレビは地震のニュースだらけで、同じ情報が何度も繰り返し流れていた。
今日はもうやめようと、少し見てテレビの電源を切った。
もういますぐ眠ってしまいたい。とにかく早く明日になって欲しかった。
ひどい眠気と、重くてにぶい体をあたたかい布団にもぐりこませた。
ここは安全みたいやしな。
けんちゃんがお布団をかけてくれる。
外には寝床のない人いっぱいいるやろうし。
なんか俺ができること、とりあえずやってくるわ。
けんちゃんはお布団にも入らず、汗だくになったTシャツだけ着替え始めた。
もうクタクタなはずなのに!
危ないとか余震が来たらどうするのとか、私がなにを言っても、
まほは寝とくんやで。何かあったら連絡するから。
と、いつものように笑っていた。
前、けんちゃんが話してくれた、タイで野宿した話を思い出した。
眠たいのに安全な寝床がないのが一番辛いって。
とんでもなく疲れているはずなのに、けんちゃんの背中はいつもどおり広くて大きくてシンプルだった。
真っ直ぐなその背中を、またじっと見るしかなかった。
ドアの閉まる音とともに、部屋が急に静かになる。
今日の出来事は、作り話のような、SF映画のような、現実味のないものに感じられた。
本当にこんなこと起こったのだろうか?起きたら普通の毎日がきたりして....。
一日の出来事がゆっくりリピートしていく。もう考えたくない。でもぐるぐるとまわっていた。
もし私が、今日死んじゃったら、後悔しかない。
なんで?
なんでだろう。
もっと、今を楽しめばよかった、って、思う。
いつも何かおいかけてばかり。
あれ?私は一体なにをおいかけてたんだっけ?
なにから、認められたかったんだろう...?
私、このままでいいの?
津波。酔ったサラリーマン。動かない電車。すぐ閉まった大手のファーストフード店。
家路をいそぐ人。今日のお客さん。ずっと待っててくれたけんちゃん。つよくにぎった手。
なにが正しい?
ぐるぐるぐるぐる、大きく渦をかくように、いろんなものが飲み込まれていく。
目がまわる。体が布団の底へ底へと沈んでいった。
私はもう何者にもなりたくなかった。
私は、わたしになりたかった。
目を閉じると、真っ直ぐなけんちゃんの背中だけが見えた。
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