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失われた息子の命をきっかけに設立した「川野小児医学奨学財団」  ー小児医療をめぐる課題に取り組む中で感じた、子どもたちの心と体を守るために必要なこと

著者: 公益財団法人川野小児医学奨学財団

「病に苦しむ子どもを減らしたい」 

川野小児医学奨学財団は、子どもたちがすこやかに育つことを願い、30年以上にわたり小児医学・医療・保健に携わる方々を支援しています。


財団名から奨学金のイメージをもたれることが多いですが、手がけている事業は幅広く、現在は6つの事業(研究助成、奨学金給付、小児医学川野賞、医学会助成、小児医療施設支援、ドクターによる出前セミナー)を行っています。


事業への想いや、小児医療をめぐる課題に取り組む中で感じていることを、理事長の川野幸夫、事務局長の川野紘子に聞きました。



息子のように病気で苦しむ子どもをなくしたい ー後悔から設立した財団


―理事長はスーパーのヤオコーも経営されていらっしゃるとききました。


理事長: そうなんです。ヤオコーは埼玉県を中心として展開しているスーパーマーケットなのですが、私は代表取締役会長を務めています。

事業内容が全く違うのでご存じない方も多いのですが、私は川野小児医学奨学財団の理事長も務めています。1989年に設立して今年で35年目になります。



―スーパーとは業態が全く異なりますが、もともと財団が設立されたきっかけは何だったのですか。




理事長: きっかけは、もう40年以上も前になりますが、当時小学校2年生だった長男「正登 (まさのり) 」を、ウイルス性脳炎という病気で亡くしたことです。

いまもって信じられないほど、あっという間の出来事でした。


それまでの私は、仕事のことしか頭にありませんでしたから、家族との生活の場は相当おろそかになっていたと思います。「正登」が亡くなって、「あの子は、お父さんを求めていた」と妻から聞かされ愕然としました。

そして、人の親としてあの子に何もしてやれなかったことを、つくづく悔やみましたが、後悔は先に立ちません。


このような出来事が背景にあって、息子のように病に苦しむ子どものために何かできないかと、この財団を設立しました。

現在、生活水準の向上や医学・医療の進歩と共に子どもたちの健康も増進されましたが、時には「正登」のようなことも起こります。


このような不幸な子どもを少しでもなくすことが当財団の大きな目的です。


医師、養護教諭といったキーパーソンの皆さんを支える ー子どもたちの健康につながる財団の取り組み


―実際の事業では、子どもたち向けの取り組みを行っているのですか。


理事長: 大目的は子どもたちの健康を守り、病に苦しむ子どもをなくすことですが、

私たちの事業では子どもたちへの直接の取り組みはしておりません。


どうすれば、より多くの子どもたちを救うことができるだろうか」

財団の役割を考えるなかで、思案を重ねました。


考えた末に、私たちは子どもたちの健康を守る方々をキーパーソンと位置づけ、キーパーソンを支援する事業を行うことを決めました。



―キーパーソンの皆さんとは?


理事長: 子どもたちに対して心身の健康を守る専門職の皆さんを、私たちはキーパーソンと位置づけています。


具体的には、子どもたちが病気になったときなどにケアをしたり、治療法などを研究する医師の方々。もちろん未来の医師である医学生も含みます。

それから、子どもたちが学校でケガをしたときや具合が悪いときに手当をする学校の養護教諭の先生方などです。


事務局長: 日本ユニセフ協会が出している2023年のデータによると、2021年の日本における出生から5歳に達する日までに死亡する確率は、出生数 1,000 人あたり2人となっています。

1990年以降、年々減少しており、他国と比較してかなり少ない数となっています。この結果は、日本の小児医療における発展によるものと思います。


ですが、子どもを取り巻く問題は本当に複雑で、多様になってきています。病気の治療だけではなくて現代の子どもたちの世界では「心」のケアも非常に重要です。


だからこそ、医師、看護師、養護教諭の先生といった職場、職種を問わず幅広い方々をサポートしていくことで、子どもたちの健やかな毎日を支えることにつながるのではと考えています。


