絵本制作は、数年に渡る「観察」から始まる。生と死の循環を描く生物画家・舘野鴻さんの新作絵本『がろあむし』制作秘話
株式会社偕成社は、舘野鴻さんによる絵本『がろあむし』を2020年9月中旬に刊行しました。
幼少期から細密画の巨匠である熊田千佳慕さんに師事し、『しでむし』で衝撃的な絵本作家デビューをした、舘野鴻さん。小さな生物たちが全身全霊で「生」に向かい生きる姿を、緻密な画法で表現し、多くのファンを獲得してきました。あたらしい作品に取り組むごとに、数年にわたる観察からはじめる舘野さんの絵本づくり、最新作『がろあむし』について、お話を伺いました。
––––小学館児童出版文化賞を受賞した『つちはんみょう』より以前から取り組んでいらしたテーマだと伺いました。
『ぎふちょう』の作画中に、『つちはんみょう』のモデル、ヒメツチハンミョウの生態観察を続けていましたが、どうにも生態解明の糸口が見えず、半ばあきらめて別の企画を考えたんです。それがガロアムシ、2010年でした。もともとこの虫には興味があって、なにしろ目立った特徴がない、という特徴が魅力でした。優れた機能やきらびやかな見た目を全て捨てて、丸裸で生き抜いているような気がして。潔さというか、壮絶さすら感じたんですよね。
結局、ヒメツチハンミョウの生態は無事に掴むことができて、2016年に『つちはんみょう』を出版しましたが、そのあいだもガロアムシの取材はずっと続いていまして、作画終了後も解説ページの内容を満たすために最後の最後まで取材が続きました。地下の生きものは、まだまだ分からないことがたくさんあるんですよ。
––––絵本を描くにあたって、いつも緻密な観察をされる舘野さんですが、ガロアムシの観察はどのようにされたのでしょうか。
この虫のすむ環境は、大小の石ころが厚く積み重なった「ガレ場」と呼ばれる場所で、観察をするにはこれをひたすら掘るわけです(観察はその場所の管理者に許可をもらってから行います)。ヘッドランプを装着して、手グワを使って20〜80cmくらいまで掘ります。掘った断面をじっくり見ながら、そこでなにが起こっているかを観察しますが、透視ができるわけではないので、いつもその断面でしか観察ができません。地下の全体像を立体的、空間的に観察することは不可能です。
そこで、ガロアムシが実際にくらしている環境を再現するため、大工さんにお願いして、ガラスと木材を使用した密閉型の観察容器を作ってもらいました。その中を隙間ができるような大きさの石ころで満たし、さらにガロアムシをはじめ同じ場所にすむ大小の生きものを入れて飼育観察しました。ここでは、いくつかの食う食われるという関係が観察できました。ガロアムシの天敵を特定するのが1番の狙いでしたが、この装置でクロヤチグモがガロアムシを捕食することがわかりました。その関係をのちに再検証して、絵本の後半シーンに反映しました。
––––最後に『がろあむし』の「ここをみてほしい!」というところを、ぜひ教えてください!
そうですねえ、まずは先入観なしに、素直に読んでいただきたいです。そして1年後、5年後、10年後にまた開いていただきたい。10年後にはおそらく、『しでむし』からのシリーズが6作揃っています。このシリーズは『がろあむし』のメッセージなしに成り立ちませんし、『がろあむし』のメッセージはシリーズで読んでいただいて初めて明瞭になるものと思います。いまちょうど道半ばというところです。このあとも全力で絵本制作に取り組んでまいります。どうぞ応援をよろしくお願いいたします。
––––ありがとうございました!
舘野鴻さんへのインタビュー全文は、偕成社のウェブマガジン「Kaisei web」の「作家が語る わたしの新刊」で公開中! 絵本作りについて、より詳細な内容がご覧いただけます。ぜひご覧ください。
▼『がろあむし』紹介動画
▼『がろあむし』カバー原画制作風景
舘野 鴻(たてのひろし)
1968年横浜市に生まれる。故・熊田千佳慕に師事。演劇、現代美術、音楽活動を経て環境アセスメントの生物調査員となり、国内の野生生物全般に触れる。その傍ら景観図や図鑑の生物画、解剖図などを手がけ、写真家・久保秀一の助言を得て2005年より絵本製作を始める。『つちはんみょう』で小学館児童出版文化賞を受賞。おもな絵本に『しでむし』『ぎふちょう』(偕成社)、『こまゆばち』(澤口たまみ・文)『はっぱのうえに』(福音館書店)、『あまがえるのかくれんぼ』(かわしまはるこ・絵、世界文化社)、『宮沢賢治の鳥』(国松俊英・文、岩崎書店)など。生物画の仕事に『生き物のくらし』(学研プラス)、『世界の美しき鳥の羽根』(誠文堂新光社)などがある。
参考プレスリリース
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