お布団の中を誰もが安心できる「自分だけの巣」に。凸凹2人組がスウェーデンの福祉用具チェーンブランケットの普及啓発に奮闘
心の問題に対して、身体ケアからアプローチする
私は、大学生の時に「子ども会」というサークル活動で、毎週、小学生と公園で遊ぶ活動をしていました。その中に、大きなストレスを抱え、すぐに暴言や暴力をふるってしまう子がいました。それでも、毎週、彼らと一緒に身体を動かして遊ぶことを繰り返すと、暴言や暴力は次第に減少していきました。
「心と身体はつながっている」
そのように感じ、心の問題に対してカウンセリングやお薬だけではなく、身体を動かすなど身体面からアプローチする方法に興味を持ちました。
大学を卒業して社会人5年目のある日、知人から「チェーンブランケット」というものを広めようとスウェーデンから来日していたペレ氏を紹介されました。「スウェーデンではAD/HDやうつを抱える人たちのリラックス、安眠の方法としてチェーンブランケットが病院で保険処方されています。」とペレ氏は説明し、私にチェーンブランケットを貸してくれました。
写真)展示会を訪れた人に説明するペレ氏
チェーンブランケット(特許取得)の構造
重みのある金属製チェーン(※金属アレルギーとさびを防ぐ塗装がされているので洗濯機で洗える)が入っています。体にかけると、ピッタリ体側に沿って「包まれるような安心感」が得られるものです。シングルサイズで4kg・6kg・8kg・10kg・12kg・14kgから選べます。
私が初めて触った時は、本当に鎖が入っている重たいブランケットに衝撃を覚えましたが、すぐには自分で使用する気にはなれず(笑)、しばらくそのままにしてしまいました。
自閉スペクトラム症の少年との出会い
ペレ氏とは、定期的に連絡を取り合い、半信半疑ながらも日本での展開をボランティアで手伝っていました。特別支援教育の勉強会でチェーンブランケットを試しに展示させて頂いたことがきっかけとなり、特別支援学校の先生からの紹介で、自閉スペクトラム症のお子さんがお母さんに連れられてチェーンブランケットを試しに来ました。
彼は自傷行為の予防と自分自身の安心のために、身体にベルトを巻きつけた状態で、会話による意思疎通が難しいお子さんでした。
その場に居合わせた誰もが、チェーンブランケットで本当に彼がリラックスできるのか半信半疑でした。しかし、実際に試してみると、それまで落ち着きのなかった彼がベルトを外し、リラックスした様子で身体を横にして休んだのです。
お布団の中は「自分だけの巣」、安心できる時間
彼が安心して休んでいるのを見た時、自分自身が子どもの頃、重たい綿布団が「自分の世界にこもれる」感じがして落ち着いていたときの感覚を、ふと思い出しました。夏場でもクーラーをガンガンにつけながら冬用の綿布団を使っていこと、それで汗だくになって母親が困惑していたことなど、懐かしく記憶が甦ってきました。
自分にとって布団の中が安全地帯だったけど、そういうリラックスできる巣のようなところが無ければ、とても不安だろうと思いました。チェーンブランケットのような、身体刺激がよりクリアな製品であれば、安心感を感じ、落ち着ける人も増えるに違いないと思ったのです。
会社設立「チェーンブランケット」を日本に広める!
チェーンブランケットを通じて、リラックスすることが難しい人たちに「自分だけの巣」を提供したいと感じるようになり、多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいか、ペレ氏と相談しました。そして本国からサンプルを取り寄せて、全国各地で開かれる特別支援教育の勉強会や福祉機器の展示会などの行脚が始まりました。安い中古のミニバンを自腹で買い、2列目と3列目のシートを外して展示品や体験用ベッドなどを満載して、日本各地を回りました。
展示会では自宅で試してみたい人を募集し、オフィスに帰ってきてはお試し品を発送して、返却されたら洗濯してまた発送する日々が始まりました。
日本で商品サンプルを持って展示会を回っていると、本国のスウェーデンとは違いAD/HDやうつが背景で不眠に悩んでいる人ではなく、知り合えるのは、ほとんどが自閉スペクトラム症のお子さんとそのご家族でした。困っている人はたくさんいると実感しました。でも、構造が複雑なブランケットを輸入しているので、どうしても販売すると高額になってしまう・・・。
そこで、本当に必要とする人に自宅で納得いくまで試してもらい、その上で購入頂ける宅配レンタルサービスを本格的に開始しました。
世界初!歯科にも利用が広がる!
会社もできてレンタル品の在庫を増やせたので、イベント展示の回数もどんどん増やしていき、少人数のローカルイベントにも顔を出すようになっていきました。
大阪のあるイベントでチェーンブランケットを展示していたとき、「歯科の診療でも使ってみたい」と声をかけて頂きました。それが、大阪大学歯学部障害者歯科の村上旬平先生でした。
実際に使用してみると、落ち着いて受診できたばかりか、落ち着けないがためにそれまで必要だった拘束具を使用せずに受診できる患者さんもいたのです。
村上先生は障害者歯科学会の国内大会とアジア大会で症例報告もしてくださり、チェーンブランケットが歯科で使用されるきっかけを作ってくださいました。このことは、世界でも初めての取り組みだったのでスウェーデン本国のメーカーも大いに喜んでくれました。
コロナ禍で展示イベントがゼロ。大ピンチにスウェーデンから研究発表が!
歯科での利用がチェーンブランケットを知ってもらえるきっかけとなり、順調にレンタルから販売につながるサイクルができてきた頃、コロナ禍で展示イベントが相次いで中止になってしまいました・・・。これまで展示イベントを普及啓発の足掛かりにしていたことが裏目となり、みるみるうちにレンタルの申し込み件数が減り、レンタル品の在庫の山ができてしまいました。
しかし、10月になってスウェーデンのカロリンスカ研究所が発表したチェーンブランケットの臨床研究が医学誌に掲載されると状況は一変し、レンタルの申し込みが続々と入るようになり、レンタル品の在庫が見事にゼロになりました!
イベントが無くても、知ってもらえるように東京・赤羽に店舗をオープン!
コロナ禍でイベント展示が無い状況も2年目に入り、どうにか人に知ってもらえる機会を増やさないといけないと悩みました。
そこで東京都の商店街振興の助成金を活用して、東京・赤羽の商店街にお店をオープンすることにしました。チェーンブランケットのような主に精神障害を対象とした福祉用具は日本では福祉制度の助成対象から外れており、普及は容易ではありません。
それがまさか実店舗を構える日が来るなんて夢にも思いませんでした。コロナ禍で人々のストレスや不安は増しており、リラックス・安眠のためにチェーンブランケットを必要とする人は少なくないと思います。
一方で、福祉機器展や学会の展示は再開できず、知ってもらえる機会をどうしても増やさなければと思ったのです。
安心できる「自分だけの巣」をこれからも提供し続けられるように頑張ります!
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