【第10話】『ゴールは決めない』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
石和温泉。
2日目に泊まりたかった健康ランドの前を通り過ぎ、
景色は徐々に市街地へと変わっていく。
「人がいる。」
甲府市に入った。
これまで、道幅も大きく、ほぼ真っ直ぐな分かりやすい道だったため、
予想より早いペースで来れた。
さすがに山梨県の県庁所在地。
人の数が一気に増えた。
一般人に紛れて、旅人が一人。
ストックを持ち、大きなリュックを担いで、
日常的な風景の中に、全くそぐわない格好で歩く。
ちょっと恥ずかしかった。
サングラスをしていたため、あまり周囲を気にしなくて済んだが、
「何者だ?」
という気配が漂っていた。
初めは視線が気になったが、
誰もいない田舎道を歩いて来て、人がいる場所に出ると安心した。
自分が思っている自分と、
周りが思っている自分。
このギャップが僕は耐えられなかった。
人と付き合う
人に気を使う
こういったことに嫌気がさしていた。
自分を良く見せようと、人に気を使う。
人に好かれたいから、本当の自分を出せない。
本当の自分を出せないから、自分と周囲とのギャップが広がっていく。
人に好かれるために、人と関わるのか?
人に好かれるには、自分を偽らなければならないのか?
「コミュニケーションって何なんだろう?」
と思っていた。
自分を偽って生きていくのが人と上手く付き合う方法なら、
僕はもう、誰とも関わりたくないと思った。
だから、人との関わりを避けた。
会社の人、友達、家族でさえ、もう関わりたくないと思った。
「もう僕に構わないでくれ!」
「独りにさせてくれ!」
と思っていた。
でも、本当に独りになると、ただ人が居るだけで安心した。
人と関わりたくないのは、人が嫌いなのではなく、
自分が嫌われないための、
自分が傷付かないための防御策だった。
本当は、独りになって寂しいんだと思った。
自分が思ってる自分を誰かに認められたいんだと思った。
でも、本当の自分を認められないのは、
誰でもなく自分自身だった。
僕は、弱い自分が嫌いだった。
「強くなりたい!」
そう思って歩き続けていた。
今しか出来ないこと…
市街地では、地べたに座り休憩出来る場所がない。
事前に調べた情報によると、市役所や区役所は休めるらしい。
著者の坂内 秀洋さんに人生相談を申込む
著者の坂内 秀洋さんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます