第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
また、けんちゃんはお金も時間も"ないない病"の私にぴったりの「一杯だけゲーム」というのもあみだした。
それはその名の通り「一杯だけ」という約束で、おもしろそうなカフェや居酒屋、バーに入るというもの。
学校の帰りや、やっと課題の終わった深夜に決行された。
どんなに忙しくても、時間やお金がなくても、その一瞬は最高に楽しかった。
そんな貴重な一杯を無駄にしたくないと、普段からおもしろそうなお店をさがすクセもついてしまった。
本当にお金のないときは、二人のお財布をひっくり返して、そのお金でどれだけ贅沢できるか!を考え出した。
おいしい生ハムを探し回り、家にあった飲みかけの安いワインと、大好きな音楽をかける。窓から入る風と夕日が最高に贅沢だった。
本当はいつでも今を楽しめるんや。
お金がなくても時間がなくても、けんちゃんは本当の豊かさを知っていたんだと思う。
それはちゃんと今を楽しむこと。それを体当たりで全力でユーモアたっぷりに教えてくれた。
2011年3月11日。
そしてついに、あの日がやってくる。それは2011年東北大震災。
その日は、新宿の電気屋さんでの派遣のアルバイトの初日だった。
私は一階のテレビコーナーにいた。
その時ちょうどお客さんと話しをしていて、そして急にフロアがガタガタと揺れた。
そしてまたテレビの説明に戻ろうと向き直した時
ガタガタガタガタガタ.......ッ
すごい縦揺れがした。
お客さんの悲鳴と店員さんの慌てる声。
そして何より凄かったのが、店員さんがすごい速さで大型高級テレビを押さえに走ったことだ。
プロである。
揺れはだいぶ長く続き、入り口のドアがオープンな作りのそのフロアからは外の様子も見えた。
悲鳴や叫び声。逃げて走る人、しゃがみ込む人。ビルがぐにゃぐにゃと揺れている。
少しして揺れがおさまりフロアも一旦落ち着いた。
お客さんは丁寧にお辞儀をして、ヒールをカツカツいわせ走って行ってしまった。
店内も、一階は無事だったようだけど、上の階のフロアが破損があったようで、お店を閉めるかどうかの話し合いがされているようだった。
「震度はどれくらいなんだろう?」
「結構揺れたぞ」
「震源どこなの?」
テレビのフロアだけあって、並べられている全画面が地震のニュースだった。仕事そっちのけでみんな釘つけになっている。
震源は東北。震度はコロコロ変わっていく。普通ではない。
すると、テレビの画面が急に変わった。テレビ一面をどす黒いグレーの渦が全てを染めたのだ。
「なんだこれ...!?」
最初見た時は私もこれが何か分からなかった。
「津波!?津波だ!!」
フロアが騒然となった。誰が東北出身だった、とか、実家に電話しないと、など急に緊迫した雰囲気になった。
だけど携帯も使えない。電波がないのだ。
すると、外でみていた人たちが情報を求めて一気にフロアに入ってきた。
フロアがとたんに人でごった返した。
人の体温と沢山の声、そして人、人、人、人。
店員さんの大声も全く届かない。
私たちスタッフも、立つ場所がなくなって商品を並べる段差を見つけてそこに立っていた。
段の上からは、テレビをかじりつくようにして見ている沢山の人がよく見える。不思議な光景だった。
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