キーパーソンの皆さんの一番のサポーターとなり、支援し、モチベートしていくことが私たちの役割です。




一般的に、医療の現場で働く方々については忙しそう、大変そうなどといったイメージはあるかもしれないですが、実際の声をお伺いしていると、それ以外にも多くの悩みをお持ちです。


学校の養護教諭の方々や保育園の看護師の方々にも同様にお困りごとがあります。現場の声をたくさん伺い、事業運営に活かしていきたいと考えています。


子どもたちにとって必要なことは手間もお金もかかる ー多くの小児科が抱える経営的課題


―医師や看護師、養護教諭の皆さんが多くの悩みをお持ちとのことですが、具体的なエピソードを教えてください。


事務局長: はい、色々とありますが、たとえば「小児医療施設支援」事業でのエピソードです。

この事業は、入院や医療的ケアを受けていらっしゃる子どもたちが過ごす環境をより良くするために、必要な助成金を交付する事業です。


過去に助成金を活用してくださった医療施設の方々から伺った悩みですが、「子どもたちのために購入したい物品があっても、購入するお金が不足している」とのこと。


実は経営的にいうと、小児科は採算をとるのが難しいと言われることがあります。


一因として考えられるのは、大人と同じ処置をするにも医療スタッフが多く必要ということです。

例えば、検査や注射などの処置をするときをイメージしてくださるとわかると思うのですが、子どもの診察や処置は動かないようにお子さんを支えたりと、人手が必要です。さらに子どもは夜間に症状がひどくなったりと夜間の救急も多くなります。



このように人手がかかる点に加え、少子化で患者が少ないこともあり、大きな病院でも小児科には十分な予算を割けないケースがあるようです。


そのような中でも、私たちが接点をもたせていただいた医療施設の多くは、経営的に不採算であっても子どものために寄り添ったケアを目指されています。

助成金を交付した施設に訪問させていただく機会もあるのですが、フロアに入るだけで子どもたちの安心感や楽しみをつくろうとする気持ちが伝わってきました。


助成金を活用くださった医療施設。子どもたちが安心できる環境づくりをされています。



例えば、ある施設では子どもがMRI検査を落ち着いて受けるために、動画を作成されていました。子どもにもわかりやすい言葉で、またかわいい人形を登場させながら検査の手順を説明した動画です。

大人であれば不安ならば鎮静剤を使う手段もありますが、やはり子どもには副作用のリスクもあり、こうした工夫をされているのだそうです。


診療外の時間にこういった動画作成をするのは容易ではありません。本当に頭がさがるなと思います。


医療施設のスタッフの方々がおっしゃっていた言葉ですが、

子どもにとって最適なことは手間がかかる。でも本当に子どもたちの心の安心や体の成長、発達にとってよいものを用意してあげたい。」とのこと。


コストパフォーマンス、タイムパフォーマンスといった言葉とは逆行するようなこの考え方こそ、小児医療の場では欠かせないことなのかもしれません。



―交付された助成金は、実際にはどのように使われているのでしょうか。


事務局長: 医療施設の皆さんが当財団の助成金を活用する際の用途は色々とありますが、おもちゃなどは多いですね。子どもにとって、おもちゃが身近にあることは、楽しい以上に意味をもちます。施設で過ごす間の安心感を得るためのグッズなのですね。


ですが、医療施設によってはそこまでお金がかけられないためにおもちゃをそろえられなかったり、そろえても(お子さんが使いますから)すぐ壊れてしまったりするので数が必要なんだそうです。

