第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
三千円だけ机に置いて、急いで居酒屋を出た。
3時間前だ。けんちゃんいるかな...!
余震も少しあったし、大丈夫かな?
とにかく走った。お酒が回って少しフラフラする。お酒なんか飲まなきゃよかった。
新宿のバイト先の電気屋の前は大きな交差点になっていて人が沢山いた。みんな電車がなくて、行き場がないのだろう。
人混みをかき分け、メールで書いてあった場所まで走る。
3時間も前じゃさすがにどこか移動してるかも...!
交差点の向こうがその東口前だった。キョロキョロしながら見える範囲を探してみる。
するとそこに、背の高い男の子が立っている。右手にはスケボーを持って、左手には重そうな袋。
それはけんちゃんだった。
3時間前の指定の場所にそのまんま、彼はそこにいた。
私を見つけ、けんちゃんが大きく手を振る。
けんちゃんの顔を見ると急に安心した。
交差点から一気に走って駆け寄った。
一瞬声が詰まる。なんでだろう。
けんちゃんが真っ直ぐ私を見ていた。けんちゃんの目はすごく、キレイで、その目には頼りない私が映っている。
お酒のせいか、走ったせいか、耳の奥で心臓の音がバクバクきこえる。
目の奥が、胸の奥が、熱かった。本当に熱かった。息が、できなかった。
交差点の車の音、人の声、混乱した空気、グチャグチャのその中で、けんちゃんと私は真っ直ぐ向かい合っていた。
にぎった手
地震があった時、けんちゃんは吉祥寺行きの電車に乗っていた。
先輩の家で宅飲みをするはずだったので沢山のお酒と、いつものトレードマークのスケボーを抱えていた。
電車がホームに着いたとき最初の揺れが起こった。
その時地震の衝撃でドアが開きっぱなしになってしまったらしい。
他の人が電車が動くのを待っている中、事態の深刻さを感じたけんちゃんは、すぐドアから飛び降りた。
余震が危ないのでスケボーを片手に、お酒の入った袋も持って、
迷わず吉祥寺から私のバイト先の新宿まで、10キロ以上ある道のりを走った。
それから、いつ携帯も復帰するか分からない中、同じ場所でずっと待ってくれていたのだ。
けんちゃんは笑いながら、お酒の選別をしている。ソーダやジュース類だけ残し、あとのお酒はおいていくようだった。
私はスケボーに座らされ、ジュースの入った袋は足ではさんで落ちないように固定した。
けんちゃんから出された右手を私も強く握った。
まるで犬の散歩みたいに、スケボーに座った私の手を引っ張って進んでいく。
ガラガラと音を立てるスケボーに女の子が乗ってる姿はなかなか面白いようだった。
歩いている人たちに笑われたり写メを撮られたりしながら
なんて調子に乗るいつものけんちゃんに安心した。
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