【第16話】『最後の挑戦へ』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
どうしようかと思うが、体が痛くて何も出来ない。
宿を調べる気にもなれなかった。
そこにふと、観光案内所が目に入った。
ここで宿を聞いてみよう。
そう思い立ち、駅を出てすぐの観光案内所に体を這うようにして向かった。
「ここから近くて、なるべく安い宿ってどこですか?」
今思うと、結構ワガママな人間だ。
でも、この時はこれが限界だった。
観光案内所のおじさんは、
「昇盛館だったら、自転車のお客さんも多いし、安いんじゃないかな?」
僕はこの言葉を信じた。
「じゃぁ、行ってみます!」
「ありがとうございます!」
そう言って、観光案内所を出た。
そして、昇盛館に向かった。
本当にすぐそこだった。
昇盛館の入り口は引き戸になっていて、宿というより、家だった。
開けるのに少し戸惑ったが、もう体が限界だ。
ここに泊まるしかない。
そう思い、扉を開けた。
ガラガラ
「すみませーん!」
玄関から一番近い部屋からおじさんとおばさんが出てきた。
娘さんらしき若い女の子がテレビを見ていたが、僕が来たことで扉を閉めた。
「今日泊まれますか?」
「今日?」
「だ、大丈夫……?」
おじさんとおばさんは、目を合わせ、明らかに戸惑っている。
「急にすみません。日本海まで旅をしていて、観光案内所の人にここの宿を紹介されたもので。」
「へぇーモノ好きがいるもんだな!」
おじさんがそう言った。
酔っ払ってるのか、酔っ払ってないのか分からないようなおやじだった。
「あっ、ダメだ!お客さん来ないと思ったから、お風呂溜めてないわ!」
おばちゃんがそう言う。
「ダメかぁ…」
と思ったが、
おやじが、
「風呂なら温泉券あげればいいだろ!」
「近くに温泉あっからよ、連れてってやるよ!」
と言った。
どうやら泊まっていいらしい。
「◯◯〜部屋準備して!お客さん!」
部屋でテレビを見ていた娘さんに声を掛け、娘さんはちょっと不機嫌そうに、
「どこの部屋?」
と言って、階段を上っていった。
何だかすげぇ、申し訳ない。
こんなに歓迎されない宿は初めてだった。
料金は先払いだった。
思ったよりも高かったけど、
急なのに対応してくれたから、ここに泊まることにした。
「洗濯機ってありますか?」
昨日の七倉荘で洗濯が出来なかったため、今日こそは洗濯をしたかった。
「洗濯機は置いてないのよ〜」
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