実際に助成金で購入された物をみるとお子さんたちが喜ぶ顔が目に浮かび、私たちもとても嬉しいです。


助成金を活用して購入されたおもちゃの一部です。



養護教諭や保育園の看護師の研修会へドクターを派遣する事業 ー双方をつなぐ架け橋に


―ほかの事業でもエピソードがあればお聞かせください。


事務局長: もう一つお話したい内容は、「ドクターによる出前セミナー」事業でのエピソードです。私たちが行っている事業では最も新しい事業です。


学校の養護教諭の先生や保育園の看護師の皆さんが開催する研修会へ、主に小児科の医師になりますが専門家を講師として派遣しています。


この事業は養護教諭の先生の実際の声を伺って始めたのですが、その先生が当初こんなことをおっしゃっていました。


「養護教諭の仕事に医学の知識は絶対に必要だから、適切な処置のために医師から正しい知識を聞きたい

でもどの医師にどのような方法でお願いをすればいいのか分からなかったり、金銭面で折り合いがつかなかったり…医師への依頼はハードルがかなり高い。」


養護教諭も医師も、子どもたちに対して同じように健康を支える立場であるのに、接点をもつのは難しいんですね。


実際事業を始めてみると、養護教諭の先生方、看護師の皆さま、毎回本当に熱心で聞きたいことがたくさんある印象です。緊急のケガや疾病に対する応急処置をロールプレイング形式で行ったセミナーもあります。


セミナーが終わると、すぐに活かせる内容だった、勉強になったという声を多くいただきます。子どもの身近にいらっしゃって、熱い気持ちをお持ちだからこそ、さらに知識を得ることで自信としていただけるといいなと思います。


過去に開催されたセミナーの一場面。

応急処置のロールプレイングを行っています。



―講師をされる医師の先生方は、事業についてどう感じていらっしゃるのでしょうか。


講師をしてくださる小児科医をはじめとする専門家の皆さんは、何度も講師を引き受けてくださっている方ばかりです。毎回ご快諾くださり、セミナー中の質問にも熱心にお答えくださいます。


以前に小児科医の先生からお話いただいたことで印象に残っているのが、

臨床に関わる者が教育現場の先生方と直接お話する機会を持つことは非常に重要だと思っています。ただ機会を設けることは非常に難しい。だからこそ財団が間にはいって機会をアレンジしていることがありがたい。」という言葉です。


「子どもにとっては、病院を受診する前に養護教諭の先生方といった、そばにいる方々にケアしてもらうのが一番負担がない、だからこそ現場の先生を支援したい。」とのこと。


私たちにとっても本当に嬉しい一言で、養護教諭の先生、医師の方々をつなぐことの重要さを感じます。



みんなでのりこえる ー異なる立場をつなげて多様な視点でスピード感を持って活動し続ける


―今後の事業運営についてのビジョンや想いを教えてください。


事務局長: 事業を語る際に、いつも話している言葉なのですが「みんなでのりこえる。」ということです。


現在私たちが手掛けている事業では、小児医学・医療・保健に携わる様々な立場の方を支援していますが、そういった異なる立場の方たちをつなぐことができればいいなと思っています。




子どもに関する同じ問題に取り組んでいるのに、職種や所属が違うために接点がもてないことも多い。一方、子どもに関する問題は日々うつりゆくもので、力を合わせて多様な視点でアプローチすることがスピードの面でも解決に向けて非常に重要です。




現在財団が行っている事業は6事業ありますが、おかげさまでお申込みをいただく件数、助成させていただく金額は年々増えております。これまで以上に、小児医療の発展のキーパーソンとなる皆様を支え、つなげる活動に力を尽くしていきたいと考えています。



<財団概要>

財団名: 公益財団法人川野小児医学奨学財団

所在地: 〒350-1124 埼玉県川越市新宿町1-10-1

理事長: 川野 幸夫(株式会社ヤオコー 代表取締役会長)

事務局長: 川野 紘子

設立: 1989年12月25日

行政庁: 内閣府

URL: https://kawanozaidan.or.jp/

TEL: 049-247-1717

Mail: info@kawanozaidan.or.jp

事業内容: 研究助成/奨学金給付/小児医学川野賞/医学会助成

小児医療施設支援/ドクターによる出前セミナー





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