自然災害により蓄積された経験を地域資源に。中越大震災等の被災経験から学んだ教訓を活かした「公益財団法人にいがた産業創造機構」の取組。
「新潟県の産業をもっと元気に」を使命に、チャレンジする県内企業を応援する公益財団法人にいがた産業創造機構(NICO)では、2004年に発生した中越大震災を契機に、震災の経験から得た教訓と新潟県が有する多様なものづくりの技術を活かした防災商品の開発や情報発信を、県内企業とともに進めています。
このストーリーでは、中越大震災を契機に始まった、公益財団法人にいがた産業創造機構の取組について紹介します。
2004年10月23日発生
中越大震災の被害の様子
(写真提供:中越防災安全推進機構)
中越大震災をきっかけに、「防災・救災産業研究会」を発足
新潟県の中央部、中越地方で最大震度7を記録し、大きな被害をもたらした中越大震災。この地震が発生した翌年(2005年)に、NICOは、防災商品等の開発に取り組む企業とともに、新潟県に新たな産業=防災・救災産業を誕生させることを目指して「防災・救災産業研究会」を発足し、防災分野の専門家を交えた会員企業とのディスカッションや商品開発アドバイザーとの開発ミーティング、情報発信などの取組を開始しました。
災害時でも、いつもと同じ美味しくて温かい食事ができる「レスキューフーズ」
研究会発足当時から会員のホリカフーズ㈱(新潟県魚沼市)の「レスキューフーズ」は、火を使わない発熱セットに、レトルトパックのご飯とおかずを一組にして、“いつもと同じ美味しくて温かい食事”ができる災害食です。
長年、防衛省向けに災害食を製造してきた同社が所在する地域も、中越大震災で震度6弱を記録し各所でライフラインが止まるなど、大きな被害を受けました。この「レスキューフーズ」は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに開発した商品ですが、中越大震災の被災経験を経て、さらに改良されました。
災害時にかかるストレスを、一つでも減らせるように
研究会会員企業の防災商品をまとめた「にいがた防災セレクション」(2010年3月発行)において、ホリカフーズ㈱の開発者は以下のように語っています。
発売当初は「しばらく地震は起きない」という風潮があり、なかなか売れませんでした。そんな矢先に中越大震災が起きたんです。まさかそこで自ら商品を利用することになるとは思いませんでした。その時に社内から『毎日違うものを食べている現代人は、同じ食事を何回も続けられない』という声が聞こえ、好きなおかずを選べるようにしたんです。困るようなことがあっても『災害時だから』と諦めたら、この商品は生まれませんでした。災害時には様々なストレスがかかります。一つでも事前に準備できれば、ストレスが一つ減ります。その食品の分野を担当するのが、当社の役目だと思っています。
当時から「とりそぼろ」「ビーフカレー」「牛丼の素」など、様々な種類がありましたが、現在では、さらにおかずの種類が増え、常温保存で賞味期間が3年6カ月の「ポテトツナサラダ」や「ぶり大根」などの単品でも商品化しています。
災害時に真に役に立つ商品の開発を続けて生じた新たな課題
このように、会員企業は自らの被災経験を活かすなどして、災害時に真に役立つ商品の開発を続け、災害食や避難生活用品、救助用品などの商品の充実につながりましたが、取組から15年近くが経った頃には新たな課題も生じていました。
1点目は、平時と災害時の需要量の差です。防災に特化した商品の場合、災害発生時に需要が集中しますが、一方、消費者においては、防災商品は「平時は不要なもの」という意識が根強くあるため、平時の需要が少なくメーカーにとっては対応が難しくなっていました。
2点目は、新たな災害への対応の必要性です。発生が危惧されている都市型災害では、避難所の不足や帰宅困難による「自宅・会社での避難生活」の大量発生が想定され、住宅やオフィスで一定期間を過ごすための備えが求められています。
これらの課題を踏まえ、災害時だけでなく日常使いもできる“防災性能を持った商品”を開発し、「生活と調和する防災商品」という新たな提案を目指すこととし、これまでの研究会を発展的に見直し、2019年に「防災×ライフ研究会」を立ち上げました。
「生活と調和する防災商品」を目指す「防災×ライフ研究会」の取組
この研究会では、主に3つの視点から取組を進めています。
1つ目は、商品研究。最新情報や知見を提供するセミナーの他、企業交流会を実施し、会員企業の商品について意見交換を行うことで、新たな商品へのヒントや、今ある商品の別の視点での活用など、新たな展開への気付きに繋げていきます。
