第5話 (後編)アフリカへ行く彼から学んだこと【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
東京の空は気味の悪い色をしていた。赤っぽくてほこりっぽいような、見たこともない本当に不気味な空だった。
そしてぞろぞろとみんな歩いている。すごい人だけど、秩序だけは保ちながら、疲れていて、これからどうなるのか分からなくて、不安の重たい色の中、とにかく、みんな歩いている。
戦争のときってこんな感じやったんかな?
そんなことを思ってしまうような異様な光景だった。
そんな中けんちゃんは前だけ向いて私の手をひっぱりながらぐんぐん進んでいく。
私は、いつ来るかもわからない人をずっと信じて待てるだろうか?携帯も何もないなか。
電車が止まった時、けんちゃんはどうして迷いもなく走ってこれたんだろう。お酒の袋もかなり重かったはず。
とにかく線路をたどり、汗をかきながらひたすら走るけんちゃんが目に浮かんだ。
本当って、正しいって、なに?
新宿の街は、車も大渋滞で全然動いてなかった。すごい列になっていた。
普段は歩かないような距離を家に帰る親子。ヒールの女の人は足が痛々しい。
スタッフのためという理由で外資系のファーストフード店はすぐ店を閉めた。
毛布をくばってラウンジを解放しているホテル。
スタッフのはからいで、ホットコーヒーを無料提供しているチェーンのカフェ。
今日のお客さんは、お店の子が心配と10階のお店に走って戻った。
いちもくさんに高級大型テレビをおさえに行った電気屋の店員さん。
居酒屋で電車を待っていた、私。
一体何が正しいのだろう?
一体何を信じればいいんだろう?
いつも正確にくる電車は少しの事故でも大幅にズレる。緊急事態だと全く動かなくなった。
きちんとした背広のサラリーマンたちの今日は飲むぞー!という笑い声。
電車から飛び降りて会えるかも分からない私を迷いなく待っていてくれたけんちゃん。
生あたたかい気持ちの心地悪い風が体をなでる。
私はけんちゃんの広い大きな背中を見ていた。かたく繋いだ手は汗ばんでいる。
けんちゃんは何も持っていなかった。お金もないし肩書きもない。
あのサラリーマンのように素晴らしいキャリアもない。
だけど、けんちゃんはけんちゃんだった。どんな時でも、何者にもなろうともしてなかった。
ーじゃあ、私は?
けんちゃんの言葉がこだまする。
けんちゃんの目に映った頼りない私。
ー私は一体、なんなんだろう?
けんちゃんの引くスケボーは、ガラガラと音を立て私を乗せて坂をくだっていく。
今分かるのは、このかたく繋いだけんちゃんの手と、それを心地いいと安心している私のきもち、
これだけは本当だということ。これだけは信じられるということ。
それだけははっきりと分かった。
坂を下ると、けんちゃんの背中の向こうにやっとみなれた恵比寿のアパートが見えてきた。
けんちゃんの背中
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