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シェフとサービスマンの兄弟が織りなす、フランス料理と日本ワインのペアリング。新たな挑戦にかける想いと葛藤。

著者: 株式会社エル・コーポレーション

株式会社エル・コーポレーションは、兄がシェフで弟がサービスという兄弟で経営しているフランス料理店です。スペシャリテである「魔法のフォアグラ」はたくさんのお客様からご好評いただいており、フォアグラ目当てにリピートされる方も多くいらっしゃいます。

最近ではフランス料理店でありながらも、ワインは日本産に注目し、フランス料理と日本ワインのペアリングという新たな試みも進めています。

フランス料理と日本ワインのペアリングをはじめるにあたって、葛藤もありました。

今回は「なぜ今、日本ワインなのか」という話をお伝えします。




兄・小川智寛(オガワトモヒロ)

箱根のオーベルジュ・オーミラドーをはじめ、京都のヌーヴェルフォンテーヌやロリヴィエを経て24歳で渡仏。ブルターニュのオーベルジュ・グランメゾンやアルザスのランスブルグ、カンヌのル・ムーラン・ド・ムージャンなど5つの星つきレストランで3年間修業。帰国後、東京(大崎)のラフェクレールのシェフを務め、2007年、麻布十番にエルブランシュをオープン。


弟・小川雅之(オガワマサユキ)

恵比寿のタイユヴァン・ロブション(現ガストロノミー・ジョエル・ロブション)でサービスマンとして働いた後、西麻布のブルゴーニュ専門ワインバー「ル・キャビスト」のソムリエとしてブルゴーニュワインのエキスパートとなる。その後、ラフェクレール(大崎)のマネージャーを務め、2007年、兄の小川智寛と共にエルブランシュをオープン。シェフソムリエ兼マネージャーに就任。




フランス料理店Aile Blanche(エルブランシュ)の看板メニュー、「魔法のフォアグラ」

2007年3月に麻布十番にオープンし、スペシャリテの「魔法のフォアグラ」が多くのお客様に愛され、現在18年目を迎えています。

エルブランシュのスペシャリテ「魔法のフォアグラ」のために選んだのは、フランス産の鴨フォアグラ。

フォアグラと言うと、ピューレにしたトウモロコシを、機械で無理やり流し込んで太らせると思うでしょう。でも、エルブランシュで扱うフォアグラはまったく違います。

鴨を自由に放し飼いにし、グランマイスという特別な大粒のとうもろこしを、一羽一羽、人の手で丁寧に与えたものを選んでいます。

そして焼き方にも秘密があって、普通ならば堅めのフロマージュのようなフォアグラのポワレを、外側の輪郭だけを残し、プリンのようにぷるんぷるんに仕上げ、シェリーヴィネガーをベースにした甘酸っぱいソースを添えて提供しています。フォアグラ初体験の人はもちろん、フォアグラを食べなれていらっしゃる方にも召し上がっていただきたい当店の看板メニューです。このスペシャリテの「魔法のフォアグラ」目当てに毎月のようにご来店いただけるお客様もいらっしゃいます。


しかし昨今の世界情勢や鳥インフルエンザの流行など、フォアグラが少しずつ入手しづらい状況になってきており、また仕入れの価格もどんどん上がっていてフォアグラを扱うのが難しい状況になってきています。



分かり合える兄弟だからこそできる、新たなレストランの強みを発見。

このままフォアグラだけに頼っていくのは厳しいという話をよく兄としていましたが、だからといってすぐにスペシャリテ(その店の看板メニュー)を新たにつくるのも、そして認知してもらうのもすぐには難しい。二人で悩んでいた時に思いついたのが「他のレストランにない強みは、僕たちは兄弟」ということでした。

エルブランシュがオープンしてから18年間、兄弟で一緒にお店を経営してきたからこそ、お互いの考えることがなんとなくわかる。これは他のお店にはない強みだと思いました。


幸いにも兄が料理人で僕がソムリエという別々の役割なので、兄の料理に対する考え方や味付けの仕方など、なんとなくどの方向性に持っていきたいのかがわかり、それに対してどういうワインが合うのかを考えるのは今までも当たり前のようにやっていたことでした。


しかし、ただフランス料理にフランスワインをあわせるのであればどこでもやっていることだし、それだけでは強みにはならない。 僕たちだからこそのなにかがないと意味がないと。


ちょうどその頃、フランスワイン、とくにブルゴーニュがどんどん値上がりしていく傾向で、不作もあり品薄で値段は高騰しつづけていたのです。

一方、日本ワインは、多くの研究者や生産者が技術を向上させるために努力したり、海外で得た知識を国内に持ち帰って醸造に取り入れたりしたことによって品質が向上していき、特に近年のヘルシー志向に基づいた世界的な和食ブームを背景に、食事と相性の良い日本ワインにもスポットが当てられるようになりました。


もちろん僕も日本ワインのレベルの高さに驚き、注目はしていたのですが、個人的に飲んでいたというレベルで、どうしてもフランス料理にあわせて、とは考えてもいませんでした。

お客様が帰った後に僕が酒屋で買ってきた日本ワインを兄にも飲ませ、最近の日本ワインのレベルは高いね、なんて話をしていたときに、ふと兄が「このワインにはこの肉料理なら少しソース軽くしたら相性いいかもね。」と考えてたりしたのを聞いて、フランス料理に日本ワインをあわせたらもしかしたら面白いのかも?と思うようになったのです。


もちろんまだ王道的なフランス料理に日本ワインをあわせるお店はほとんど見たことがなく、日本ワインが飲める店となると和食であったりワインバーであったり、西洋料理でもビストロのような大衆的なお店がほとんどだったので、はじめるに当たってすごく怖かったです。兄の料理はフランスの技法で造られる料理なので、当たり前ですがフランスワインとのペアリングは最高に美味しいのですが、日本ワインでは料理に対して物足りなさがあると思っていましたし。

それでも兄は好奇心をもって、得意とする火入れの技術は変えずに、例えばソースをもう少しバターを減らして赤ワインの風味をいかしてみたり、または仕上がった料理にオリエンタルなスパイスで香りにアクセントを足すことによって、余白のある日本ワインに寄り添ってくれるよう挑戦してくれました。そしてそれがきちんと王道的なフランス料理として仕上がってることもまた良かった点です。


料理に新たな創造を。料理人とサービスマンが高め合うことがお客様の笑顔につながる


僕たちが一番大切にすることって料理がクラシックかイノベーティブかとかではなく、むしろきちんと経験を積んできた料理人が料理することを本気で楽しみ、そこから新しい創造を試みることだと思うんです。そしてそれを受けてサービスマンもまたしっかりと自身の美意識をもち、その創造に敬意を表しながらお互いの感想を投げかけ、お互いに高めあっていくことが最終的にはお客様の笑顔に繋がるのだと思います。

その点でいえば、僕たちは兄弟であり料理人とサービスマンなので、今回の「フランス料理と日本ワインのペアリング」という点でもうまくやれていると思います。


いまエルブランシュでは「日本ワインを楽しむためのペアリングコース」を新たに作ったことにより、日本ワインに興味を持ってくださっているお客様に少しずつ広がっています。今後は日本ワインの生産者の方と繋がりをたくさん作ってメーカーズディナーなどで日本ワインの現状を発信していき、レストランという視点から盛り上げていきたいと思います。





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