2つ目は商品開発・改良です。新しい商品を一から開発するケースだけでなく、既存商品のデザインや機能の見直しによる改良も想定しています。その際、「災害食」や「マーケティング」、「商品開発」など、それぞれに専門分野を持つ4名のアドバイザーから協力をいただきながら、開発・改良に向けた取組を進めています。
3つ目は販路開拓です。開発・改良した商品が、消費者の皆様から実際に手に取っていただけるように、防災に関する展示会やイベントへの参加、会員であるメーカーと商品を販売している小売店との意見交換の場を設ける取組などを行っています。
会員企業の「災害時だけでなく日常使いもできる防災性能商品」を、2つご紹介します。
「レトロパインランタン」 ㈱グラノクス(新潟県燕市)
この商品は「日々の生活の中であかりを愉しむことができるランタン」を目指した、キャンドルのようなレトロモードとアウトドアで活躍してくれる高照度のランタンモードの2種類のLED光源を持つ2Way仕様のランタンです。高性能なリチウムイオンバッテリーを内蔵しているため、レトロモード弱に設定した場合、連続153時間点灯することができます。(気温により誤差があります。)また、防水等級IPX5をクリアする高い防水性能も有しているため、雨天時にも外へ持ち出すことができます。
普段は、アウトドアやベッドサイドで使いながら、災害の発生時には貴重な光源として活躍してくれる、まさにこの研究会のコンセプトに合致した商品です。
「レストルームビークル」 ㈱ニットク(新潟県魚沼市)
除雪機や重機の販売・リースを手掛ける㈱ニットクが、市販の軽トラックをベースに開発した自走式の仮設水洗トイレカーです。トイレカーの内部には、小便器と個室洋式便所、手洗い場、換気扇などが設置されており、快適に利用できます。とある建設会社の「現場の仮設トイレが原因で女性社員が辞めてしまった」という相談から開発がスタートしましたが、積載量に制限のある軽トラックの荷台にも関わらず、清潔感やゆとりがある空間を確保し、ストレスなく利用できるトイレを実現しました。
2022年、記録的な大雪によって、新潟県内の国道17号線が大渋滞となり、身動きが取れなくなった車両が多発した際には、このトイレカーが出動し、多くの方にご利用いただきました。災害現場にいち早く駆け付ける一方で、普段は、建設などの工事現場や、野外フェス会場などのイベント用のトイレとして、機動性を活かして多くの場所で活躍しています。
レストルームビークル外観
レストルームビークル内部
蓄積された防災・減災に関するノウハウを活かした、産官学連携のプラットフォーム「にいがた防災ステーション」
新潟県においても、度重なる災害経験から蓄積された防災・減災に関するノウハウや知見、商品開発技術などを産業に活かしていくために、産学官連携のプラットフォーム「にいがた防災ステーション」を立ち上げ、企業の開発担当者や、大学等研究者、行政関係者が参加し、新たなプロジェクトや新規ビジネスの創出、ニーズやシーズ、リソース等を融合した県全体の防災・災害支援力、産業の強化・成長、研究活動の促進、情報集約・共有を進めており、NICOの防災×ライフ研究会とも連携しています。
この取組の一つとして、2022年8月25日から9月1日に、主に首都圏在住者の方を対象に、防災に関連する幅広い商品等のプロモーションとして、JR新宿駅ミライナタワーにおいて「にいがた防災ステーション」のPOPアップストアを設置し、災害食としても使える商品や生活で役立つ商品など約60種類を販売しました。期間中には、新宿ルミネゼロを会場に参加型イベントも開催し、新潟県から食やエクササイズを通して災害にむけた備えを提案しました。
さらに、2023年3月、各家庭における災害に備えた食料備蓄の向上を目的に、新潟県内のスーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストア等の協力を得て、官民連携のもと、「ローリングストック普及キャンペーン」を実施しました。
「ローリングストックの普及」に関するキャンペーンプレスリリース
(令和5年3月6日)
今年度も引き続き、より多くの県民の家庭備蓄向上やローリングストックの普及を図るため、官民が連携してキャンペーンを展開し、県内外に向けて取組の拡大を目指していきます。
被災経験を地域資源として活かした取組の発信
このように、2005年から始まった新潟における防災への取組は、コンセプトを変えながら、現在まで続いています。
地震や水害、雪害など多くの被災経験を持つ新潟県ですが、この蓄積された経験を地域資源として活かし、災害が多発する現在においても時代のニーズを捉え、「いつかに備えて いつもの商品」となる商品の開発や研究に取り組んでまいります。これからも新潟から発信する防災の取組にご注目ください。
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